【緋彩の瞳】 希い(ねがい) you were a half of me ⑦

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

希い(ねがい) you were a half of me ⑦

振りあげている剣の照準をみちるへ合わせようとしたその時、背中から熱い衝撃が襲う


「ありがとう……コロニス」


いつも、ごめんなさいと心苦しそうにしていたマーズが

ありがとうと囁いた


「マーズ……」
「愛する私の半神。…もういいわ。約束通り、私はここに戻ってきているでしょう?」
「マーズ……」
「ここにいるわ」




あぁ

あぁ


希いが……





身体を縛り付ける希いから解放される

この時をどれほど待ちわびたことか

もう夢と言う残酷な想いを抱くことなく
やっと星砂になれる








戴冠式が行われると通達された直後、マーズは息苦しさを覚えてベッドに倒れ込んだ。深紅のドレスに着替えたものの、部屋を出なければならない時間だというのに、起き上れない。
「フォボス、ディモス」
ネックレスを握りしめて、マーズはガーディアンを呼んだ。今は小さな姿となり、必要に応じてマーズのサポートをしている、コロニスが大切に育て上げた兵士。
「……マーズ様」
「コロニスに何かあったのでは?」
「…………いえ…何も…何もございません」
ドクドクと鳴る心臓は、痛みさえ感じる。何かあったのだ。
コロニスに何かが。何か戦いに巻き込まれているのだ。
「戴冠式は後どれくらいで始まるの?」
「20分後には」
「……終わるまでは?」
「およそ2時間後です」
それでも、この月の光はコロニス星には届かない。

助けに行かなければ……

「……待っていられないわ。コロニスに何かが…」
「何もございません、と申し上げました」
ディモスはマーズの瞳をまっすぐに見つめ、そして力強く言い切った。
その瞳はマーズの好きなコロニスの瞳と同じだった。
そして、信じて欲しいと懇願する優しくて寂しい瞳。
ゆっくりと起き上り、マーズは小さなフォボスとディモスを抱きしめた。
「………私に、あなたたちの大事なプリンセスを見殺しにして生きていけというの?」
誰のために月の王国へ来たのだろうか。
「マーズ様をお守りすることが、コロニス様の、そしてコロニス星の元に生まれた私たちの使命です。誇り高きコロニス様は、マーズ様が助けに来られることなど望みません」

そんなこと、彼女が生まれた時から知っている
彼女と出会った瞬間から、マーズという存在がコロニスを殺すのだということを

マーズが生きている限り、コロニスに安らぎなど訪れない


「涙など不要です。マーズ様!戴冠式はこれからなのです。この瞬間を、この平穏を、コロニス様は待ち焦がれていたのです。コロニス様の夢を奪うのですか?」
こんな弱い人間を守らなければならない彼女を想うと、月の王国で優しい花々に囲まれて生きていく自分が罰を与えられたように感じた。
「……フォボス」
いつかこんな時が訪れると、心のどこかで覚悟をきめていたことだった。
永遠に離れることになっても、彼女の命の方が大事だと思った。
遠く離れることが、コロニスを想っていることの証明になるはずだった。


コロニス
彼女はマーズのために死ぬ宿命からは、逃れられないと言うの


2人揃って、ずっと生きていけるかもしれないと、夢を見るようになったのはいつからだろう

コロニスを愛してしまったことが罪なのだろうか
生きていかなければならないことが、与えられた罰なのだろうか

「あなたたちは強いわね。きっとコロニスも誇りに思っているわ」
「嬉しいお言葉。私たちの命はどこまでも、マーズ様と共にあります」
一滴の涙が、ドレスに滲んだ。

鏡に映し出されたマーズの姿。
「……あなたはいつでもそこにいるのでしょう、コロニス」
愛しても愛しても、彼女と2人で平和な世界を生きて行くことなどできなかった。
そんなことは、わかっていたことなのに
希わずにはいられなかった


どれほどに愛しても
愛しても、愛しても


愛した瞬間から、彼女を死へ追い込むことなど痛いくらいわかっていたのに

「あなたに嘘を吐いたの……」
嘘だとわかっていながら、待ち続けると綺麗な瞳を輝かせていたコロニス
夢を持てたと微笑んだコロニス



戴冠式を終えたマーズは、“コロニス”という名前を二度と口にはしなかった。





「嬉しい、マーズ。幾千億の夜を繰り返し、私はこの瞬間だけを待ちわびていました。あなたの瞳に私が映し出される、この瞬間だけを」
「……ずいぶん待たせてしまったのね」
「マーズ。私の愛するマーズ。あなただけを想い、あなただけのために私は存在する。やっと思いだしてくれたのですね」
レイは愛しそうに自分の頬を撫でるその冷たい指先を握り、小さく頷いて見せた。
「コロニス」
「マーズ……」
「……もういいのよ。あなたは私のために全てを捧げてくれたわ。私はここにいる。あなたを抱きしめている。私の瞳に映るのはあなただけよ」
彼女が希うもの。
その希いを叶えるために、地球に降り立ち、レイの前に現れた。
「どれほど……再び会えることを希ったことか」
こんな風に想われることは、彼女が最初で最後だろう。
前世のマーズはひたむきにコロニスを愛したに違いない。
愛しいという想いを彼女に預け、半神のように愛したのだろう。

「愛しているわ、私の半神」

レイは生まれて初めて人に愛していると言った
言えなくて苦しくて、痛くて、諦めていた言葉を
素直に、息を吐くように口にできると思わなかった、重たいものだと思っていた愛を
恋と言う切なさではない、深い愛を

「……マーズ」

足の方から、柔らかい光に包まれて少しずつ星砂になってゆく

「安心して逝きなさい。そして、もう私のことを忘れていいの」
「私が……マーズを忘れてしまうことは、マーズに私を忘れられることより心が痛いというのに」
「いいの。もういいのよ」
「……マーズ………マーズ」
前世の自分を愛しいと思ってくれた人は、レイの胸に抱かれてさらさらと砂になってゆく。

星砂がレイの掌に一握だけ残る
風のない星

コロニスの亡骸だった星砂は、ゆっくりと螺旋を描くように空へと昇り始めた。

レイは掌を開いて、最後の一握りを見送った。

「…………彼女に嘘を吐いてしまったわ。何も覚えていないのに……嘘を…」

溢れては止まらない涙の理由は何だろうか
嘘を吐いた罪悪感なのか
それとも何か大切なものを失った喪失感なのか
救えなかったことの悔しさなのか
覚えていない自分への苛立ちなのか


「それがレイの優しさよ。正しいことだわ」
みちるさんがレイを優しく抱きしめてくれた

人のぬくもりが確かにある

レイの求めていた、生きている人の温度

「………みちるさん……」
悲しみの涙が傷口を広げるように、身体を襲う痛みは増してゆく
死んでもいいと思えた
死にたいと希ったことはない
だけど、死んでも仕方がないと思えた
コロニスに殺されるのなら、仕方がない、と

「レイ」
「…み…ち」
「レイ!!」

あぁ
それでも

生きなければならない理由がある

みちるさんの腕に抱かれながら、名前を呼び返そうとした



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Date:2014/08/14
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