【緋彩の瞳】 ONE MORE KISS ②

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

ONE MORE KISS ②

白ワイン2本を空にしたみちるさんは、口調や表情を観察する限り、そこまで危ない感じには見えなかった。レイは時計をちらっと見ながら、とりあえずみちるさんを送り届けないといけないと想い、マスターに声をかける。お金を払おうと思ったけれどレイは手ぶらだった。
「みちるさん、そろそろ帰りましょう?」
「………そうね」
ちょっと反応が遅い。呂律が回っていないわけじゃないけれど。
「あの、お会計……は、いいわ」
酔っぱらっている人の財布からお金を出させるのも、ちょっとどうかと思う。父親の事務所に請求書を送るようにマスターに頼もうとすると、みちるさんが鞄の中から財布を取り出して、レイに渡してくれた。
「カードが入っているから」
「………あ、はい」
自分では取り出せないのかしら。それって、結構酔っているって言うことにならないかしら。
いりません、とも言えずにおずおずとみちるさんの財布を開けて、黒いカードをマスターに渡す。
レシートに書くサインをスムーズにやっているように見えるけれど、本当にちゃんと書いているのかはわからない。
「行きましょう、みちるさん。タクシーを呼んでもらっているから」
みちるさんの鞄を持って、いつもは白いはずの腕を掴んだ。思った以上に熱いのは、結構酔っぱらっている証拠。
「レイ、何か心配しているけれど……」
「みちるさん、自分が酔っぱらっていることはわからないの?」
「……ちょっと、歩くのが辛いかも」
「その程度?」
自分の限界を知らずに飲んでいたのだとすれば、それは心を許してくれているのか、何も考えずにストレス発散のために飲みほしただけなのか。

タクシーに乗り込んですぐ、みちるさんはレイに抱きついてきた。
香水のいい匂い。ドキドキしたけれど遠慮なく甘えるような感じで、これだけ酔えば隣に誰が座っても同じことをしている可能性もある。自惚れないように注意しないといけない。
「せつなさんたちに電話しておく?」
「いいわ」
「こんなに酔って帰ったら、驚かれるんじゃない?」
「かもしれないわね」
子供をあやすように背中をさすると、もっとレイに甘えてくる。普段こんな風な姿はどんなことがあっても見られないから、流石にちょっとどうすればいいのかわからなくなってきた。
「ねぇ、レイ?」
「はい」
「レイ、私のこと……好き?」


………素面なのかしら。それとも酔っているから聞けることなのかしら。

本気で答えてもいいのか、迷った。
でも、本気でも冗談でも答えは一つしかない。

「好きよ」
「私も好きよ」
レイの肩に顔を寄せてくるから、吐かれた吐息が鎖骨に当たって背中の方に震えが来る。気づかれないかしらと思うけれど、酔っぱらっているからそこまで勘も働かないかしら、なんて思う。
「あ、ありがと」
「レイは知っているのでしょう?」
「えぇ…知ってるわ」
なんていうか、自分で言うのもなんだけれどそれはよくよく分かっている。
「そうよね。知っているのよね」
分かっているけれど、みちるさんはだからって何かしてくれるわけでもない。
自分がどうしたいのかもよくわからない。
付き合ってほしいって言ってくれるわけでもなく、ただお互いに好きだという感情を渡して終わっているような感じ。
停滞中?
留まっているというより、みちるさんがどうしたいのかがよくわからないし、レイもみちるさんとどうしたいのか自分の気持ちがよくわからない。
「レイはずるいわ」
「……ずるいって…」
「ずるいのよ」
言い放ったみちるさんは、その理由を求めるレイの視線なんてお構いなしにレイにしなだれかかって目を閉じてしまう。
何がどう、ずるいのかわからない。
好きだと知っているのなら、レイから何かして欲しいということなのかしら。
と言われても、何をどうして欲しいのかもわからない。
「みちるさん?」
揺すっても、みちるさんは答えず身体をレイに預けたまま何も言わない。
「みちるさん?」
酔っぱらいって、その人の本性が現れるのかもしれない。
普段言いたかったことを、お酒の力を借りて言えるようになるタイプなのだとしたら
みちるさんがレイに言いたい本音は“ずるい”ということ?
どうせなら理由までちゃんと言ってくれたらいいのに、肝心なところで目を閉じて口も閉じてしまうなんて、ちょっとひどいんじゃないかしら。
かといって、叩き起すわけにもいかないし。
「お酒の力を借りる方が、よっぽどずるいわ」
そのおかげで、みちるさんが抱きついてきてくれているけれど、この場合は“誰にでも”という可能性も大いにあって“レイだから”っていう証言が取れない。
「まったくもぅ……」
みちるさんが素面だったら、“じゃぁ付き合ってって言えばいいでしょ”って拗ねて見せるのに。
みちるさんが肝心な時にこんなのだから、こうやっていつまでもお友達以上恋人未満の清い関係が続いているっていうのは、本人はちゃんと自覚してくれているのかしら。



「みちるさん、みちるさん」
しつこくしつこく身体を揺すり続けて、ようやくみちるさんは反応してくれた。
「………レイ…」
「お家に着いたわ。立てる?」
みちるさんのお財布から勝手に現金を抜き取って支払いを済ませると、みちるさんの両腕を抱えて引きずり下ろすようにタクシーを降りた。
車のせいで酔いがさらに回ったのかもしれない。足もとのふらつきは、お店を出た時よりもひどくて、肩を貸さないと1歩も出ない様子だった。
「記憶がなくなるくらい酔ったことがないって本当なの?」
「………本当よ……」
明日、朝目が覚めてみちるさんはこういう状況だったと覚えていてくれるのかしら。だとしたら“ずるい”の続きを聞いてもちゃんと答えてくれるのかしら。
あやしいけれど。
「はるかさ~ん!」
レイは閉ざされた門の横にあるインターフォンを押して、声を張り上げた。
無駄に広い庭の向こうから扉が開く。
「レイ、大丈夫よ」
みちるさんは耳元で大声を出されたのが不快だったのか、1歩も歩けないことが分かっていないのか、大丈夫なんて言葉を使う。
「まぁ、嫌なことがあった日くらいお酒を飲んでもいいと思うけれど。身体は大切にした方がいいわ」
はるかさんが近づいてきた。
レイはみちるさんを支えながら助け船を求めるように必死に片手を振る。
「だって、レイと2人で食事出来たんだもの。お仕事で嫌なこともあったけれど、レイと会えて嬉しかったのよ」
「そう?だったら、程々にしてくれてもよかったわ」
「……レイがいると、お酒がおいしくて」
「私のせいにするの?」
ごちそうになっている身だから取り上げずに飲ませていたけれど、やっぱり強制的に止めるべきだったかしら。今度からはしっかりと監視して、大丈夫なんていう最も信用ならない言葉は耳をふさいでしまおう。
「そうよ。レイのせいよ。レイが悪いのよ」

酔っぱらいはレイに抱きついてくる。
1人で立てないからそれはいいけれど。

「……いや、おいおい」

冷静にはるかさんが突っ込みを入れている。
レイはレイで、何が何だかわからなかった。

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Date:2014/08/13
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