【緋彩の瞳】 愛をつついて ②

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

愛をつついて ②


お食事を終えたレイ様は、迎えに来られたはるか様の車にみちる様と一緒に乗られた。今日は神社に戻られる様子ではなさそうだ。フォボスからおじい様は就寝されたと連絡が入り、神社の方も、一日何事もなく夜を迎え、すぐにレイ様の元へ来るようだ。
車は15分ほど走り続け住宅地を少し走り、広い庭のある一軒家にたどりついた。はるか様やせつな様とみちる様、ほたる様が暮らすお家に、1~2週間に1度の割合でレイ様は遊びに行かれる。あまり学院内にお友達を作らず遊ばなかったレイ様だけれど、みちる様たちをとても愛していらっしゃる。
「はるかさん、今日はずっとお留守番だったの?」
「そうだよ。みちるがレイとご飯を食べに行くって言うから、僕も連れて行けって言ったのに、来るなって言うし。ほたるとせつなと3人で、鬼の居ぬ間に宅配ピザさ」
「それはそれで、楽しそうでいいじゃない」
「レイ、鬼っていうところをさらっと流したじゃん」
「別に嘘言ってないからいいんじゃない?」
「……あなたたち、私が真後ろにいることを知っていて言うのね」
ガレージから玄関口までのほんの30秒の間でも、レイ様の微笑ましい声がよく聞こえてくる。
先頭を切ってレイ様が“ただいま”とおうちへ入ってゆく。
せつな様の“お帰りなさい”というセリフがレイ様の心に安らぎを与えてくださるのだろう。
「じゃぁな」
扉が閉まる前に、はるか様が振り向いてこちら側に手を振ってこられた。
フォボスとディモスは控え目に鳴いて、レイ様の心の休息をはるか様たちに託すことにした。
それでも、もちろんこの場所から離れるわけではないのだけれど。




「レイは?」
「寝ちゃったわ。私のベッドのど真ん中を占領しているのよ」
「そう。はるかが一緒に寝るつもりでイソイソとシャワーを浴びているけれど、無駄みたいね」
みちるは嫌なことを聞いたと言わんばかりに、眉をひそめてため息を漏らした。
「はるかってば、レイの隣で寝て何をするつもりなのかしら?」
「あらあら。生焼けの焼き餅?」
それでも、相手がレイなのだから焼くお餅もありそうで見当たらない。
静かなリビングで2人、ごきげんなはるかがお風呂からあがってくるのを待ちながら、シェリーを飲む。
「はるかに嫉妬なんてしないわよ。されることはあるけれど」
「そっちなの?普通、嫉妬する相手はレイじゃないの?嫉妬されるのは、みちるが一番レイと近い距離にいるからよ。あの子が一番信頼を寄せているのは、みちるなのだから」
「あらそう?まぁ、信頼という意味では美奈子よりは勝っていると思っているけれど」
みちるの得意げな顔はとても幼い。せつなはそれを眺めるのが好きだ。ほたるを育てているときの表情はどこか不安げだったけれど、レイに対しては一切の不安を排除された、絶対的に愛し合える安心感があるように見える。
「美奈子はまた、違うでしょう?愛の形が」
「まぁね。それはそれで、あまり嫉妬する気持ちも持てないわ」
「みちるには、はるかがいるでしょうし」
「そのはるかもレイを可愛がってくれるし。せつなもレイのことを大切にしてくれるから。私はとても満ち足りているわよ」
みちるは赤ん坊になったほたるを育てていこうと言う話になったとき、十番街からあまり離れたくはないと言っていた。4人で生活をすることを嫌がっているわけではなかったが、少しプリンセスたちと距離をあけて、ほたるを育てる環境を整えるために必要だと理解をしていても、どうしても、レイと会える距離にいたいという我儘を言い出したのだ。
せつなもはるかも、できれば仕事場から通える範囲でなるべく距離を開けたかったのが本音だったが、結局、みちるの我儘を聞いた。みちるとレイが幼いころから仲が良かったのは知っていたし、もちろんまさか同じ戦士だったとは思ってもみなかったはずだろうけれど。
それを抜きにして、みちるとレイはお互いに必要な存在なのだ。引っ越して間もなく、みちるは当たり前の様にレイとだけ会っていたし、泊まりに来させるようになっていた。
「それはそうよ。レイを大切にしているみちるのことも好きだから」
「ありがと。嫌じゃないわ、それ」
はるかがホカホカと温かい湯気に包まれて、リビングに入ってきた。
「レイは?」
「もう寝ているわよ。私のベッドで」
「え~。なんだよ、もぅ寝ちゃったのか」
「何するつもりだったの、はるか」
子供っぽく残念そうな顔をするはるかは、別に、と呟いている。レイと一緒に寝たところで、きっと邪魔だと言われて蹴られるのがオチではないかと、せつなは考える。はるかは冷蔵庫の中からスポーツドリンクを取り出して、グラスに注いで一気に飲んだ。
「そう言えば私、どう頑張って嫉妬しても絶対に勝てないって思う相手がいるわ」
みちるは、はるかが来る前に話をしていたことにいきなり戻した。
はるかは当然、何のことだと言いたそうに眉間にしわを寄せている。
「嫉妬?何を話していたの?」
ソファーに腰をおろし、ふーっと吐き出された空気。みちるはせつなに目を配らせて、あなたが説明をして、と訴えている。
「レイの横で眠りたいというはるかに、みちるは呆れているのよ」
「へぇ。何だよ、嫉妬もしないって?」
「どっちに嫉妬をするの?レイ?」
「うーん…言われてみればそうだね。僕に嫉妬してもらっても困るし」
「そう言う話をしていたのよ。そうよね、みちる?」
「えぇ」
みちるとはるかは、自然と距離を開けずに広いソファーに腰をおろしている。
そこにはお互いに恋をする情を表現する色が見えている。
「あぁ、レイの話なんだ。で?さっきのみちるがどう頑張っても勝てないって言うのは?」
レイのことになると、はるかはみちるに敵うはずがないことをよくよく分かっている。そしてまた、みちるを想うあまりレイにどれだけ嫉妬しても、無駄な労力だと言うことも。
「フォボスとディモスのことよ」
「……あぁ。なるほど」
みちるの答えに、せつなはとても納得して頷いた。
みちるほどの人が勝てないのなら、レイの肉親くらいかと思ったけれど、ある意味肉親以上の相手だ。
「あの2人は、星の守護を受けている聖戦士ですからね。マーズのための」
月の王国のセレニティのために四守護神や外部太陽系の戦士がいるように、マーズのためだけにいるフォボスとディモス。
「私、あの子たちのことを心から尊敬しているけれど、……たまに憎らしくなるわ」
「そうか?彼女たちはレイに触れる距離にはいないよ?みちるみたいにべったりしたりしないのに?」
「そういうことじゃなくて、……精神的な繋がりはあの子たちの方が強いと思うのよ。私がどんなにレイを想っても、美奈子がどれだけレイに愛していると言っても、フォボスとディモスの足元にも及ばないと思うの」
プリンセスを守る戦士。だけど、ただそれだけではない関係が、レイと彼女たちの間には確実に存在している。みちるはそれにはどうやっても勝てないし、それもまた、きっと土俵が違うのだろう。
「精神的、ね。なるほど。いつも遠くからレイを守り続けて、見返りや愛を求めずにその使命のためなら殉ずることも厭わない強さには、さすがのみちるも勝てないってことか」
「フォボスとディモスは、使命だからなんていうありきたりな情では済まされないものがあると思うわ。なんて言うのかしら、運命共同体なのね。私も気持ちはそのつもりでいるけれど、私はレイと溶け合えない関係だし、そうなりたくはないもの」
今もずっと、確かにこの家の庭でフォボスとディモスは羽を休めている気配はある。その気配をいつも感じているのかいないのか、レイの口からフォボスとディモスについて語られたことは記憶にない。
レイもまた、彼女たち存在をその素肌に染み込ませているのだろう。
「聞いてみたの?レイに」
「聞いたことないわ。あの子がどういう返事をするか、わかるから」
みちるはやけに自信を持っている。せつなは苦笑しながら答えを教えてとねだってみた。
「きっとこう言うわ。“フォボスとディモスは私の身体に溶けているの。血液みたいなもの。アルテミスやルナとはわけが違うんだから。ばかばかしい質問をしないでよ、みちる”って」
なるほどね。せつなが頷くのと同じように、はるかも頷いていた。
「うーん、たしかにみちるは勝てないな。血液だもんな。手とか足じゃないんだろ?」
「そうね。手足ならなくても生きていけるけれど」
みちるのあげた白旗を、フォボスとディモスは優越感に浸ることもせずに見つめることができるのだろう。
「でも、みちるはみちるでいいんでしょ?」
「当然よ。私には文句を言いたいことだってあるんだから。髪をいじりたいし」
「はは。みちるらしいよ。だから君みたいな人間はお手上げなんだよ」
「……わかっているわよ、十分」
みちるは自分の部屋のベッドをレイに奪われ、はるかと一夜を共にする。
多彩の愛を抱くのは、生きている人間の素晴らしさだとせつなは想った。

それはフォボスとディモスには持ちえないものなのだから。



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Date:2013/11/10
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