【緋彩の瞳】 SAY LOVE ME 

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

SAY LOVE ME 

「レイちゃん!」
大声で彼女の名前を呼ぶ。振りかえり軽く手を挙げるしぐさ。遠慮なく抱きつくうさぎに、特に嬉しそうな顔をするわけでもないけれど、ほんの少しだけ上がる口角。
「うさぎ、遅かったのね」
「うん、美奈Pたちは掃除がなくてさ。置いて行かれちゃったよ~」
「そう」
うさぎが呼びとめるまで、ふわふわした気持ちでレイの隣を歩いていたのに。せっかく明日一緒にお買いものをしようという誘いの言葉を、口にし始めたところだというのに。
「ねぇねぇ、レイちゃんもクラウン行くでしょ~?」
「行くけれど。みんなもう来ているの?」

え、行くの?

みちるは声に出さずに、頭の中で疑問符を付けた。学校帰りに会いたいというメールを送って、待ち合わせ場所に来てもらったのはつい5分ほど前。確かに、会いたいということに対してレイは応えてくれた。ただ、顔を見たいと思った。返事をくれたというのは、当然、一緒にお茶でもして明日のプランでも立てるつもりで。
だけど、それはみちるの中で組み立てられたシナリオ。よく考えたらレイが今日放課後何をするつもりだったのかなんて考慮していなかった。ただ学校の近くにいたみちると会っただけで、レイの中ではみちるのお願いを達成したことになるのかもしれない。
「うん、たぶん。今日から期間限定のマンゴーパフェが食べられるんだよ」
「そう。まぁ、私はいらないけれど。あ、みちるさんも行くでしょ?クラウン」
「え?……えぇ、そうね」
パフェには興味を示さないのに、みちると一緒にいてもクラウンに当たり前のように行く。それがレイの放課後の行動パターンの一つ。2人で会いたいとメールに書かなかったのが悪かったのかしら、と自分を責めてみる。
「数量限定らしいから、急ごうよレイちゃん!」
「はいはい」
うさぎに引っ張られたレイは、それに逆らうことなく小走りになる。置いて行かれちゃうけれど、まさかうさぎの対になってレイの腕を引っ張るわけにもいかないから、少し後ろを付いて歩くことが精いっぱい。

あぁ、せっかく会えたのに。

別に目の前から消えたわけでもないのに、どうしようもなく腹立たしい気持ちになる。
腹立たしいのは、何に対してなのか。うさぎ?それともレイ?
きっと、みちる自身に対してだけど、ちょっとそれもまだ認めたくはない。



「レイちゃん、パフェ食べないの?」
「別にいいわ。一口もらうつもりだから」
先に来ていた亜美たちに軽く手を振り、レイは当然のように美奈子の横に腰をおろした。Uの字に並んでいる椅子だけれど、レイは詰める様子もないから、しかたなく向かいに腰を下ろす。
美奈子の問いかけに軽く否定の手を振り、レイは宇奈月ちゃんにサントスを注文した。みちるもひとまず同じものを頼む。
「一番大きなマンゴーを食べたら許さないからね」
「はいはい」
何よ、その一口もらうっていうのは。みちるはまさか、美奈子とレイが“あーん”なんて目の前で始めるのではないかと想像して、想像する自分を責めた。考えがばかばかしすぎる。でも、それって間接キスするって言うことじゃないかしら、と、ふと思った。
「ねぇ、誰か明日デパートのプレオープンに行かない?パパから招待状もらったのよね」
パフェの登場を待つ間、美奈子は鞄からひらひらとチケットを取り出してみんなの前に見せた。
「プレオープンなら、人少ないってこと?」
最初に反応をしたのはレイだ。
「うん、あんまりいないかな。オープンしたら多いと思うよ」
「へぇ。少ないなら行こうかしら」
ひらひらのチケットを美奈子から奪うと、内容を確かめるように読み始めるから、みちるは目を見開いてちょっと待ってよ、と心の中で大声を出した。
明日、それにレイを誘おうとしたのはこっちが先じゃない。さっきレイと歩きながらその話をしようとしていたのに。二人でお茶をしながら、待ち合わせやどこかでランチを取る計画を一緒にしようと思っていたのに。みちるの方が先なのに、って。

あぁ、言いたい。

「……みちるさん、どうしたの?ほっぺた、ぷーってなってる」
サントスと美奈子たちのパフェが運ばれてくる。パフェを食べようとした隣のうさぎが、一口目を頬張りながらみちるの頬をつついてきた。
「もしかして、みちるさんもパフェが欲しい?」
「違うわよ」
まことと亜美は仲良く2人で1つを分けている。レイはミルクを入れてサントスを飲みながら、美奈子にチケットをもらってもいいかと確認をしていた。
「どしたの?ぷーって。お餅焼いたみたいだよ」
うさぎはしつこくつついてくるから、みちるはその指を握って、にっこりとおやめなさいってほほ笑んで見せた。たぶん、目は笑っていない。
「……あ~。そかそか!」
うさぎは何か怯えて黙って頷いているけれど、そのやり取りを観察していただろう美奈子が、ぽんと手を叩いて、それからレイの手からチケットを奪う。
「ちょっと、何よ?」
「レイちゃん、みちるさんもきっとこのチケット持ってるから、みちるさんと行きなよ」
「え?そうなの?」
美奈子はエスパーかしら。にやりとした顔は憎たらしい小悪魔の角を生やした天使だわ。そもそもチケットを出さなければいいのに、と思ったけれど、別に美奈子はレイを誘ったわけじゃなくて、“誰か”と言ったのだ。責めるに責められない。
「でしょ?」
「……えぇ。デパートに入っているお店の関係者と知り合いなの。一応あなたたちの分ももらっていたのだけれど」
みちるは5枚のチケットを鞄から出して、テーブルに並べた。もちろんレイと行くつもりだったから、彼女たちに会えれば渡すだけ渡して後は各自で行ってもらおうと思って。
別にプレオープンは明日だけじゃないし。
「そう。じゃぁ、みんなで行く?」
レイは美奈子の手からスプーンを取り、クリームのかかったマンゴーを盗む。パクっと口に入れた時の表情は、ちょっと可愛い。
可愛いけれど、口にした発言はいただけない。



「……馬鹿じゃないの、レイちゃん」
「本当、流石にそれはないよね、レイちゃん」
「もう少し、考えてあげるべきよ、レイちゃん」
「うさぎでさえ、そこまで鈍チンじゃないよ、レイちゃん」

みちるが想っていたことを次々に口に出したのは、美奈子たち4人だった。この子たちは敵なのか味方なのか、いまいちよくわからない時があるけれど、今はとりあえず味方になってくれたみたい。
「……何よ、みんな」
レイは眉をひそめて怪訝な顔をして見回していた。
「……ありがとう、みんな。でも、当の本人がこれだから」
そういうところも含めて好きなのだけれど。
「報われないねぇ、みちるさん」
そういう美奈子は、間接キスしていることを何とも思っていない。
気心知れた仲良しだろうから、そんなところで嫉妬をしても何の意味もないってわかってはいるだけど。
「そうね、あまり報われないわね」
「何の話よ、みちるさんも」
会話の内容がわからないレイは、自分が話題の中心であることが腹立たしいのか少しふくれっ面だ。それもまた、可愛い。
「応援しているからね、みちるさん」
その美奈子の言葉はうさんくさい。ちょっと馬鹿にされているような気もする。
「そう?なかなか2人にさせてくれないのよね、周りが」
「何よ、私たちが邪魔だとでも?」
「そうは言わないけれど」
みちるは美奈子たちにレイが大好きだと言ったわけでもないのに、なぜだかもう公然の事実になってしまっている。そんなに態度に出したつもりはなかったはずなのに、レイにだけどうやら全く態度が違うらしい。選ぶ言葉やしぐさ一つをみていたらわかる、とか。だったら、どうしてレイはわかってくれないのかしら、と思うのが自然だ。
「みちるさんがしっかりしないからでしょ?」
「しているわよ。レイが鈍いだけよ」
サントスのほろ苦さをまろやかにするのは砂糖でもミルクでもない。
「もっと積極的にするべきだと思う。うざいくらいがいいんだって、ね?うさぎちゃん」
「うんうん」
勝手に美奈子はうさぎに同意を求めるし。うざいぐらいって、レイがそれに引いてしまって嫌われたらどうしてくれるのかしら。今だって、話のダシにされていて顔がうざいって言っているのに。
「鈍いって言うけれど、勝手にふくれっ面をしているのはいつもみちるさんじゃない?」
レイはみちるに聞こえるように呟くと、美奈子が大切に残していたと思われる大きなマンゴーの塊を口の中に入れてしまった。
「……あぁああ!」
美奈子の悲壮な叫びはフロア中に響いた。
ふんっ!ってふくれっ面をするレイが可愛くて可愛くて。
「レイちゃんの馬鹿!」
「食べないからいらないと思って」
「私は楽しみを最後に回す主義なのよ!」
「そんなことしているから、こうなるんでしょ。残しておくと誰かに取られちゃっても文句言えないわ。好きなものはすぐに食べた方がいいわよ」
それは、あきらかにみちるに向けられた言葉だった。美奈子たちに筒抜けでレイが鈍いというわけでもなく、レイは確信的にしているのではないか、と疑うことが何度もあったけれど、やっぱり確信的にとぼけていたみたい。
憎たらしい子ね、本当。
「くそ~!レイちゃんがパフェの代金払ってよね」
「嫌よ」
「何よ、でっかいの食べたでしょ?!」
「いらないって思ったもの」
「見てわかるでしょ?!」
「何となくはね。でも、はっきりと口にしてくれないとわからないわ」
「このあほ~~~~~~~!」
みちるの頬にためられた嫉妬はいつしか消えている。なにかレモンソーダを飲んだようなすっきりした気持ちになった。フロアを歩く宇奈月ちゃんを捕まえて、まだ残っていたら美奈子にもう一つパフェを作ってあげて欲しいと頼み、全員分の代金をみちるが持つからとひそひそと伝える。

“口にしてくれないとわからないわ”、なんて。

あきらかにみちるに対して言っている。
知っていて知らないふりをいつまで続けるつもりかしら、と思ってさりげなくデートに誘ったり泊まりに誘ったりしても、いっこうに何もないレイとの関係。
はっきりと好きだと伝えたことは、一度もない。付き合ってほしいとも声に出したことはない。だからたぶん、レイはいつまでも接し方を何も変えてこないでいたのだろう。
きちんとした言葉がない以上何もしないでいるつもりらしい。
「まぁまぁ。美奈子、宇奈月ちゃんがもう一つ持ってきてくれるから、機嫌を直しなさい」
「え?本当?!レイちゃんがお金払うの?」
「何で私が」
「いいわよ、私が出してあげるから」
「おぉ、流石。愛しのレイちゃんを庇うんだね」
冷やかしと新たなパフェを期待する美奈子の笑みに、みちるも負けじと満面の笑みを返してみる。
「そうねぇ、きっと惚れた弱みなのかしら」
「へぇ。だってさ、レイちゃん」
美奈子にからかわれた本人はと言えば、薄く桜色に染まった頬をふくらませて、思いきり“ふん!”ってそっぽ向けている。
「聞いているの、レイ?」
形勢逆転のみちるは、意地悪たっぷりにレイに聞きなおす。
「…………私が鈍いわけじゃないわよ」
あぁ、なんて可愛いのかしら。
拗ねた顔もやっぱり好き。その言葉を待っていましたと言わんばかりに、美奈子とうさぎの頭からにょきにょきと小悪魔の角が生え始めている。
「好きよ、レイ」
「ばっ……なにもここで言わなくてもいいでしょ?!」
真っ赤になったレイがバン!とテーブルをたたいて抗議してきた。
「いいじゃない。みんな知っているんだもの。レイだって知っているのでしょう?」
「そ、…そうだ、け…ど」
2人きりで星空の下で愛していると囁いて欲しかったのかしら。
でも、これは単に周りから冷やかされたくないだけの怒り方。
「いいじゃない。ハッキリしないのが嫌、でしょ」
レイは何か言おうとして口を開けていたけれど、吐かれたのはため息だけで眉をひそめて口を閉じた。何が言いたかったのかはわからない。
「……愛されてますね、レイちゃん」
「うるさいわね」
「こういう人を好きになったレイちゃんも悪いと思うよ?相思相愛よね」
「……うるさいって言ったでしょ」
「…ごふぅっ!」
レイのパンチが美奈子の腹部にストレートで入った。
美奈子は今、重大な言葉を口にしたのではないかしら。
確かめようと思っても、パンチの威力で呻いているから、聞くに聞けないし。
「レイ、美奈子がさっき言った言葉は何?」
「何でもない」
「言ったでしょう。相思相愛って」
「言ってない」
レイはみちるではなく、美奈子の代わりに何かを言おうとしているうさぎを睨みつけている。
まことがそれを察して、うさぎの口を手でふさいでいた。

そういうこと、ね。

「レイ、あとでうちにこない?」
公開告白をさせるのもかわいそうだし、レイはみちると違ってここで素直に気持ちを口にしてはくれないだろう。
「………いいけど」
ポツリ呟いたレイの逃がした視線。照れている時も都合が悪い時も、視線を逃がすレイの癖は、よく観察してみると、わずかに本音が瞳に映し出されている。
残ったサントスを飲み干す。何も入れていなかったサントスはさっきまで苦かったのに、最後の一口は嫌なくらい甘ったるい味だった。

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Date:2014/08/13
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