【緋彩の瞳】 雨 きまぐれBABY- ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

雨 きまぐれBABY- ①





寝付けないのは湿気を含んだ空気と、窓の外から漏れ聞こえる雨音のせい。
しつこく寝がえりをうっていると、左隣から温かくてしなやかな腕が伸びてきた。
「大丈夫?クーラー入れる?」
控え目に頭を撫でてくれる。指先が頬を掠めた。
「………ごめんなさい」
湿度は高いけれど、気温はそれほど上がってはいない。重たい空気が軽く頭痛とけだるさを身体に染み込ませて、眠りを邪魔しているだけ。レイは大丈夫だと言うつもりで呟いたけれど、みちるさんはクーラーのスイッチを入れてくれた。
「ドライにしたから、少しはマシになるわ」
「寒くならない?みちるさん、大丈夫?」
「大丈夫よ」
雨への苛立ちのせいで、みちるさんの誘いを拒否してダブルベッドの端っこの方にうずくまったのは、嫌いだからとか喧嘩をしたからというわけじゃない。
眠れない雨の夜にこうやって寝返りを繰り返しては、ため息と舌打ちを交互に吐く自分のせいで、彼女の眠りを妨げたくはなかったから。
「………ごめんなさい」
「いいのよ」
眠る彼女の体温は真冬には必需品になるのに、梅雨になると寄り添うことができなくなる。
どれほど愛していても、身体がふれあうことで生まれる温度のせいで苛立ちが芽生えて眠れなくなってしまう。
ずっと背中を向けていたレイは、いたたまれなくなって寝返りを打ち、みちるさんを見つめた。
暗闇の中、どんな表情をしているの。
クーラーをつけてセックスをするのも無理なのかと言われて、3日連続続く雨でもう、気力が奪われていると説明するとすんなりと理解してくれた。ここに来るのは2週間ぶりで。仕事で海外に行っていて久しく顔を観ていなかったのに、せっかくの夜にレイはベッドの隅に背を向けてうずくまる。
欲しいと思ってくれることを胸の奥では喜んでいた。せめてそれだけでも伝わればいいのに。
久しぶりに会っても、頭痛とけだるさのせいでうまく笑うことすらできなくて。
冷たい硝子には抱きつけるのに、みちるさんの腕の中には5秒といられない。
「みちるさん……怒ってる?」
こんな面倒くさい人間を相手にするくらいなら、もっと他にいい人がいるはずなのに。
「いいえ。レイの身体が心配だわ」
雨音と一緒に頭に降ってくる機械の音は、少しだけ罪悪感を乗せて吹いている。
「ごめんなさい、本当」
「いいのよ。とにかく身体を休めて。ね?」
髪を掬いよせて落としてくれた口づけ。触れ合わない愛は湿気を帯びて何に変わるのだろう。
呆れられたとしても、それはもう仕方がない。秋に始まった愛はまだ、どの季節も2人で過ごすのは初めてなのだから。
みちるさんの優しさに乗りかかるだけで、何一つ役に立っていない。
今もこうやって迷惑しか掛けていなくて。
「ごめんなさい、みちるさん」
「もう、謝らないでいいから。寝なさい」
嫌われてしまったら生きていけなくなる。この世界で唯一、嫌われたくはない人。レイが声に出して愛していると言える、ただ1人。
「おやすみなさい」
「おやすみ、レイ」
罪悪感に冷やされた身体。抱き締めるものは自分の腕しかないけれど、でも今はそうしなければ目を閉じることが出来ないでいた。



息苦しそうに寝返りを打っていたレイから、ようやく落ち着いた寝息が聞こえてきた。
ほっとする。
久しぶりに会えたのに、会った瞬間から憂いを帯びた瞳だった。
それが梅雨のもたらす大雨のせいだと話をされて、ひどく疲れた顔を見せるから。
会いたくなかったと思われているのではないかと不安だった。
日本がもう梅雨入りしたということは、どしゃぶりの雨の中、少し揺れがいつもより大きい飛行機の中で知った。到着予定時刻を30分ほど過ぎて、マンションに戻るタクシーもいつもより時間がかかった。それに苛立ちを覚えたけれど、それはレイに会う時間が削られていくから。自然の恵みの雨に苛立っても何にも出来ないって、よく分かっているから。

雨音を嫌いソファーにうずくまるレイは食欲もなく、生返事のようなものしか返ってこなくて。
抱きしめようとしたら、やわらかく拒否をされる始末。
かなりの気まぐれ屋さんだから、たいてい何があっても驚かないけれど、2週間会えなかった想いを伝えることを嫌がるなんて、ちょっと落ち込んでしまった。
大雨のせいで身体の体温調節がうまくいかなくて、温かいものに触れると気持ちが落ち着かなくなると言われて。最初はそういう言い訳をして、みちるが嫌になったということを柔らかく表現しているのかと思った。だけど、硝子テーブルに頬をくっつけて、冷たくて気持ちがいいなんて呟いているのを見てしまったら、信じるしか道は残されていない。久しぶりにレイのために料理が出来ると思い色々買いこんで帰って来ても、ぐったりして冷たいもの以外は食べられないと言う。身体に悪いから温かいものを食べた方がいいと言っても、今日だけは無理、なんて言って。
我儘と言うよりも、しゃべることすら辛い様子に、怒ったり注意したりなんてことは出来なかった。
雨の中、約束通りみちるに会いに来てくれたのだ。
マンションまで来るのに大変だったか尋ねると、会いたいっていう気持ちの方が強くて、何とか這うようにして来たんだとか。

秋は元気で活動的。
冬は寒いのに薄着でハラハラさせる。
春先には風邪を引いて寝込む。
梅雨のレイは不機嫌で食欲がなくて、要注意。
夏はどんなレイなのかしら。暑さで不機嫌にならなければいいのだけれど。


セックスの誘いを心苦しそうに拒否して、ベッドの端にうずくまる姿は弱弱しく、見ていてかわいそうだった。ようやく寝付いてくれたのは、ほとんど明け方に近い。その頃には長く続いた雨もようやく止んでいた。小さく呻きながら寝がえりを打つことに疲れたのか、やっと寝付いたレイは子供のような顔つき。
今なら触れても大丈夫かしら、と思ったけれど。
そのせいで起こしてしまっては可哀想すぎる。
時差ボケのせいで早く目が覚めたみちるは、触れない距離でレイを見つめていた。
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Date:2014/08/13
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