【緋彩の瞳】 パニック?! ③

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

パニック?! ③


みちるの私服から勝手に選んで着替えも終わり、とりあえずうさぎたちと今日は帰ることにするからと告げた。
「そのほうがいいわね。また、日を改めて来るといいわ」
「リーダーに菓子折を持たせて土下座をさせに来るから」
「美奈子に?あの子たちには言わないっていうルールを最初に言い出したのはレイでしょう」
みちると幼馴染であることを。
家族ぐるみの付き合いが、物心付く前から続いているということを。
守るべき大切な人は本当のところ、うさぎより、美奈より、みちるやみちるの家族かもしれないと思ってしまう時がある。血は繋がっていないけれど、レイにとっては家族だと思えるくらい大切な人たちだ。でも、2人はあえて距離を少し取るようにしている。
お互いの弱さを知っているからこそ、周りに隠さなければならない。
強くあるためには、弱さを知っている人間に甘えてしまいそうになる。
みちるはそんな人間じゃないだろうけれど、レイがみちるを頼ってしまうだろうから。そんな姿をみんなに見せられない。
「大丈夫、その辺はうまくごまかすから」
「そう?よろしくお願いするわね」
美奈たちと馬鹿騒ぎを一緒にして来たけれど、何かみちると親しいというだけで、一線を引かれるかもしれないし。美奈たちはどこか、みちるたちに遠慮をしているところがある。学年が違うということよりも、やっぱり醸し出すものが近づけなくさせているのかもしれない。本当のところは物心ついた時から一緒にいたから、レイにはわからないけれど、たぶん、普通の子たちの感覚ではそうなのだろうと思う。だから、せっかくできた仲間との感覚を合わせていたいという気持ちもある。みちるが悪いわけじゃない。レイのどっちも欲しい我儘なのだ。そしてたぶん、その我儘をみちるもよく分かっているから、あえてみんなといるときは突き放したことを言ってくるときもある。今日は例外のようだけれど。
「ごめんね、みちる」
「気にしないわよ。ただ、ママがレイのことをひどく心配していたから……手遅れかもしれないわね」
あぁ、そっちがいたのね。
レイは頭を抱えながら、広い広いリビングへと先に降りて行った。




「あの子たち、急に一列に廊下に並んで正座したかと思えば、ぴくりともしないの。迷子ちゃんのお姉さんらしいわね。レイのご学友なの?」
リビングへと向かう途中の廊下で、気持が悪いくらいみんなまじめな顔をして、横一列に並んで正座をしているから、もしや深美ママがそうしろと命令したのかと思った。
「お、お友達…ですわ。おばさま」
「おばさま?…レイ、頭をぶつけたみたいだけれど、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ご心配なく。あ~えっと、その…」
おずおずと、レイもとりあえず美奈の隣に並んで正座をしてみる。
深美ママ、ここはお願いだから悟って。……なんてエスバーじゃないんだけれど。
「レイ?」
何の真似ごと?と言いたげな深美ママ。とりあえず咳ばらいを一つして呼吸を整える。
「このたびは、無断でおうちに忍び込んだ上、プールに飛び込み、ご心配とご迷惑をかけてしまい、申し訳ございませんでしたっ!」
「「「「も、申し訳ございませんでした!」」」」
レイはそう大声で言うと土下座をした。勢いよく頭を下げたせいで、うさぎとぶつけた額を今度は床にぶつけて、ごつんと響きわたる。となりの4人もレイをみならい、一斉に頭を下げた。ちゃんとゆっくりと。
「……っ~~!!!…ぅ…」
タンコブになってる、絶対。
声にならない叫びをあげるのをこらえて、頭を下げたまま小さく呻く。
「えっと……レイ、大丈夫?みちる、どうしたらいいのかしら?」
みちるの笑いをこらえる声が、背後から聞こえてくる。全部見られていたようだ。
「まぁ、こうやって深く反省をしているみたいだし。ちびちびちゃんを迎えにきて迷い込んだみたいで、他に何か盗むつもりもないようだから、今日のところはいいんじゃないの?ちゃんとちびちびちゃんを連れて帰っていただきましょう」
「それは、その……おとがめなしっていうことでよろしいでしょうか?」
頭をあげた美奈が、手を挙げて質問をした。もういいから、早く帰りたいのに。
「さぁね。もぅ、だいたいの事情はわかったからお帰りなさい。ちびちびちゃんにおやつを与えていたこちら側も、多少は責任があるわけだから」
深美ママが、小さな声で“私のせい?”とつぶやいている。2割くらいは深美ママにも責任があるんじゃないかとレイは内心思ったが、顔をあげてぶんぶんと首を振って見せた。
「本当にごめんなさい、あらためてお詫びにあがります。今日のところは失礼いたします。みんな、帰るわよ」
まくし立てて、レイは立ち上がる。命令された4人は元気よく立ちあがった。そのまま軍隊のように一列になり玄関へと一直線。
「あぁ、ちょっと待って。何を慌てているの、レイは」
5人並んで濡れたサンダルに足を突っ込もうとすると、深美ママが少し怒ったような声でレイを呼びとめた。
……だから、今日は、私たちは赤の他人なのに。
「ママ。火野先生の娘さんは、今日はとてもお忙しいのよ」
ね?とみちるが聞いてくるから、レイは振り返って小さくうなずくだけだ。
「いつも父がお世話になりまして、ありがとうございます」
みちるの白々しい“火野先生の娘さん”これは“私たちは親同士が知り合いなのよ”という作戦なのだ。
……たぶん。
「……みちる。そう、ごめんなさい“レイさん”。それは失礼いたしました。また、ぜひいらしてくださいね」
「きょ、今日のご無礼お許しください。また、改めてお詫びに上がりますから」
「お待ちしています」
みちるの言葉に何か感づいたのか、深美ママが急によそよそしく話し出すから、レイもほっとしたような寂しいような気持ちでそれに合わせた。
「うさぎ、ちびちびの手を離さないでね」
「うん」
「ではまた。失礼いたします」
仲間全員で一礼をして、扉を閉める。レイはみちると深美ママに心の中で“ごめん”と囁いた。


「“火野先生の娘さん”は、みちると幼馴染であるということは、あの他の子たちに隠しているの?」
レイたちを見送った後、話を合わせてくれたママが訊ねてきた。
「まぁね」
「ということは、みちるもあの子たちと知り合いなの?ここがどこなのか分かっていて来たという感じではないけれど」
仮に知っていたらチャイムを鳴らして入ればいい。
もちろん、知らないのなら余計にチャイムを鳴らして、事情を説明してから入ればいいのだけれど。
「一応、私もあの子たちを知ってはいるけれど。……レイのお友達なのよ。だからここが私の実家だっていうことは、レイ以外の子は知らないはずよ。レイだってみんなに言えないから、黙って一緒になって忍び込んだわけでしょう」
きっとレイは困った顔をしながらも何も言えず、だけどなるべく1秒でも早くここから立ち去りたかっただろうに。よりにもよって、レイひとりが気を失い、おでこにタンコブを作るはめになるなんて。
今日の運勢はきっと悪いのだろう。
「賑やかな子たちとお友達なのね。ちょっと安心したわ」
「レイのこと?」
「なんだかあの子たちのリーダーみたいじゃない?レイが人の世話を焼くタイプだったなんてね。甘えんぼうで我儘な子なのに」
それは、たぶん美奈子やうさぎが情けないからだろうけれど。
レイの甘えんぼうと我儘をうさぎたちの前でやられても、正直なところ嫌だし。
「でも、いつもレイだけがとばっちりを受けるみたい」
「あぁ……冷やしてあげなくてよかったのかしら、あの子のおでこ」
「本当だわ」
今頃、頭を抱えながらうさぎたちを説教しているに違いない。




「大丈夫?」
ちびちびを無事に捕獲して、まこちゃんたちともお開きになり、美奈子は額を赤くさせて肩をがっくりさせながらトボトボ歩くレイちゃんの髪をそっと撫でた。さっきまで歩きながら、ルナと一緒になってうさぎちゃんをガミガミと怒っていたから、疲れ倍増なのだろう。
「大丈夫じゃないわよ!何なのよ、今日の一日は」
「いや……私のせい?」
「うさぎと同じ学校なんでしょ?」
「ちびちびちゃんまで面倒見てないわよ」
「……あ~。今日は最悪」
それにしてもレイちゃんの着ている洋服は、みちるさんの趣味のような気がしてならない。というより、みちるさんのじゃないだろうか。美奈子たちに与えられたものは新品で、有無を言わさず着せられたけれど、レイちゃんのは真新しくもなさそうだし。
「まぁ、みちるさんの家の探検もできたし、新しい服まで貰っちゃったし。いいんじゃないの?」
「あんたねぇ。タダほど怖いものはないわよ?明日、改めてごあいさつとお詫びに行くんだから。ケーキでも買って」
「……やっぱり?」
「あたりまえじゃない。あんたと私で行くのよ」
「え~!」
「リーダーでしょ!」
そんな、名ばかりリーダーなのに。
まぁ、確かに人数分の服とか迷惑料を考えたら何もしないなんてことはできないけれど。うさぎちゃんを連れて行ったら、また何が起こるかわからないし。
「ところでさ、みちるさんのママとも知り合いだったんだね」
「………パパと知り合いだって言ってたでしょう?私はそこまで親しくないわよ」
レイちゃんはちょっと困ったように言葉に詰まり、それから嘘を塗るようにそっぽ向いた。
「ふーん。まぁ、そう言うことにしておいてもいいんだけれどね」
秘密にしなきゃいけない理由でもあるのだろうか。
別にみちるさんと親しい間柄だったとしても、それならそれでいいんじゃないかと思う。
ただ、レイちゃんという存在がぐぐーんとグレードアップされてしまうような気もしてしまう。
それがいいことなのか、悪いことなのか。
「そう言うことよ。それ以外には何にもないわ」
「私たちに気を使っているんでしょ?いいよ、もう聞かないし。それよりお腹空いたから、ご飯食べさせてよ」
アルテミスを家に帰らせて、美奈子はレイちゃんの腕を取り、神社へと続く坂を歩く。辺りはすっかり闇に包まれて、ほんの少しだけ涼しい風が吹いている。
「レイちゃんって、結構秘密多いよね。私とのこともみんなに秘密だし、みちるさんのこともみんなに秘密だし。何より、レイちゃん自身のことも。他にもいっぱいありそうね」
「さ~ね」
なんだかんだと、レイちゃんはみんなといて楽しそうにしているし、とりあえずは何も聞かないでおこうかな、と美奈子は思った。この前のスリーライツのコンサートのチケットも、どうしても取れなかったのに、何か都合よくみちるさんが現れてチケットを譲ってくれた。あれはきっと、レイちゃんがみちるさんに何とかさせたんだろうと、今、考えると納得がいく。何かと、みちるさんは都合よく現れて、みんなのことを助けてくれる。ただ同じ戦士で仲間だからだって思っていたけれど、一線を引いているような感じもある。でも結局、たぶんレイちゃんのことを助けてあげたいんだろうなって、なんだかそんな風に思えてきた。
少し嫉妬してしまう。だから、レイちゃんも言わないのだろう。
それはたぶん、美奈子やほかのみんなたちと肩を並べていたい、レイちゃんなりの心遣いかも知れない。
美奈子の知らないレイちゃんを、たぶんみちるさんは知っているんだろうけれど。
みちるさんの知らないレイちゃんを美奈子だって知っているし。
とりあえず、秘密ならそれでもいいかな。


「あ~…おでこにタンコブできてるよ、レイちゃん」
「どうしてくれるのよ、美奈」
「いたいのいたいの、飛んでいけ~~!」
額に口づけた。
「……いったいじゃないの!」
軽くしたつもりなのに、グーで殴られてしまった。
今度は美奈子が顔面強打の重傷になった。



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Date:2013/11/10
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