【緋彩の瞳】 夢の夢の中で

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

夢の夢の中で

愛する人に触れたくて腕を伸ばしたら
温もりがなかった
ひんやりとしたシーツの波間を泳がす腕に
いつもは絡まってくる漆黒のさらりとした髪の感触

ない

シャワーでも浴びに行ったのかしら
お水を飲みに行ったのかしら
まさか、ベッドから落ちちゃったのかしら
それとも、みちるの傍で寝ることが嫌で帰ってしまったのかしら

確認しないと
瞼を開けて、名前を呼べば、
もしかしたら部屋の中にはいるかもしれない

ほら、早く
瞼を開けないと

強く願って瞼に力を入れているのに
闇から抜け出そうとする気配が来ない

ほら、何をしているの
瞼を開けて、身体を起こして
そして名前を呼んで

ほら、はやく
どうしたの?
ほら、はやく

自分自身に命令しているのに
瞼の筋肉に変化が現れることはない

もしかしたら
本当は瞼も開けているし、身体も起こしているのかもしれない

みちるが自分のベッドだと信じているこの場所は
まったく別の次元にあって
あの子がいなくなったのではなく
みちるの方が平穏の世界から消えてしまったのではないか

まさかそんなこと
思いなおしてもう一度
瞼に開きなさいと言い聞かせて力を込める

それでも何にも瞳が捕らえようとしない

やはり
独り、世界から弾き飛ばされてしまったというの


そんな事を考えていると、暗闇の中
隣から消えた温もりを想い、どうしようもなく涙があふれた


やはり、夢だったのね
あの子を抱いて、愛した日々が夢だったのね
幾日も想い続け、愛し続け
やっと実った愛はまだ
儚く小さくて、それでもとてもしっかりした蕾だったはずなのに
2人で育てていこうと約束をしたはずなのに
やはり、それは自分で作った幻想だったということなのね


不安と諦めは
闇を照らす愛を失ったように
息をすることすら馬鹿馬鹿しいと思えてくる
平穏と愛のない世界は
永遠に瞼を開けられない空間に取り残されたような
気持ちの悪い世界

身体がゆらゆらと、誰かに揺らされている気持ちの悪さもある
こうして、人は死んだことさえ分からなくなるのかしら
そんな事を考えると、最後にもう一度
幻であってもあの子の温もりを腕に抱きたいと
願わずにはいられなくなった


「…………みちるさん、大丈夫?」
ふと、閉じた瞼の奥に一筋の光が照らされる
みちるはその現実への望みに腕を伸ばしてみた。
確かに柔らかい人の温度と柔らかさ。
目を開けると、そこにはいなくなったはずのレイがいる。
腕を伸ばさなくてもいい距離で、みちるのことを見つめている。
「レイ………どこへいっていたの?…心配…したじゃない」
神様が、哀れなみちるをレイの元へ返してくれた。
それともレイがみちるのことを想って、一緒に闇の世界に落ちてくれたのかもしれない。
「え?……今までずっとここで寝ていたんだけれど。みちるさんが苦しそうにしているから、何度も名前を呼んでいるのに、起きてくれなかったの」


どっちが夢なの?


みちるは心の中で呟いた。
これは現実?それともさっきの続き?
頬を撫でてくれるレイの手は少し冷たい。それでも、愛のあるレイのいつもの手の温度。
「みちるさん、泣いてる……どうしたの?嫌な夢を見ていたの?」
「………腕を伸ばしても…レイが…いなくて…」
「ダブルベッドの真ん中で寝ているのよ、みちるさん。私、追いやられてもずっと隣にいたわ」
付けられていたサイドライトが、さらに少し明るくなる。
世界に光が差し込んで、現実だと少し信じられてきた。
瞳は確かにレイをとらえ、頬は確かにレイの温度を感じ、胸はレイと同じ空気を取り入れようと上下している。
ちゃんと生きている。
レイと同じ世界を生きている。
「悲しかったの。何気なく腕を伸ばした先にあなたがいなくなって……私はもう、闇の中で死んでいくのかと思ったわ」
「……私、ずっとここにいるんだから。勝手に変な夢に落ちないで」

頬に落とされた口づけ、その唇で吸い取られた涙。
本当に泣いていたんだと、ようやく思い知らされる。
夢なのに。
夢の中でもレイといることができないことが、こんなにも寂しくて辛いなんて。
「……ん、…ねぇ…レイ…」
冷たい唇を押しあてるレイの髪をひと房掴み、唇を重ねることをねだった。
涙に濡れていても、唇は乾いている。レイの愛の潤いを求めて息さえ飲み干すように求めた。
重なる唇の互いに濡れる舌の音を感じながら、背中を抱きしめて裸身を密着させた。
レイを感じても、まだあの闇の孤独を味わってしまうのではないかと思うと、眠りに落ちたいと思えなかった。
上も下も色も消え、自分の身体さえ本当にそこにあるのかわからない。
そんな世界を恐れているのではない。
ただ、レイがいない。レイを想っても願っても、触れることのできない世界なら、そこが光に満ち溢れても無意味なのだ。


「珍しいこともあるのね」
「……何?」
子供のように髪を撫でられながら、いつもと立場が違うことを指摘されたのかと思い、みちるは熱く火照った顔をレイの胸に押し当て顔を隠している。
「みちるさんの涙は初めて見たから。みちるさんでも、夢を見て泣いたりするのね」
カーテンの隙間からわずかに漏れてくる朝の、太陽の恵み。
レイを何度も求めて身体は気だるかったけれど、それでもまだ目を閉じたくはなかった。
「レイはよくあるの?」
「夢なのか現実なのか、わからなくなるときがあるわ。目が覚めても、目が覚めたということが夢なのではないかって……本当、鏡を見るまで自分が泣いていたことも気がつかないの」
さっきみちるが感じた不安を何度も経験していると告げられ、そんな苦しい思いをしているときに、傍にいてあげられなかったことが切なかった。
「どんな夢?」
「そうね……世界に自分だけが取り残される夢とか、自分だけが透明になって、誰からも存在を認めてもらえられない夢とか、過去に戦った敵が蘇る夢とか」
「そんな苦しい思いをしているの?」
「でも、目が覚めて夢だったってわかったら、私はもう引きずらないようにしているわ」
言葉で表現するほど、そんなに淡白でいられるだろうか。みちるはレイの背中にまわした腕に力を込めて、自分にはそんな潔さや強さは持っていないのではないかと思い知らされる。
レイの強さも、弱さも愛しい。
そして、みちる自身もこんなことで涙を流している場合ではないのだ。
「レイ……じゃぁ、今度レイがそんな辛い夢を見てしまったら、私が抱き締めてあげるわ」
そうすれば、みちる自身も一緒に光を抱いて現実を信じられる気がする。
抱いた孤独が虚構であったと、信じられる気がする。
「でも、私もみちるさんがいなくなる夢を見たら、きっと怖くて辛くて苦しくて、泣きわめいてしまうわ。今のみちるさんと同じように、縋りついて離れたくないと思う」
みちるの髪を愛でる指の間から洩れる優しさを、すべて身体に染み込ませていたい。
そしてレイのいなくなる世界など、存在しないのだと夢を見た自分に言い聞かせなければ。
愛が溶けて流れるベッドの中で、もうしばらく漂い続けていたい。
「ねぇ、レイ。じゃぁこのまま眠ってもいい?」
「もう朝になるのに」
言いながらも、レイはもう一度みちるをきつく抱きしめてくれる。
みちるもレイを抱きしめた。
愛が染み込むように。
素肌と髪を絡ませて、寝息を頬にかすめるように。
夢をおそれない強さを抱いて。
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Date:2014/08/13
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