【緋彩の瞳】 あなたの気持ちは知っている END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

あなたの気持ちは知っている END

クラスメイトからみちるさんとどういう関係なのかと問い詰められて、疲れ果てた。知りあいと言えば、どういう知り合いなのかどこで知り合ったのかをしつこく聞かれ、携帯電話の番号なんかも知っているのかとか、家に遊びに行ったことはあるのかなど、聞いてどうするつもりなのかというような質問もされた。さぁ、どうでしょう?なんて笑って済まされないこともよくわかっている。たびたび、レイとみちるが歩いているのを目撃したことがあったけれど、やっぱり本物だったのね、なんて今さら言われても“そうです”としか言えないわけだし。ホームルームが終わって教室を出るまでしつこかったけれど、ようやく逃げるように教室を出たと思ったら、今度は後輩たちのプレゼント攻撃の後半戦が待ち受けていたのだ。
「レイ様!お誕生日おめでとうございます」
今日は色々と疲れる一日だ。すでに手には鞄より大きな紙袋にプレゼントが詰め込まれている。でも、誰かの物を受け取った以上、後半戦はいりませんとも言えず、受け取るしかない。
ぞろぞろとレイの後ろを追いかけてプレゼントを渡し終わった子たちや、これから渡そうと待ち受けている子たちの間を抜けて、レイはまるでアイドルの出待ちのような形で校舎を出た。
「あの、私レイ様のことをずっとずっとお慕いしていました」
「それはどうもありがとう」
どこの誰かもわからない子に、告白なのかよくわからないことを言われながら、レイは校門へと歩く。走りたいけれど無理だった。これではみちるさんと二人きりで帰るに帰れないのではないかと思い、どこかでこの子たちを引き離さなければならない。せっかくみちるさんが来てくれているのに。
色々話したいこともある。アンコールは嬉しかったけれど、ちょっとマズかったとか。秘密にされてびっくりしたことも、みちるさんが好きだというクラスメイトからかなり嫉妬されたこととかも、あと、とにかく演奏が素晴らしかったことも。
「レイ様はどなたかお付き合いされているんですか?」
「別に」
「好きな人は?」
「なぜそんな事が気になるの?」
追いかけられながらもレイはできる限り早足で校門へと向かう。そこには人だかりができていた。何やら列も作られていて、みんな手にノートや手帳を持って黄色い声でそわそわしている。
みちるさんがそこにいるのだと、すぐにわかった。
だから言ったのに。
そんなところでみちるさんが立っていると、面倒なことになるって。
みちるさんの姿がよく見えていないけれど、なぜだか苛立ちを覚えた。
みちるさんに今日のことを伝えたり、感想を言ったりするのはレイが最初ではないのだとわかると、それが許せない気持ちになった。レイ以外の女の子たちにちやほやされて微笑んでいるのではないかと思うと、なぜだか腹立たしい。

けれど立ち止まったレイもまた、追いかけてきていた子たちにすぐに囲まれてしまう。
「レイ様、これ受け取ってください」
相変わらずプレゼントを次々と押しつけられ、手紙と一緒に渡す子もいる。
「あの、もう持てないからそろそろいいかしら?」
すでに紙袋はぎっしりと詰まっていた。重たいし、持ったままこの後どこかに行くには正直に言うと迷惑でしかない。やっぱり最初の1つから断ればよかった。
「よろしかったらお持ちします!なんなら、お供して送り届けます」
誰なのこの子。年下のようだけれどずいぶん粘るタイプのようだ。レイは差し出された手に渡すわけでもなく、明らかに迷惑と分かるような顔を見せた。
「ごめんなさい。これから人と会うの。これ以上の荷物は迷惑だし、送っていただかなくてもいいわ」
「……でも…」
「私はあなたを知らないし、知らない人に何かしてもらう理由もないから。迷惑だから結構よ」
その言葉は多少きつかったようで、下級生は見る見るうちに目に涙をためて、ポロリとこぼした。
泣くのは勝手だけれど、周りから下級生をいじめているように見えるのか、まだプレゼントを渡し終えていない子たちがざわめいている。
面倒なことになった。
数メートル先にはみちるさんがいる。
バレなければいいのだけれど。



「火野さん、後輩を泣かせているみたい」
「あーぁ。ついに……」
「今年はしつこいものね」
みちるの背後でそんな会話をしているのが耳に入った。粗方サインを欲しがる子も少なくなり、腕時計を見てみるといい時間になっている。レイの存在を近くに感じて辺りを見回した。誰かを10人位の女の子が囲んでいて、さらにそれを遠くから見ている子たちが何人もいる。
「ねぇ、もしかしてレイはあそこの輪の中にいるのかしら?」
レイに何かあったみたいだ。みちるはサインをする手を止めて、背後にいた少女たちに声をかけた。声をかけられると思ってもみなかったのか、慌てふためくように構えた少女たちは顔を見合わせて、それから小さくうなずいている。
「あの、海王さんは火野さんとお知り合いでしょうか?」
「えぇ。レイはあの中にいて?」
「たぶんそうです。今日は海王さん以外を取り囲むことがあるとしたら、火野さんしかいませんし」
「どういうこと?」
「誕生日ですから。後輩たちからプレゼントをもらったりしているんでしょう。朝から結構多かったみたいですし」
「……あら、そうなの。大人気ね」
なぜだろう。みちるは微笑みながらもどこかで、ムッとする自分がいた。自分以外の人からの誕生日プレゼントを受け取っている。しかも大量に。
レイはそう言うのは受け取らない子だと勝手に思っていたし、別に受け取ることが悪いことでもないはずなのに、なぜかムッとしてしまう。
「でも、泣かせているみたいですね……。度胸ある子が告白でもしているのかしら」
「バレンタインの時に、私見たわ。“あなたのことは知らないし興味もない”って言ったら、その子が泣いたらしいわよ」
レイの同級生はそんな事を聞かせてくれる。聞いてもいないことまで答えてくれて、ありがたいのか余計なことなのかはわからないけれど、とりあえず今のレイが置かれている状況はわかった。
様子を見守っておこうかと思ったら、輪の中から黄色い声が急に湧いた。
みちるは、もうほとんど条件反射と言っていいくらい、自分を囲んでいる女の子たちをかき分けて、そのレイを囲む輪に入っていってしまった。



レイはみちるさんがいる手前、泣いている子を無視して置き去りにしようと思ってもできなかった。こんなことがあったと知られたら、自分が冷たい人間であると思われたくない。それに泣かせたいわけでもなかった。迷惑であることを伝えたかっただけなのだ。もっと言えば、みちるさんと早くこの場から逃げて2人になりたいだけなのだ。
「ごめんなさい。きついことを言って悪かったわ」
毎年何かしらのイベントで勝手に告白をしてきて、勝手に泣いてしまう子がいたけれど、ここまで人だかりができていたわけでもなかったし、あの場合は放置しておく方がその子にもよかったはずだ。
仕方がない。レイは鞄と紙袋を持っていない手で泣いている子の肩に手をやり、いたしかたないけれど頭を撫でてあげた。何を勘違いしているのか泣いている子が抱きついてくる。
その瞬間、周囲の子たちが悲鳴のような声を上げたのだった。



「……レイ。何をしているの?」
「何って……」
輪を押し広げてレイを見つけると、そこではレイが少女を抱きしめるようにしていた。
みちるの中の何かが、はっきりと苛立ちと嫉妬だと訴えている。みちるでさえまだあそこまでレイに近づいたことなどないのに、女の子を抱きしめているなんて。
「泣かせたお詫びに、はるかみたいなことをしているの?」
「まさか。勝手に抱きついてきたのよ」
「腰に腕を回しているじゃない」
「回してないわよ。慌てふためいて固まっただけよ」
「……ふぅん。大人気ねぇ」
「みちるさんもずいぶん握手やサインに応えて、とり囲まれていたくせに」
「レイを待っている間のことよ。レイが走ってくればよかっただけじゃないの?」
「走りたくても、こっちだって取り囲まれていたんだから仕方ないでしょう?」
その間もレイの腕の中にはまだ泣いていた子はいる。いい加減、離れないのかしらとみちるは思ったけれど、これ幸いなのかその子の手がレイの腰に回ろうとしているので、流石にそれはさせられなかった。
「続きは後にしましょう。行くわよ」
「望むところだわ」
みちるはレイの腕をつかむと、泣きやんでいるのにレイから離れない子から引っぺがしてくるりと向きを変えた。そこには人だかりができていたが、みちるは舞台で見せる営業的な微笑みを見せて一礼をした。
「みなさん、ごきげんよう。素敵な午後をお過ごしください」
誰も後を追いかけてくるようなことはなかった。
レイの腕を掴んだまま、10分ほど無言で歩いてレインツリーに入ったのは、予約時間よりも20分ほど遅れてからだった。



「ずいぶん、たくさんのプレゼントをもらったのね」
「何か悪いこと?」
「私のプレゼントがかすんで見えて嫌なのよ」
みちるさんは鞄と一緒に預けたずしりと重たいプレゼントが入っている紙袋を一瞥していた。
「アンコールは、私のためだけだったじゃない。あれ以上のプレゼントが、あの袋の中に入っていると思うの?」
「本当にそう思っていて?」
「あたりまえじゃない。名前も知らない子からもらっても嬉しくないし。っていうか、みちるさんのプレゼントと比べ物にならないに決まっているわ」
グラスの水を一気に飲んで、レイはとりあえずため息をついて肩の力を抜いた。みちるさんに色々文句を言いたいことがあったけれど、無言で歩いている間に、何を言わなきゃいけないかを半分以上忘れてしまって、席についてみちるさんの顔を見たら、もう半分も忘れてしまった。
「……それにしても、レイがあんなに大人気だなんて思わなかった」
「誕生日だからでしょう」
「それで、泣かせた女の子を抱いていたわけね」
レイは忘れていても、みちるさんはどうやら忘れてはいないようだ。
「別に放っておいてもよかったけれど、そう言うわけにもいかないでしょう?」
「なぜ?」
「なぜって……」
「優しくすると、思わせぶりなことにならない?」
「ただ、大ごとになりたくなかっただけよ。それにみちるさんがいるのに……無下にした方が嫌われるんじゃないかとか…思ったから」
穏やかではない顔と声だったみちるさんがきょとんとした表情をみせるから、レイは恥ずかしくて視線を落とした。
「みちるさんは誤解しているみたいだけれど…私、こういうプレゼントとかはあまり受け取るのは好きじゃないのよ。でもなんていうか……昨日みちるさんと電話をして、おめでとうって言ってもらえて気分が良くて、だから今日は一日、嫌な気分とかを持たないでいたいって思ったの。いつもなら迷惑で嫌で仕方ないけれど、そう言う気持ちを持ったりしたくないって……気分よく…その……みちるさんと会いたかったし…なんていうか……」
なんだか説明がうまくできなくて、レイはこれ以上何か言葉を繋げても結局プレゼントを受け取った事実に変わりはないのだから、無駄な抵抗だと思って口を閉じた。
最初から言い訳せずに謝ればよかったと後悔した。
「嫉妬していた私が悪かったわ。ごめんなさい、レイ」
「……は?」
一瞬、何を言われたのかと思ったけれど、視線を戻すとみちるさんが頭を下げている。
「みちるさん?」
「私が今日の仕事を引き受けたのはレイのためっていうか……。最初は親が勝手に取ってきた仕事だけれど、TAという場所でレイの前で演奏ができて、しかもレイの誕生日だったから、ちょっと浮かれていたのよ。絶対秘密にして驚かせようって思っていて、当日まで生徒に知らせないようにお願いして。驚かせて、あなたが駆け足で私のところに来ることを期待していたし、演奏の感想なんかを聞きながら並んで歩いてみたかったのよ。それがうまくいかなくて……しかもあなたは女の子を抱いているから、ちょっと苛立ったの。今日、私が出演することを事前に言っておけばよかったのね。自分が想像した通りにならなかったことに苛立っても、レイに罪のないことね」
「私も嫉妬したわ。一番にみちるさんに駆け寄って、素敵な演奏のお礼を言いたかったのに自分のクラスメイトに囲まれていて……」
みちるさんが嫉妬していたなんて言うから、レイもついつい認めてしまった。
なんだか苛立っていたはずなのに、むず痒くなってきてしまう。レイは深く呼吸を繰り返して、自分の中にあった馬鹿らしい嫉妬をすべて吐き出すことにした。半日残っている誕生日はみちるさんと一緒に過ごせるわけだし、つまらないことで意地を張っても何にもならない。それこそ気分よくみちるさんと一緒にいたいという最初の願いを忘れては、あれはなんだったのかと言うことになる。
「じゃぁ、もうお互いに忘れてしまいましょう。泣いた子には申し訳ないけれど、レイは私を選んでいるわけだから」
「そうね」
それはさりげなく、だけど間違いなくお互いに好きだと想い合っていることに違いはない。
「それに、レイは私を好きなのだから」
「……そうね。みちるさんと同じだわ」
みちるさんのその自信があるところも含めて好き。
本音を言えば、みちるさんからもう少し積極的に来てもらってもいいかと思うけれど、この距離も好きで、心地がいいという気持ちもある。


夕食はレイには秘密だけれどみんながみちるたちの住む家に集まっていて、誕生日会が開かれることになっている。何も知らないレイを泊まりに来ないかと誘い、二人並んでのんびりと歩いた。どちらともなく触れて、いつのまにか自然と繋がれていた手は、1年もの間お互いに好きだとわかっていたのに、初めてのことだった。なんだかんだといろんなことがあったお陰で、結果的に手を繋げたのだからよかった。
「寒いわね。もう4月も半分過ぎたのに」
金星がちょうど月の下で光り輝き始める。レイの呟きに小さく頷いて、吐いた吐息が少し曇っていた。レイの手は思ったよりもひんやりとしていて、スプリングコートのポケットに握ったまま入れた。
「みちるさんの手は温かいわね」
「レイが冷たいのよ」
「そうかしら?」
「でもいいわ。いい口実だから」
「これから夏になるのに」
「いいの」
四季の順番を無視したような言い方だけれど、自然な流れでもう少しこの距離でいてもいいかなとみちるは思った。できることならお互いにわかっているのだから、自然な流れで愛を綴り、自然な流れで深い愛を想い合えたらいい。
そんなことを想いながら、いったい自然な流れでキスをするのはどういう状況なのかしらと、ふと考えてしまった。
それはそれで、いつかその時が来るのを、自然な流れで待つしかないのだろうけれど。


みちるとレイの想い描く愛がパレットから飛び出して、いったいどんな仕上がりになるのかは、まだまだ誰もわからない。

関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/08/13
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/286-faf98715
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)