【緋彩の瞳】 ライター 苦くて愛しい

緋彩の瞳

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みちる×レイ小説

ライター 苦くて愛しい

彼女がタバコに火をつける。それを見て、眉を顰める。
「嫌味ね。嫌いだって知っていて私の前で吸うの?」
「えぇ。嫌なら帰って」
「帰らないわ。私があなたに会いたくて来たのだから」
激しく抱いたあとは、彼女はいつもタバコを吸う。今までの行為が煙になってかき消されるように。
「吸ってみる?」
「いいわ。なんとなく、味を覚えてしまうと怖い」
「いい勘しているわ。やっぱり芸術家ね」
「ありがとう。何か飲む?」
まだ、燻ぶる熱が下がらない彼女のために、みちるは立ち上がってガウンを羽織った。
「水でいいから」
「えぇ」
ランプの明かりだけを頼りに、扉の向こうへ消える。煙の匂いの染み付いたブランケットが、すぐに恋しくなる。ミネラルウォーターをグラスに注いでレモンを絞る。
「はい」
一本吸い終わった彼女の頬に、冷たいグラスを当てた。予想していたのか、それほど驚かれることはない。残念。心のどこかでみちるは思った。
「ありがと」
上半身を起こして受け取った彼女。汗ばんだ裸身に、思わずみちるは自分の着ていたガウンを脱いで彼女の身体にかけた。
「気にしなくていいのに。寒くないわよ」
「いいの」
今度はみちるが裸身になる。すばやく同じブランケットに体を入れた。隣の彼女は、レモン水を飲みながらもう一本タバコに手を伸ばす。
「身体に悪いわ」
「知っているわ」
「じゃぁ、なぜ?」
外で彼女がタバコを吸う姿なんて見たことがない。いつも、行為のあとしか吸わないから。
「罪から逃れるため・・・かもね」
「私に抱かれることは、辛い?」
「いいえ」
「じゃぁ、なぜ?」
「自己嫌悪かしら。あなたのことをもっと好きになる自分が怖い」
逃れられない深く傷をえぐるような愛から逃げるために。そう言って彼女は溜息のように白い煙を肺から出した。
「レイ」
「ん?」
なるべくみちるに煙がいかないようにと横を向いて灰色の溜息を吐くそのの名前を呼んだ。短くなったタバコから最後に思い切り“痛み”を吸ったあと、レイは向きを変えた。
「ん・・・」
ぼんやり目を開けたまま、彼女の影が唇へ刺激を与える。
レイは息を吸われた。
「馬鹿。これから吐き出すものを吸っちゃダメよ」
吸い取られた痛みのあと、激しく咳き込む。
「ゲホ・・・」
気持ち悪そうに、何度も咳き込むみちるの背中を擦る。涙目になりながら苦しむ姿が、やけに愛しかった。
「ほら」
一口残したままのレモン水をみちるに渡して、レイはタバコの火を消す。いまだ涙目で喉の辺りを押さえながら、愛しい人は苦しそうに呼吸を繰り返した。
「もう。馬鹿ね」
窓を開ける。風が凪いでいるけれど、空気を入れ替えるには問題ないだろう。
「・・・レイ・・・・」
苦しそうに名前を呼ばれて、ベッドに戻る。彼女のガウンを返した。
「何?」
「痛いわ。あなた、平気なの?」
「正しい吸い方をしたら、慣れるものよ。あなたは止めておいたほうがいいわ」
金星が細い月明かりにも負けないほど光り輝き始めている。
「でも、身体に悪いことは確かよ」
「外では吸っていないから。週に1度だけじゃない」
週に一度だけ。二人だけの夜が来るから。
「・・・私、はるかと別れたのよ?」
彼女の名前を口に出すと、レイの手がタバコに伸ばされた。
「知っているわ」
「私があなたを好きになって、はるかに別れを切り出したのに。それでもまだ、週に1度だけ?」
空になったグラスをサイドテーブルにおいて、みちるはケースからタバコを取り出そうとしているレイの手を押さえつけた。
「私なんかといても、楽しくないわよ」
「それは私が決めることよ」
「違うわ」
みちるの腕を払いのけて、彼女は右手にライターを持つ。カチッと小さな音の後、炎が小さな明かりを作った。
「短時間で、そんなにたくさんは良くないわ」
「タバコ自体、良くないものよ」
「だったら、やめて」
「・・・考えておくから」
タバコを吸う彼女の姿はどこまでも寂しそう。
孤独の似合う美しい人だとみちるは思う。
「私を置いて、タバコばかりに気をとられるのね」
「あなたの横でしか、タバコは吸わないわ」
「だったら、許すわ」
傷を負って手に入れた愛をはぐくむことを恐れ、愛していると口に出せない代わりに吸い尽くす想いを、痛みとともに吐きだす行為。
指の間に挟んだタバコが少しずつ短くなるのをじっと見届ける。
「それが終わったら、もう寝ましょう」
「先、寝ていてもいいわよ」
「待っているから」
細い煙が勢いよく吐き出される。急いでタバコを吸った彼女を見て、タバコの存在に少しだけ勝った気がした。優越感がわく。窓を閉めてカーテンを引いた彼女を、みちるは両手を広げて抱きとめた。
「ほろ苦いわ」
抱きついた彼女の唇を奪う。タバコを吸ったあとでも、やっぱり苦かった。彼女の息はまだ、灰色の世界から脱出してはいない。
「みちるさん」
「ん?」
「苦いキスは、嫌い?」
「あなた以外の人とは、キスなんてしないもの。どんなキスでも、あなたとならば好きよ」
乾いた唇を押し当てる彼女を、みちるは組み敷くようにして身体の場所を入れ替えた。灰色の世界に溺れた彼女のおぼろげな瞳は、ライターの炎のような緋色の輝きを失っている。
「レイ」
罪を隠すように、みちるはランプを消した。

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Date:2014/08/13
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