【緋彩の瞳】 過去をめくれば ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

過去をめくれば ①

お取り寄せには1か月かかると言われて、みちるが仕方なく向かった先は区が運営している図書館。
どうしても急に見たくなった画集はあいにく手持ちにはなくて、いったいどこで見た記憶があるのだろうかとじっくり考えてみると、日本ではなかったことに思いついた。
インターネットで調べてみれば、歩いて少しのところにある図書館で閲覧ができるらしい。

こうして、今みちるは静かな図書館に来ている。
滅多にこういう場所には寄らないけれど、熱心に本を探したり、窓際で楽しそうに絵本を読んでいる子供たちの姿はかわいらしい。
絵本のエリアを通りすぎて、洋書や画集が置いてある場所へ向かうと、心なしか薄暗かった。

誰も、めったにこういう物を手に取らないのか、あるいは幾分大きな本であるために、隅に追いやられてしまったのか。
持ち出し厳禁と大きく書かれてある本棚の一番下に、ようやく目当てのものを見つける。
イタリア語で書かれた宗教画の画集は、ほんの少しうっすらとほこりをかぶっている。年に1度の掃除で移動させる程度かもしれない。
もしみちる以外にこの画集を手にした人がいるのならば、どんな人なのかしら、と興味が湧いてしまう。

落ち着いて画集を広げられそうな場所を探しさまよっていると、学生たちが何やら勉強をしているテーブルがいくつも並んでいる場所があった。
大学生や高校生が、みんなそれぞれ、本を何冊も積み上げてカリカリお勉強をしている。
ひとりひとり区切られてはいないけれど、集中している者同士、他人が何をしていようとおかまいなしみたい。
優雅に一人静かに画集を広げるのは、図書館という場所では無理なのね、と理解したみちるは、それなりに人が少ないテーブルを探して少し歩いた。


見たことのある制服の後姿。
だけど見慣れない後姿。
好きな子だから、見間違いはないはずだけど、いつもと雰囲気が違っていて、ちょっとびっくりする。
まるで、みちるのために空けられた彼女の向かいの席。
そっと近付いて、顔を確かめるようにゆっくりとそこに腰をおろした。

やっぱり

レイ


夏服に衣替えしたばかりのまっ白な腕が、さらさらとペンを走らせている。
積み上げられている本は英文法や、英作文、シェイクスピアのロミオとジュリエットの原文と日本語の本。
たぶん、課題か何かで英語で感想文か何かを書かなければいけない、と言ったところかしら。
レイの目つきは真剣そのもので、当然みちるが前に座ろうともそんなものに見向きもしない。
いつだったか、レイの成績は悪くない方だということを誰かから聞いたことがある。
美奈子たちが勉強をしている姿をみたことはあるけれど、レイが試験勉強をしている姿は見たことがなかった。
それどころか、試験休みなの、と言って本来なら勉強にあてる時間にみちるのマンションに遊びに来てくれたこともある。
それでも、さすがにこの手の課題は何もしないわけにもいかないみたい。
思いついたように辞書を引いては、消しゴムで書いた文字を消して、考え込んでいる。
今まで見たことがない姿は、またもっと好きのポイントアップにつながってしまう。

じっと見ていようかしら、と思ったけれど、胸に抱きしめた画集の存在をふと思い出した。
レイがみちるの存在に気がつかない以上、邪魔をするのも悪いし、持ちだせない画集なのだから、ここで見ないと帰れない。
レイが立ちあがったらひっそりと声をかければいい。
そう思って、みちるはようやく画集を広げた。





「みちるさん」
画集を1ページ目から最後まで見ることを2度繰り返して、達成感のため息を漏らすと、向かいから小さな声で名前を呼ばれた。
「レイ。終わったの?」
「大体は終わったけれど。こんなところで珍しい」
使い終わった本を並べて、レポートや筆箱をカバンにしまいながら、レイが同じように達成感のため息を漏らす。
「見たいものがあって。レイとこんなところで会えるなんてね。一生懸命だったから、声をかけずにいたのよ」
レイは小さく笑って、座る前から気配で分かっていたわ、なんて返事が来た。髪をまとめてアップにしているのは、いちいち邪魔にならないためだろう。
正面から見ると、それはそれで似合っていてかわいらしい。
「みちるさんは、もういいの?」
「えぇ。頭の中に記録したわ」
それなりに古い画集だったから、においと一緒に絵も記憶できた。やっぱり見られてよかった。
見たいと思って行動したのは、レイに導かれたからかもしれないけれど。
「何の画集?」
「マイナーな宗教画よ」
クリスチャンの学校に通っているからか、レイが興味を示すように手を差し出したから画集を預けた。
パラパラとめくりながら、絵を流し見していく。
「……あ………」
最後までめくりおわると、レイが何かを見つけてつぶやいた。
「何?」
「…………」
眉をひそめて、みちるを見つめてくる。困った顔?さみしい顔?嬉しい顔?
複雑だけれど、それはすべて含まれたような顔。
「………ここ」
レイは堅い背表紙の裏を指さして、みちるに画集を戻した。

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Date:2014/08/13
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