【緋彩の瞳】 過去をめくれば END

緋彩の瞳

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みちる×レイ小説

過去をめくれば END

そこには、「持ち出し厳禁」の朱が色褪せた印鑑が押してあるが、かつてそれが持ち出せていた証拠がある。

20年以上前の日付とたった1人名前が書かれてあった。


おそらくそのあとで持ち出し厳禁になったみたい。
今となってはなかなか手に入らない貴重な画集なのだから、いたしかたないけれど。

「これがどうかしたの?」

20年経っても陽に焼けずにまっ白いままの貸出カード。
まさか、知っている人なのかしら。
みちるの手元に返ってきた画集を、何か想いながら見つめている瞳。
「……みちるさん、もう帰る?」
レイは鞄を持って立ち上がった。
話の続きは小声ではなく、きちんとしたいのかもしれない。
みちるは小さくうなずいて、静かな足音でレイと一緒に図書館を後にした。


レイはすぐに話そうとはせずに、みちるのマンションまで行ってもいいかと聞いてきたから、招き入れて夕食をともにすることにした。
レポートの作成は大嫌いで、集中して一気に仕上げるために図書館を選んだこと、学校の図書室は同じ考えのクラスメイトがいっぱいいて、わざわざ区の図書館に出向いたことを話してくれた。みちるはみちるで、見たくなった画集を探して図書館に出向いたのだと説明をする。珍しくレイからここに泊まりたいと甘えてきた。必死になってレポートを作っていた顔も素敵だったけれど、みちるにだけ甘えてくる表情は何よりも愛しい。

「レイ。そろそろ、あの背表紙のカードのことを説明してくれる?」
お風呂に一緒に入っている間も、レイからその話をされなかった。
急に話したくなくなったのか。それともレイの顔色を読み間違えて、本当は話したくなかったことだったのかと思い悩んだ。
「……あの画集って、昔は貸し出しをしていたのね」
「そうみたいね。1人だけ借りていたみたいだけれど。私が言うのも変だけど、マニアックよね。ルネサンス期の宗教画に興味がある人だったのかしら。でもあんまり有名な作家じゃないものばかりだから、きっとそういうのが好きなのね」
人工の光を落とし、レイの髪を撫で愛したいと誘いながら、ゆっくりと華奢な身体を抱き寄せる。レイはみちるの胸に少しだけ頬をすり寄せたけれど、すぐに離れた。
「綾瀬葉月って書いてあった」
「たった1人、画集を借りた女の子の名前?」
「そう」
レイは抱擁から離れるとみちるの瞳を見つめて、ちょっとだけためらっている視線を投げかけて来る。
「知っている子なの?」
「…………死んだ…ママの名前」

「……………え?」
「旧姓なの。ママの名前は旧姓で綾瀬葉月」
レイが見つけたのは、レイの母親の名前。
「ごめんなさい、ちょっとびっくりしちゃって」
レイから彼女の家族のことを語られたことはなかった。
おじい様のことはたまに聞くけれど、ご両親のことについて一切何も言ってこなかったから、みちるも一切何も聞かずにいた。
母親がいないことを間接的に知っていたけれど、みちるが好きなレイは目の前のレイだけだから、何も必要以上に知ることはないと思っていた。
「私もびっくりした。みちるさんが選んだ画集に、ママの名前を見つけたから。ママが好きだったものとみちるさんが好きなものが同じだったっていうのが、なんて言うか、むず痒くて」
唇を重ねる距離を縮められず、頭をそっと撫でてあげる。あらゆる感情をレイがどうみちるに伝えたいのか悩んでいるようで、ただ、抱きよせて優しく撫でてあげるしかできない。
「お母様は、宗教画が好きだったのかしら?」
「聞いたことないわ。ママはうちの大学の音楽部のピアノ科だったし」
「プロを目指していたの?」
「どうしたかったのか、わからないけれど。大学出て、あっという間に結婚したと思うわ。絵を描く趣味があるとか、絵画を観るのが好きなんて言うのは知らないの」

レイが彼女の母親に似ているところはあるのかしら。
どんな顔だったのかしら。
どんな声だったのかしら。
どんな気持ちであの本を手にしたのかしら。

興味が湧いても、全部をレイが知っているわけではないだろうし、何もかもを聞くのは可哀想なことかもしれない。
「そう。不思議な巡り合わせね。私、ふと急にどうしてもあの画集を見たくなったの。いつもは、海外からの取り寄せなんかをして待つことは平気なんだけど。あの画集だけはどうしてか、今日見ないと気が済まなくなって……。そうしたらレイがいて……」
それは奇跡と呼んでもよかったのか、あるいは必然だったのかもしれない。
「そういう偶然っていう言葉だけでは説明できないことが身近にあるって、初めて体験したわ」
「偶然というより、運命かもしれないわよ」
レイはみちるのシャツを両手で掴んで、それでも抱きついては来ない。余計なことを言ったかしら、と思った。
簡単に運命なんて口にしてはいけなかったのかもしれない。
「………私はあの画集に興味を持ったことなんて一度もなかったのに、私じゃなくてみちるさんがママに導かれるって、嬉しいようで素直に喜べなくて」
それが、レイとみちるの間にあるわずかな隙間の理由。
すっきりしない顔色の原因のひとつ。
「でも、あの名前を見つけたのはレイよ。私はきっと、レイとレイのお母様の過去を繋ぐためのお手伝いをしただけよ。だから、レイが導かれたのよ」
「………そうね」
死んだ人間に何も確認なんて取れないし、生きている人間は勝手に想像して決めつけてしまう。
でも、そうしなければ生きている人間は前を向いて強く生きられない。
「みちるさん、ごめんね。変な気を使わせちゃった」
「謝ること?私は嬉しかったの。あなたのお母様と同じ趣味を持っていたっていうことがね」
「だから、それがまた、……ちょっと複雑なの」
レイは苦笑いをしながら、みちるにきつく抱きついてきた。甘えるようにじゃれつくように頬にキスをしてくる。
「複雑って何?」
「だって………ほら、男の人はよく自分の母親に似た人を好きになるとか、求めてしまう、とか言うでしょ。私も無意識にそうだったのかしら、なんて……」
それは、レイからの愛の囁き。
愛していると遠まわしに言われて、でもそれは確かに複雑かもしれない。
「共通点は楽器をやっていて、宗教画に興味があるっていうところだけよ、今のところ」
レイが母親の名前を見つけたときに見せた、あの何とも言えない表情の本当の理由はそれみたい。
「………そうね。ごめん、私はみちるさんが気にしないかしらと思ったのだけど」
「全く気にしないわ。だって、私がレイを好きなんだもの。あなたが私の何を好きなのか、気にしないわけじゃないけれど、愛し合っているということに、具体的なものを求めたり、意味をもたせることなんて無意味だもの」
みちるは嫉妬されて、愛されて、結局は幸せだと知らされるだけの出来事だった。
レイにとっては色々と悩まされた出来事だったのかもしれないけれど、レイが想うほどそんなに大したことではない。
ただ、宗教画を一生懸命頭の中に記録させたのに、綾瀬葉月という人物のおかげで、半分以上を忘れてしまった。

「……私、海王みちるが好きだから」

一晩中愛し合って、明日レイを学校に送り届けたら、もう一度図書館へ行こうと思う。
同じ趣味を持つ同士を想いながら、今度こそ頭ではなく心に記憶しなければいけない。
「私もあなたが好きよ、レイ」

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Date:2014/08/13
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