【緋彩の瞳】 独占禁止法 ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

独占禁止法 ①

『ゴールデン・ウィーク』
とは、国民が連休を有意義に過ごすためにあるもの。家族と、恋人と日常の嫌なことを忘れてバカになれる日。
「・・・暇だわ」
レイは広いベッドで大の字になり、かれこれ何時間かしたところでぽつりと呟いた。
「暇、暇・・・」
こみ上げた苛立ちに、ついにブチっと来る。勢いよく立ち上がったレイはシャツとズボンを脱ぎ捨ててドレッサーをバンっとあけると、ブランド物の服を引っ張り出し、歩きながら着替え顔を洗い、ささっと出る準備を済ませバシッと玄関のドアを閉めた。

今日は国民の休日。
5月4日。
火野レイ、17歳の家出。



4月28日
「明日から、どこ行く?」
「ん、なぁに?」
連休が始まる前夜、レイはウキウキと言う言葉を顔にくっつけたように、みちるの腕にすがった。
「ゴールデン・ウィーク、やっぱり人が多いから涼しくて人の少ないところがいいわ。みちるのことだから、もうそれもわかって予定組んでいるでしょう?」
レイはひそかに旅行代理店のパンフレットを3月ごろから数冊集めていたけれど、みちるから何も言ってこないということは、もうきっと予定が決まっているんだと、少し、いやかなり前から楽しみにしていた。どんなサプライズを用意してくれているのかしら、と。
「そうね、明日と明後日が北海道でコンサートだものね。5月に入ったらすぐ神戸、名古屋。スタッフたちとの観光は、ちょっときついかしら?どこも人が多そうだわ」
ソファーにのんびりと背を預け、隣に座ってすがって頬を腕に摺り寄せてくるレイの髪を撫で、みちるは小さな溜息をついた。
「誰の話?」
レイは撫でられ手が気持ちよくて、もっとねだるようにみちるの膝に顔を埋める。
「誰って?私よ」
「私ってみちる?」
「えぇ」
ふーん。相槌を打ちながら、レイはクエスチョンマークをいくつも飛ばした。
?????
「・・・コンサート?!」
目を大きく開いたレイは、起き上がってみちるの両腕をがしっと掴む。みちるはちょっと驚いて、2,3度瞬きを繰り返したあと、小さく頷いた。
「聞いてない!みちる、ゴールデン・ウィークはコンサートなの?」
「言わなかった?」
嘘!聞いた覚えはない!レイは何度も首を振った。みちるは言い忘れていたのならごめんなさいねと、頬を撫でて謝ってくる。
「じゃぁ、ゴールデン・ウィークはみちる、大阪とかに行っているの?」
「えぇ」
愕然と言う表情に変えた後、見る見る膨れ上がる頬。
「酷い!」
レイは立ち上がって声を荒げた。みちるはごめんなさいと落ち着いた口調で謝り、レイを見上げる。
「許さない」
「でも、もう1年前から決まっていたことなのよ」
「みちる、ゴールデン・ウィークに仕事入れるなんて酷い!」
地団駄踏んで抗議をする。みちるは眉を顰めて立ち上がった。
「レイ、落ち着いて。ちゃんと伝わっていなかったのは心から謝るわ。ごめんなさい。その代わり帰ってきたら、週末どこかへお出かけしましょう。ね?」
慰めるようにレイを抱きしめようとするみちるの手を払い、レイは不機嫌を精一杯アピールした。
「ゴールデン・ウィークじゃないと嫌よ!」
「世の中、みんながお休みじゃないわ。そのお休みを利用してコンサートに足を運ぶ人もいるんだから」
そんな理屈はレイだって十分にわかっている。承知の上で駄々をこねているんだから、そこのところをわかってもらいたい。
「じゃぁ、みちるは私と観客だったら、不特定多数の観客の有意義な休日を選ぶの?最低!」
「レイ、じゃぁ一緒に大阪に行ったり名古屋に行ったりすればいいわ」
ニコッと微笑んで、そうしましょうと微笑むみちるの頬を引っ叩いてやろうかとレイは思う。
「みちるのバカ!」
「お仕事でしょう?遊びじゃないわ」
落ち着いて、落ち着いて。みちるはレイにまぁまぁとジェスチャーをして見せるけれど、ひそかに楽しみにしていた連休を予想外の展開が邪魔をしたのだから、冷静になんてなれるはずがない。
「もう最低。みちるなんて嫌い。信じられないっ」
レイはフンっとそっぽ向くとベッドルームへ向かい、音を立てて扉を閉めた。みちるはいつも通りの喧嘩のパターンにもう慣れていて、レイが不貞寝をしているベッドにすぐに行くことはなかった。


4月29日
「お土産買ってくるわ」
「要らない。勝手に行っちゃえば?」
「そんなに拗ねないで」
「みちるは私のことを1番に考えてないのよ」
ベッドから起き上がらないレイは、服を着替え終わり準備を済ませたみちるに抱きしめられ、それでもまだ意地を張っている。今、付いていきたいって言えば準備をする時間の猶予はある。そんなことを考えながらも、素直になれない自分に苛立ちながら。
「どこへ行きたいか考えておいて。どこへでも連れて行ってあげるわ」
「私はゴールデン・ウィークじゃないと嫌」
「レイ、我侭ばかり言って困らせないで」
美しいレイの大好きなみちるの両手も、自分だけのものにならないなら欲しくない。レイは布団の中に差し伸べられた両手をぱちんと叩いた。
「れーい」
でもめげないみちるに、レイはカプっとその右手に噛み付く。予期していなかった痛みに、みちるは小さく“きゃっ”と叫んだ。
「レイ、歯形がついちゃう」
ついちゃえ、と思う。スポットライトを浴びた海王みちるの弓を持つ右手にレイの歯形。ちょっと愉快かもしれない。
「れ~い。もう、出ないと間に合わないわ」
もっと強く噛もうと思ったけれど、レイはなんだか寂しくなってきて諦めた。
「いってらっしゃいのキス、してくれないの?」
みちるは布団を少し捲ってレイの顔を覗いてきたけれど、レイは枕に顔を埋めて抵抗した。
「いってくるわね。成功するようにお祈りしておいて」
誰がするものか。レイは無言のまま結局みちるの顔を見なかった。
気がついたらもう、みちるの姿はなかった。


再び5月4日
29、30は幸いにもせつなさんやら美奈たちがどこへも遊びに行っていないから、レイは遊び相手をしてもらい、何とか一人にならずに済んだ。2日は学校だった。連休中の平日のせいで、お嬢様学校の生徒達はこぞって海外へ行っているらしく出席率が非常に少ない、なんとも殺風景な教室だった。レイの予定では自分もそのエンジョイ組のはずだった。
5月4日は、仲間は家族旅行やら何やらへ出かけた。はるかさんは仕事で鈴鹿へ行くから、帰りに名古屋に一緒に行くかと誘ってくれたけれど、みちるなんかと会ってやるものかと心底腹を立てていたから、結局1日中みちるのマンションに閉じこもっていた。

外は愛しい天気だった。春の優しい光と、温度と風。こんな日にお弁当を持って植物園にいったりしたらどれだけ幸せだろうと、そんなことを思うような。テレビをつけても新聞を広げても、ゴールデン・ウィーク特集で、新幹線や道路の込み具合なんかの情報ばかり。心がカサカサと音を立てるから、レイはベッドルームに引きこもりカーテンをしなければ哀しくて寂しくて泣きそうだった。だからもう、今日は怒り爆発。家出を決めた。


みちるが出かけにおいていった真黒いクレジットカードをフル活用してやる。まず、それで休日だから手数料の高いお金の引き出しも、構うものかと30万円引き下ろしてやった。それから高級デパートへとタクシーを拾い向かう。窓から見える人込みは親子連れやカップルばかり。
かまうものか。
デパート前でタクシーを降りると、まずレディスのフロアへ向かった。春物ブラウスにキャミソールにT-シャツ、フレアのスカートにデニムに、次から次へとお店をハシゴする。とりあえず値段の高そうなものをドンドン買い込んだ。手にもてなくなったら、郵送してもらう。もちろん速達で今夜の宿に。それから下着専門のお店に入ると、シルクのランジェリーを買いあさった。3万くらいするものを4つほど買い込み、それからバッグと靴のフロアへと降りる。サンダル、ミュール、シューズ、ハイヒール、パンプス。有名ブランドの箱に入れられたそれらは高く積まれていった。それでも満足できない。バッグは4月に買ったばかりだけれど、派手なブランドマークの鞄を始めて手にした。でも気に入らない。これはあとでもっと高級な専門店へ行こうととりあえず諦める。それからネイルアートの専門店を見つけて、フラり立ち寄ってみた。店員がお勧めのネイルのモデルを見せてくれたけれど、ツメをいじるのはみちるとHする時に困りそうだからアートは辞めておいた。その代わり足の指に可愛いのを描いてもらった。
自分でも自分らしくないって思う。それがなんとなくショックだった。
1階で高級腕時計を見る。さほどいいのがない。レイはデパートをあとにして、近くの専門店の立ち並ぶとおりに出た。人がごみのように溢れている。とても普通の人じゃ買えないような金額のジュエリーを扱うお店にレイは遠慮なく入った。別に行きつけじゃない。もちろん初めての体験。若い女の子が入ってきても、店員は微笑みもしない。それが頭にきた。40万ほどのシルバーとダイアをあしらったブレスレッドを指差してカードを見せ付けてやる。快感だと思ったけれど、別にこんなもの欲しいなんて思わなかった。
つまらない買い物をしたあと、隣の高級腕時計を扱うお店で、ルビーの入った腕時計を買う。鞄の専門店でブランド名のロゴの入った鞄を3つほど買い終わり、お腹が空いたからどこかでお昼ご飯を食べようと思った。けれど、どこを見渡しても家族連れ、カップルばかり。レイは再びタクシーを捕まえた。都心を離れたいと思った。けれど交通渋滞が酷くてなかなかすぐに脱出してくれそうにない。
一人ぼっち。
レイはそれがなんだかイヤでイヤで。目を閉じて耳を塞いだ。
有名なレストランに行こうと思ったけれど、そこに待ち受けているのは寂しい一人の食事と周りの視線。ランチを取るのも嫌になった。
タクシーを降りて、徒歩でホテルへと向かうことにした。どこのホテルも一杯だけれど、案外この時期の都心のホテルは空いていることがある。Uターンの時期だからだろう。出かけてすぐ携帯電話で予約を入れておいたから、割といい部屋を用意してもらっているはずだ。父親の名前を使ったからかもしれないけれど。
チェックインのあと暇をもてあましていたから、また今度はホテルの中のブティックをうろつくことにした。別に欲しくないけれど、また腕時計と鞄をカードで買ってしまった。
ホテルのルームサービスでコーヒーを頼む。
一人、広い部屋で有料の映画を付けた。

ヴァイオリニストが主人公の映画だった。

みちるのほうがよっぽど美人だった。
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Date:2014/08/13
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