【緋彩の瞳】 一緒に……②

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世設定なし]

一緒に……②

「ちょっと!遅いわよ!」
扉が開いてレイと亜美が満面の笑みを浮かべながら階段を下りてきた。美奈子は背中にべったりくっついて離れないうさぎごと椅子から立ち上がり、レイに向かって抗議の声を上げる。
「そう?30分で帰って来たわよ」
テーブルの上に置かれた大きな買い物袋。亜美の両手も同じ店の紙袋がぶら下がっている。
「レイ、何してたの?」
「だから、亜美ちゃんと遊んでたの。雑貨を見て回ったりね」
レイは紙袋からクッションを取り出して、うさぎに投げつけた。
「わ~!レイちゃん、ありがとう!」
「飲み物、零したりしちゃだめよ」
「うん」
美奈子の背中にまとわりついていたのに、おもちゃを与えられた子供のような顔で、うさぎは美奈子から離れてそのクッションを抱きしめて嬉しそうだ。
「まこと、グラス買ったのよ。ほら」
「わ~、サンキュ!うさぎがこの前、割っちゃったから。数が足りてなかったもんな」
「クッキー入れるお皿も買ったの。今度また、作ってきてよね」
「おっけ~」
亜美とレイの手元の紙袋から、マジックのように次から次にいろんなものが出てくる。よくわからないストローだとか、コースター、テーブルゲームや駄菓子類、写真立てになぜか除菌スプレーも。
「あ、レイちゃん。さっき撮ったプリクラ、半分に分けようか?」
「あぁ、そうね」
亜美は聞き捨てならないセリフを吐いて、引き出しから鋏を取りだしてきた。
「…プ、……プリクラ?!」
レイと亜美がプリクラですって?2人きりでプリクラですって?!
「…………何よ、驚くこと?30分で帰って来たじゃない。だいたい人の予定を狂わせておいて、文句言われる覚えもないんだけど?」

そう言う文句じゃないのに。
何だかムカつく。

亜美に切り取ってもらったプリクラを子供みたいな嬉しそうな顔をして見ているレイ。一体どんな表情で写っているんだろうか。ムカつくけれど見たいと言う気持ちにもなってくる。
「あ~、レイちゃん。ねぇ、うさぎにも頂戴」
「適当に欲しいの切り取っていいわよ」
「やった~」
クッションを置いたうさぎは、自分の鞄からプリクラが沢山張られたノートを取り出してきた。
そのノートには、昔、美奈子が病院で書いてあげたサインがある。たしか、あの時もプリクラが貼ってあって……でもそんなにちゃんと見ていなかった。
「あの…、美奈子ちゃんも欲しいなら、あげるよ?」
亜美が切り取ったプリクラの1列分をためらいがちに美奈子の前に差し出してきた。
「何、美奈子。欲しかったわけ?」
レイが意外そうな口ぶりで言ってくるから、受け取ろうとした腕を慌てて引っ込めた。
なんだか、欲しがっているように思われるのが嫌だ。
「………別に。なんで私がレイのプリクラを持ってなきゃいけないのよ」
「何それ。亜美ちゃん、それ、まこちゃんにあげたら?美奈子はいらないんだって」
レイが決めることでもないでしょ?なんて言えるわけもない。
「でも、……いいの?」
確認してきた亜美に、美奈子は拳を握りしめて、いらないというジェスチャーをした。
「美奈子ちゃんはプリクラとか集めたりしないの?」
レイの写っているプリクラをノートに貼りつけたうさぎが、見せびらかしてきた。少しだけ、満面の笑みのレイの顔が見えた。亜美と頬を寄せ合って、幸せそうな顔をしてる。
「……別に、しない。あんまり撮らないし」
デビューしてから、プリクラは撮らなくなった。撮ってくれる友達が周りからいなくなったのだ。戦士に目覚めてからは、放課後は仕事と戦いに時間を費やしていて、病気で体調も良くなかったし、気が付いたらファンはいても、友達はいなかった。
別に、どうせ死ぬんだし、いらないと思っていたから。そういう、想い出を作るようなこともしなかった。
「あげようか?みんなで撮ったやつ、ほら、確か纏めてカンカンの中に入れていたよね?」
「あ~、そうだそうだ」
うさぎの言葉にまことが反応して、鋏をしまっていた同じ棚からピンクのカンカンを取りだしてきた。
「ほら、分けきれないのとか、ここに入れてるんだよ」
「……そうなんだ」
「えーっと、うん!分けてあげるよ」
まことは、任せて!なんて言ってばさっとひっくり返した。
「いや、いらないから……」
「いいからいいから。レイが可愛く写ってるヤツが欲しいんだろ?」
「「はぁ?」」
声がレイと重なる。ばちっと目が合うと、怪訝そうに睨み返してきた。
どうしてレイまで文句を言うわけ?
「いや、まこと。いらないし」
「そうよ、まこと。美奈子はいらないって言ってるんだから、あげる必要はないって」
レイがテーブルに両手をついて、まことに抗議する。何でレイまで抗議する必要があるわけ?
「はいはい、いいからいいから」
まことの手元は、本当にレイが必ず写っているものだけを選んでいる。もらってどうしろっていうのだろう。正直困るのも確かなんだけど。うさぎみたいに、ノートに貼りつけたって仕方がないし、第一自分が写っていないものばかり持ってるって寂しいし。
「……美奈子、今日は何しに来たのよ。何か用事があったんじゃなかったの?」
「………別に」
ため息を吐いて椅子に腰を下ろすと、隣に腰を下ろしたレイが聞いてきた。
たわいないことを、電話じゃなくてレイやみんなと会って話したかった。
そう言う普通の放課後を過ごしたいって思って。
……何となく、わざわざそれを口にすることもできないけれど。
「はい、美奈子ちゃん」
ジュースの入ったグラスを手渡してくれた。さっき買ったコースターもいつの間にか置かれている。
「……ありがとう、亜美」
「これはレイちゃんが選んだんだよ。美奈子ちゃんは黄色。うさぎちゃんはこれも」
買ったばかりのグラスは5色で、うさぎには何だかへんなストロー付きで配られている。
「うさぎ、それでジュース飲んでみて」
「え~。うん」
メガネみたいなストローは、赤いアセロラジュースを吸いこんで色が変った。
「可愛い可愛い」
レイは携帯電話を取り出して、写真を撮っている。
「い、息が続かないよ!」
「ぶれちゃうから、ほら、しっかり吸って。もっと変な顔してよ」
レイの横顔は楽しそう。亜美と連れ立って帰って来た顔も凄く楽しそうだった。
レイと外でなんて遊んだことはない。こんな子供っぽい笑い顔なんて、2人でいるときに見せてくれたことはないのに。
「はい。さっきのプリクラも入れておいたから」
「…いや、でも……」
まことは掌にあるプリクラの山を、美奈子の両手に押し付けてきた。
「仲間が仲間のプリクラ持ってるって嫌なの?いいじゃん」
「……あり、がと」
隣にいるレイは何も言わず、だけど何か言いたそうな顔で見つめてくる。
「落とさないでよ。手帳にでも入れておけば?」
「………はぁ」
言いたいことはそれなの?言い返さずにため息で返して、美奈子は自分のスケジュール帳にはさまれているジッパー付きの小さい袋にそれらを入れた。

レイの笑った顔がたくさん、美奈子を見つめてきた。


時計は17時45分を過ぎている。今からまことの家に行って、3人でごはんを作って食べようっていうことになっているけれど、うさぎは家に帰るとして、美奈子はこの後どうするつもりだろう。仕事があるようには見えないし、家に帰るのか、誘ったら付いて来るのか。
「うさぎ、そろそろ家に帰らないと、お母さんにまた怒られるわよ?」
「あ~~!本当だ。美奈子ちゃん!また一緒に遊ぼうね!カラオケ、やろうね!」
「……カラオケは、別に。でも、また今度ね」
うさぎは名残惜しいと言わんばかりに、美奈子に抱きついて、よくわからないけれど今更ながら握手をしてジャンプしている。成長してない。一足先にうさぎを見送ると、レイは立ち上がってテーブルの上を片付け始めた。まこともグラスを集めて、小さな流しに持って行ってくれる。
「美奈子、この後どうするの?」
「どうするって?」
テーブルを拭きながら、レイの手の動きを視線で追いかけている美奈子に声をかけた。手伝えばいいのに。アイドルはこれだから。
「私は亜美ちゃんと一緒にまことの家でごはん食べるのよ。明日は土曜日だし、もしかしたら、そのままお泊まりするかも」
「……泊まり?レイは神社に帰らないの?」
「そうなるかもしれないわね」
何かレイに用事があったのかしら。昨日の電話では相談したいことがある、なんて言ってなかったのに。眉をハの字にして困った顔をする態度は、どう考えても美奈子の中ではレイが神社に帰らないということは想定外らしい。
「一緒に来る?」
「………いい。止めておくわ」
「別に遠慮することないけど?」
まことは美奈子が行くなら、腕によりをかけておいしいものを作ってくれるに違いない。きっとそれはそれで、楽しいだろうし。
「そういう問題じゃなくて……。いいの、もう帰る」
「家に帰るの?」
美奈子は頷いて立ち上がって、鞄を肩にかけた。何か言いたそうな顔は相変わらずで、レイをじっと見つめては唇をぎゅっとかむようなしぐさ。

……まったく。素直じゃないんだから。
階段を上ろうとする、その意地っ張りの腕を掴んで引っ張った。

「まこと、亜美ちゃん。ごめん、今日やっぱり私、パスするわ」
「え?……あ、うん。そうだね、わかった」
亜美ちゃんはレイと美奈子を交互に見つめてから、小さく笑って頷いてくれた。まことも洗ったグラスを両手に持って、笑顔っていうOKサインを送ってくれる。
「レイ、何?行かないの?私は帰るんだけど」
「だから、私も帰るんだってば。ちょっと待って。鞄、取ってくる」
椅子に引っ掛けていたショルダーバックを肩にかけて、レイは美奈子の手をとり、残る2人にバイバイって声をかけた。2人のバイバイという声を背に受けて、部屋の扉の向こうに出た。


「レイ、どうして?」
「何が?」
「まことの家に行く予定だったんでしょ?」
「別に。今日行かなくても、また来週とかでも行けるし」
レイが繋いできた手。解く言い訳が思いつかなくて、美奈子はその手を握り返して歩いた。
「ねぇ、どこかでごはん食べて帰る?」
「……バレたりしたら、まずいから。マネージャーとかいないし、周りの人に迷惑がかかることをしないでって、事務所から言われてるの」
「そっか。家でごはん作って待ってたりしないの?」
「ママが?」
「そう」
「こっちから、用意をお願いしない限りは作ってないかな」
「ふーん。どうするの?帰るなら、美奈子はえっと、あっちだったかしら?」
レイはまことの家に行くつもりだったみたいで、夜ごはんを今からどうするかを考えているんだろう。できれば少しでも長くレイと一緒にいたいんだけど。
「……レイはどうするつもりなの?」
「ん~。お手伝いさんに要らないって言ったから、何か買って帰るか食べて帰るかな」
レイのごはんは、お手伝いさんがいつも作ってくれるらしい。お嬢様なんだから、まったく。
まぁ、美奈子も料理しないけれど。
「……どっかで食べるなら、私も付き合う」
美奈子は薄暗闇の中、目深にかぶった帽子の奥を覗かれないように俯いてからそう言った。
「いいけど。そんな帽子被ったままお店でって言うのもね……。テイクアウトでもする?」
レイは辺りを見渡して、それから何か思いついたように美奈子の手を引っ張った。
「まことが教えてくれた、ハンバーガーのお店があったと思う」
レイでもそう言うの食べるなんて意外。和食って言う勝手なイメージだったけど。でも、和食のテイクアウトって何だろう。おもいつかない。……牛丼?
「美奈子、嫌いなものとかある?」
「別に。ハンバーガーでしょ?特にない」
「じゃぁ、ここで待ってて。なんか適当なもの買ってくる。あ、飲み物買っておいて。私、ウーロン茶」
「わかった」
自動販売機前で別れて、レイは小さなハンバーガーショップに入って行った。美奈子はペットボトルのウーロン茶とストレートティを買って、うつむいたままレイをじっと待つ。
自分の足元ばかりを見て歩くことはもう慣れているけれど、こんな街中で愛野美奈子が両手に飲み物を持って突っ立っているなんて、誰も思わないだろうから、帽子さえかぶっていれば、別にうつむいていなくてもいいんだけれど。
「おまたせ」
紙袋をぶら下げて、レイが戻って来た。両手に持った飲み物が手を繋ぐ邪魔をしていて、でも今更どうやって手を繋げばいいんだかわからないし。

って、別に手を繋ぎたいわけじゃないし。

「何?」
「……別に。どこで食べる?」
周りはお店ばかり並んでいて、適当なところがありそうで、ない。
「ちょっと、ぶらぶらして探そうかな」
レイは辺りを見渡して、それから大きな橋を目指して歩き始めた。美奈子はその横に並び、そっと足元から視線を上げる。
「あ、観覧車」
影武者をしていたころ、初めてうさぎと2人になって観覧車に乗った。
「あぁ。あのあたりなら、ベンチとかあるかもね。行きましょうか」
海辺の近くだった。確かにゆっくりと座れるところはあるだろう。美奈子は観覧車に乗りたいと思ったけれど、それは伝わらなかったみたいだ。別にいいけど。観覧車が薄暗闇の中、ライトアップされて綺麗だ。美奈子は暗闇にまぎれて、まっすぐ前を向いて、帽子のつばを少し上げた。


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Date:2014/08/21
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