【緋彩の瞳】 希い(ねがい) you were a half of me ⑥

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

希い(ねがい) you were a half of me ⑥

鉄の味が口の中に広がっている。たまらなく、つばを吐きだすように血を口から追い出した。
どこをどうやられたのかはわからないが、疲れの方がひどく痛みは鈍い。
「マーズの記憶がなくても、その剣を操ることができるのですね」
「……私も今日、知ったわ」
「魂は覚えているのでしょう」
「私はマーズを受け入れていないわけじゃない」
「………じゃぁ、また生まれ変われば、私の愛するマーズは戻ってくるはず」
「望まないわ。私が死んで、また生まれ変わることがあっても、私はマーズの記憶を取り戻したいなんて望まない」
戦うことなど望んでいない。戦う理由があるとしたら、何かを守るためだ。前世のマーズだってきっとそうだったに違いない。

月の王国を守るために戦っていたに違いない。
そう思ったけれど、マーズはコロニスに守られていたのなら、彼女を守りたいと希っていたかもしれないと思えた。レイがフォボスとディモスに守られながらも、彼女たちを傷つけたくはないと希う気持ちと同じものを、マーズもきっと抱いていたと思う。


せめて、それだけでも思い出してあげることができたら
嘘でも優しい言葉をかけてあげられたら


それを受け止めた緋彩は…コロニスは、レイに何を希うのだろう

「マーズは必ず戻ると。2人で平穏な世界を生きるのを夢見ていると……それなのに……それなのに!!!!」


左右からフォボスとディモスが飛び出してくる。
真正面から襲う剣を3人がかりで跳ね返そうとしても力が及ばず、身体が飛ばされて地面にたたきつけられた。切り刻まれずに難を逃れても、何事もなく立ち上がれるものではない。
それでも、コロニスはマーズ目がけて剣を振り上げてくる。
先に立ちあがったフォボスとディモスが、身を挺してマーズの身体を覆った。
2人がやられることを、覚悟した。

「フォボス、ディモス!何をしている?!下がれ!!」

コロニスの攻撃は誰も襲ってはこない。振りあげた剣が下ろされずにいるのは、フォボスとディモスがマーズを守っているせいだ。
「コロニス様!もうおやめください!」
「コロニス様!レイ様を殺しても、マーズ様はここには戻ってこないのです!」
叩きつけられた身体に少しずつ感覚が戻ってくる。マーズは膝をついて起き上がり、楯になっている2人の背中を押しのけた。
「レイ様!」
「レイ様!」
2人は“レイ”の名を呼んだ。コロニスがどれほどマーズを求めても、何一つ応えられない。

ここにいるのは“火野レイ”が変身しただけの人間だから。

「………あなたがどんなことを希ったとしても、何もかもは過ぎ去ってしまい、あの世界は終焉を迎えたわ」
「私にはいつでも“今”です。マーズを待ち続けているのは“今”なのです。私には前世などありません。過去も未来もない。今でもマーズを待ち続けているのです」
緋彩と言う姿は、コロニスと言う前世を背負う生まれ変わりではないと言うことなのだろうか。目の前のコロニスは、レイたちのように地球で生まれ育った人間ではないとでも言うのだろうか。
「………あなたの世界には、セーラーマーズしかない、というのね」
「幾千億の夜を待ちわびたのなら、あなたを殺して、また生まれ変わる魂を待つことくらいは、たやすいことです」

どうすればいいのだろう。

もう、“レイ”の身体は限界のラインを振り切っている。フォボスとディモスが犠牲になって、レイも死に、仲間も殺されてしまう。
そしてまた、来世で同じことを繰り返せと言うのだろうか。
どんなに生まれ変わっても、星が使命を忘れないとしても、事実は消せないとしても、記憶がなければ、何の意味もない。
つきつけられる真実を見つめたところで、それが自分だという記憶がない。


「コロニスが未来の自分を殺めようとするなんて、前世のマーズが知ったら悲しむでしょう。平和な世界を生きている未来の自分が、運命を分け合った人に殺されるなんて……」
よろめきながら立ち上がり、マーズはゆっくりと震える足で、剣を振り上げた姿勢のままのコロニスに歩み寄った。
「……マーズを返してください。私の希いはそれだけです」
かつてコロニスという影武者と、互いに半神と呼び合う関係だったというのは事実なのだろう。身に覚えのない記憶にないことでも、それが事実である以上、彼女がマーズを求める気持ちからは悪意を感じたりはしないのだから、敵とみなし殺すことは苦しい。
だけど、前世の頃も今も、マーズは、レイは、平和な世界で大切な人を守るために戦ってきたはずだ。

大切な人を守るために

コロニスはかつてマーズを守るために影武者として戦い続け
マーズはそのコロニスをきっと、敬愛していた
彼女の言葉に嘘は見えない

だけどもう、彼女の大切な人は、セーラーマーズは前世の記憶を焼き尽くし、灰にしてしまった
それはそう望んだのか、そうせざるをえなかったのか、レイ自身にはわからない

「レイ様、コロニス様を……どうか救ってください」
ディモスが背後で呟いた。
振りあげられたままの剣がまっすぐ降りれば、“レイ”の身体を切り刻むだろう。


「………コロニス、私の半神」


「マーズ……」

鏡を見るように、間近で見るコロニスはどこまでもマーズに似ていた
この姿でマーズを守り続けてくれた
愛を待ち焦がれ、微笑みながら涙を流すから
殺されてもいいかもしれない、とレイを惑わせた


半神

それは遠い、幾千億もはるか昔のこと






「レイ!!!!!!」



コロニスはその声に反応して振りかえった



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Date:2014/08/13
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