【緋彩の瞳】 独占禁止法 END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

独占禁止法 END

ベッドに寝転がりながら映画を立て続けに2本見終わり、さすがに空腹感で苛立ちを押さえきれなくなりそうなので、ホテルの中の料亭で食べようかと思った。けれど、やっぱり一人お店で食事をする勇気なんてなくて。結局、フランス料理フルコースをルームサービスしてもらい、まともに食事を取っていなかったため、ぺろりと平らげることが出来た。
大きなベッドが2つある片方で小さくなって目を閉じる。携帯電話を家に置いてきたから、誰とも連絡を取ることなんて出来なかった。
でも構うものか。
レイはここに住み続けてやると心に誓った。


5月5日
時計が鳴っていないのに、7時過ぎに目を覚ました。朝食もルームサービスを頼み、ふかふかのソファーに腰を下ろす。
嫌いだけれど音が欲しくてテレビをつけた。Uターンラッシュのため、交通渋滞が朝から続いているらしい。ばかばかしい。サービスで持ってきてもらった新聞を広げる。有名な行楽地の行列やら政治などの話題。パラパラ捲って、「文化・芸術」というところで目が留まった。北海道、大阪とみちるのコンサート成功の記事を載せ、名古屋最終日の当日券の問い合わせ電話番号が書かれてある。営業スマイルでヴァイオリンを手に写る白黒の彼女は、とても有意義な休日を国民に提供する素晴らしい役割を担っている様子。
結構結構。
新聞を雑巾みたいに絞って、バットのように振り回し、とりあえずガラスで出来たテーブルをバシバシ叩いた。

午前10時まで有料の映画をぼんやりと見ていると、部屋の電話が鳴る。フロントからで、昨日買った商品の山が届いているそうだ。預かっておきましょうかという親切に、レイは全部部屋へ運んでくださいと頼んだ。一人映画を見るのもつまらない。誰も見ていないけれど、買った服やら靴やらをベッドに広げて埋もれてみたい。いっそうのこと、クレジットでお金を引き出して、福沢諭吉ベッドで溺れてみるのもいいかもしれない。そんなことを思っていると、2人の従業員が荷台みたいなものに載せた大量の紙袋を運んできてくれた。

ベッドルームに置かれた山。そして、思い出してレイは財布から全ての明細書を取り出した。海王みちるとサインした紙切れの金額を計算して、レイは思わず“ひっ”といいそうになった。
「……970万」
何で?ケリーバッグ?カルティエの時計?思い当たる節があまりにもありすぎる。けれど、なんだかどうでもよくなってきた。むしろ、それを知ったみちるが目くじら立てて怒ってくれることが、ちょっと嬉しかったりする。
「……みちるなんて大嫌い!」
なんでみちるのことばかりを考えなきゃいけないの!レイは自分に言い聞かせて頭を叩いた。
「もう、知らないもん」
紙袋から出した服や靴、鞄、貴金属に囲まれたレイはベッドに大の字になり、新しい服などをぎゅっと抱きしめた。

それから、昼も夜もレイは食べないでずっと泣き続けた。
新しく買ったばかりのブラウスは、レイの涙を吸い込んでゆく。しんと静まったホテルの広い一室で、どうしてこんなに寂しい想いをしなきゃいけないの。そう思って、でもみちるに付いて行くのだって嫌なんだから仕方ないじゃないと自分を慰めた。




不貞寝を決め込んで、泣いた疲れも手伝ってウトウトしていると、さっきからずっと部屋の電話とチャイムが繰り返されていることに気が付いた。うるさいと思って、一度起き上がって電話の受話器をはずして再び970万使い込んだ商品の山のベッドにダイブする。何度かチャイムが鳴っていたけれど、レイはそれも構わず耳を塞いで眠った。案外図太い神経だわって自分でも感心するほどに。




5月6日00:30
「探したわ」
チャイムの音もフェイドアウトして熟睡していたレイは、枕にしていた新品のブラウスからう~んと顔をあげた。
「レイ、寂しかった?」
「……みちる…」
「11時にマンションに帰ってあなたがいないから。探し回ったわ。クレジットカードの会社に電話して、どこでお金を使ったのか調べて。このホテルの名前がわかったのよ」
みちるは散らかり放題の鞄や靴を丁寧にベッドから取り除き、涙にぬれたブラウスをそっと引っ張り出した。
「寂しかったのね。ごめんね」
「みちるなんて……嫌い」
優しく抱き締めようとするみちるの束縛を欲しいと思っても、でも嫌だという我侭も生まれる。
「レイ」
優しい声で呼ばれても負けないように。レイは寝返りを打ってみちるの顔を見ないようにした。
「みちるの一番は私じゃないんでしょう?いいわよ、もうずっとコンサートでどこでも行っちゃえばいいのよ」
「レイが一番よ。どうしてレイには伝わらないのかしら?」
「一番を放ってみちるはコンサートに行くのね」
レイの腰に回った腕の温もりに、一杯泣いてその胸に飛び込みたい欲望が生まれそうになる。
「もうしないわ。レイのことが気がかりで、あまりいいコンサートにならなかったもの。あなたに聞いてもらいたいし、あなたに応援してもらいたいもの。それが出来ないなら、もうコンサートも止めようかって思っちゃったわ」
未来じゃなくて、レイはこのゴールデン・ウィークじゃないと意味ないじゃないって声に出しそうになる。
「レイ。どうする?今日も明日もあさってもずっとここにいる?」
「……嫌」
「じゃぁ、今日はこのまま寝て、明日2人でどこかへ行きましょう。ね?学校もお休みして」
ちゅっとこめかみにキスをされて、レイはまたくるっと寝返りを打ち、みちるの胸に顔を埋めた。
「一番じゃないと嫌。みちるの一番じゃないと嫌」
「レイが一番よ。レイにしか愛していると言わないもの」
一杯の涙がみちるのブラウスを濡らす。
ひとしきり泣いて、何度もみちるを求めて求められたレイは、朝、こってりとみちるにクレジットカードの乱用を怒られた。

だけど幸せだった。


レイとみちるのゴールデン・ウィークはやっと始まる。

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Date:2014/08/13
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