【緋彩の瞳】 希い(ねがい) you were a half of me ⑩

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

希い(ねがい) you were a half of me ⑩

「レイ」
身体中に巻かれた包帯。静かに上下する胸は生きていることを伝えてくれるが、返事はない。
細くなった身体に短くなった髪。しばらく会わない間に変わり果てたその姿は、緋彩が…コロニスだけがそうさせたのではないということは、十分にわかっていた。
怪我をさせたのも、髪を切った理由も、何もかもみちるが大きく関係している。
レイがみちるを好きでいてくれたから。
握りしめた冷たい手。うっすらと自らを傷つけた痕を残している。何を希ってこんなことをしたのか、それを想うと息をすることが苦しくなる。
「レイ」
魂はどこを彷徨っているのだろう。コロニスと共に逝く道を選ぼうとしているのなら、それを止められる自信などない。
「ねぇ、みちるさん。レイちゃんが目を覚ましたら、どうしたいって思う?」
もう片方の手を握っていた美奈子が静かな声で聞いてきた。レイが眠り続けている間にこの質問をされたのは、これで3度目だ。
「………わからないって言ったでしょ」
「いい加減、答えを探した方がいいわ」
「……答えなんて、とっくに出ているわよ」
だけどそれを、レイに伝えるべきなのかどうかが問題で、それを受け入れてもらえるかもわからない。
「レイちゃんが目を覚ましてさ、例えばみちるさんのことはもう好きじゃなくなったって言ったらどうする?」
「……どうもしないわ、私がレイを好きなのだから。身体を治して、前みたいにレイが元気でいてくれたらいいわ」
「追いかけるつもりはある?」
「どうかしらね?ずっと想い続けるだけかもしれないわね」
それでもいい。
この身体は緋彩という仮面を被ったコロニスに抱かれたこともあるし、彼女を愛しいと思ったこともある。その過去は消せないもので、忘れるべきではない。レイを好きだと自覚させられたきっかけは、結局は緋彩がもたらしてくれた。
消えない過去である以上、その事実を抱いて生きていくことが正しい恋愛の終わらせ方だと思う。
「2人は永遠に片想い同士を続けるつもりなんだね」
「………レイが何を希うか、よ」
みちるの傍になんていたくないって思われても仕方がない。それでレイが心穏やかに生きてくれるのであれば、どうなってもいい。
「私はみちるさんのことを聞いているの。レイちゃんの希いなんて、みちるさんと出会ったときからたった一つだけなんだもの。それは絶対に変わることはないわよ。たとえ、みちるさんの過去に何があったとしてもね」
「………私は……」

本当は、ずっとレイが好きだった
初めてレイと会った時から、きっとずっと好きだった
優しくてまっすぐな瞳が好きだった


「レイちゃんもそうだったけどさ、みちるさんはちゃんと言えばいいと思うよ。人って簡単に死ぬこともあるんだからさ、好きだって言わないとダメだよ。そういう優しい気持ちは、誰も傷つけるものじゃないんだから」
レイがどんな道を望んでも、みちるは変わらずレイを好きでいられるだろう。
閉じた瞼が開いて、レイがこの世界を生きる道を歩んでくれるのであれば………

「………レイ?」
指先にわずかな動きを感じた。一定に刻まれていたリズムが少しだけ乱れた音がする。
「レイ?レイ?」
「レイちゃん?」
まつ毛が小さく震えた。心音のスピードが上がっていく音。
「レイ!!!」
少し声をあげてレイの名前を呼んだ。
重く閉じられていた瞳がうっすらと開く。
みちるの大好きな緋彩の瞳。
「レイ……」
紫色の唇がゆっくりと動く。みちるは立ち上がって唇に耳を近づけた。

「……………みちるさんが…好き」
「……レイ」
美奈子との会話を聞いていて目を覚ましたのかと思った。
好きだって言わないとって言ったから……

かすかに囁いた言葉に応えるように、その唇に深く口づけた。

嬉しいのか苦しいのか、せつないのか、レイの頬に次々に零れ落ちる雫を止める術なんてない。
昏睡状態から目覚めて、レイが口にしてくれたのはずっと、ずっとレイが想い続けてきてくれた言葉だったのだから。
「レイ……レイが好きよ。本当はずっと、……ずっと前から好きだった」
抱きしめた傷だらけの身体。芽吹いた生命力を今は強く感じられる。
「……みち、るさん……身体が…痛い」
モニターに刻まれる心音が加速していく。
「まったく、私がいること無視なわけ?ちょっと、みちるさん、とりあえず離れてあげなよ。先生呼んでくるから、イチャイチャすんじゃないわよ」
美奈子は怒りながらも、嬉しそうな声をあげて席をはずしてくれた。
愛しい緋彩の瞳に見つめられて、止め方を忘れた涙が頬を伝って次々に零れ落ちる。
「………レイ」
「………みちるさんが、好き」
短くなった髪も、傷だらけの腕も、レイの前世も、みちるの過去も、何もかもを抱きしめて、2人で寄り添って生きて行けそうな気がする。
お互いに好きだと言う想いを寄せあう、確かな想いがあるのなら。


「起きたの?今、9時よ」
艶のある声が耳を刺激する。五感が瞬間に、それでもゆっくりと働き始めた。別世界から現実へと瞬時に引き戻された身体は、いまだにけだるく、聴覚が刺激を受けて少し遅れてから、視覚の活躍が始まる。
「……おはよう」
「お寝坊さん、そんなに素敵な夢でも見ていたの?」
彼女は頬に唇を寄せて、触覚を刺激した。そして頬を摺り寄せる。
「素敵な夢?うーん……死んだ後の夢をみてたわ」
みちるさんはレイの身体を抱きしめて、そっと起こしてくれた。身体中に浴びた痛みも、日に日によくなっている。
「レイ……もうこれ以上、私たちの寿命を縮めないで」
みちるさんは短くなってしまったレイの髪を指で梳きながら、困った表情を見せる。
「私は一度死んでしまって……だから、生まれ変わるのなら記憶のすべてを消してしまおうとしたの。でも、思いとどまった。まだやりたいことがあるから、このまま帰してほしいって。コロニスがいたことも覚えていたい。このままの火野レイで生きていたいって」
髪を梳く指がレイの頭を撫で、そしてため息が舞い落ちる。レイはみちるさんの腰に腕を巻きつけて、深く息を吸い込んでみる。



海の匂い
懐かしいめまいがした



「……好きだと言わなきゃいけない人がいるって思ったの」
「2週間昏睡状態だったレイが目を開けたと思ったら、“みちるさんが好き”だもの……本当、泣かされたわ」
レイ自身は、あの輪廻転生の光の川に身を投げてすぐに海へと、この世界へと帰って来たつもりだけれど、あの戦いから2週間も経っていたらしい。
「いえ、たぶん、死んでも構わないって思っていたから言えたのよ」
「今言ってもいいのよ?むしろ、改めて聞かせてもらいたいわ」
「………嫌よ」
「もぅ……」
照れた頬の熱さを、みちるさんの胸に押し当てた。
鼓動が伝わってくる
心地よいリズム
「さぁ。少し冷えてきたし、一度身体を温めて、それから遅めの朝食にしましょう」
短くなった髪を撫でる優しい掌。レイは小さく頷いて、もう一度深く息を吸って、みちるさんの匂いを身体にしみこませた。

動作一つ一つに少し残る痛みを気遣ってくれながら、みちるさんは毎日レイをお風呂に入れてくれて、レイの望む朝食を作ってくれて、傍でヴァイオリンを奏でてくれる。

ちゃんとした恋人関係は、まだスタートさせていない。抱き締めあったり、頬にキスをしたりしても、お互いの身体に愛を持って触れる関係はしない。
レイの身体の傷が癒えて、髪が前と同じ長さになるまで。
バッサリと切り落とした髪が前の長さに戻るのは1年後なのか、もっとかかるのかは分からない。それでも、その時間はレイにとっては必要だと思えた。
コロニスとマーズの前世のことに、無関係のみちるさんを巻き込んだ罪は重い。
目に見えて変わってしまったこの身体と髪の長さは、その姿を見つめるみちるさんの心に影を落とすようで、申し訳ない気持ちが強い限りは、愛を確かめ合うことはしない方がいい。
身体中に刺さった罪と罰の棘を全て抜き終わったばかりの身体。
血が止まり、傷がふさがり、やがて痕が消えてしまうまで。
その時、それでもレイはみちるさんを心から愛しいと思っている自信がある。

自分の身体を傷つけるようなことをしてでも、みちるさんを好きな気持ちは止められなかった。
あんなバカげたことはもう二度としないだろう。
そんな重たいものをみちるさんにあげたかったわけじゃない。




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Date:2014/08/15
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