【緋彩の瞳】 絵文字乱用御用心?! END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

絵文字乱用御用心?! END


ほたるを寝かしつけてリビングに降りると、せつなとはるかがシャンパングラスを傾けていた。
「みちるも飲む?」
「えぇ」
ほたるの前ではお酒を飲む姿を見せないと言う約束。賑やかな食卓も、小さな子一人いないだけで落ち着いた空気が流れだす。
「明日、お花見にでも行こうかってせつなと話をしていたんだけれど。どうする?」
グラスにシャンパンを注ぎながら、はるかはみちるが来る前に2人で話をしていたことを簡単に教えてくれた。
「明日?いいわよ。今日よりは温かいでしょうから」
「だといいね。ほたるはうさぎたちを誘ってみんなで行きたがっていたよ。みちるのご希望は?」
「私は誰がいてもいいわ。遠くへ行くの?」
「せつなが調べてくれたんだ。車で1時間くらい離れたところにある植物園、桜が綺麗らしいよ」
「そう。じゃぁ、車が必要ならばみんなを連れて行ってあげないとね」
乾杯とグラスを鳴らすと、どこからか一定に鳴る機械の音が聞こえてきた。
「みちるの携帯じゃない?」
せつなが一口飲む前に、みちるに視線を投げかける。充電器に繋がれてリビングのラックに置いてある携帯電話を取りに行くと、メール受信の青いランプが点滅していた。
「メールだわ」
「レイ?」
開いてもいないのに、せつながまるで先読みをしたように聞いてくる。みちるは肩を軽くあげてお手上げだと言わんばかりに小さく笑った。
送信者の名前には火野レイと書かれてある。
「せつなの読みは外さないわね」
「当然よ」
みちるはメールの内容を声に出して読んで見せた。
『こんばんは、みちるさん。明日はお仕事ですか?お天気が良ければ桜を見に行きませんか?』
「あいつってさ、メールになると敬語を使うよな。シャレか?」
はるかがぽつりとつぶやくから、みちるは咳払いをしてじろっと睨んだ。メールに不慣れなレイがこうやってメールをしてくれることがどれだけ幸せか、何度言えばわかるのだろうか。
「はるかってば、自分がレイからのメールはだいたい一言だから、拗ねているのよ」
そういうせつなに来るメールも、やはり似たようなものだとか。とはいえ、みちるに来るメールも要件だけを聞いてくる内容がほとんどだけれど。
「明日、みんなでお花見に行かないか誘ってみるわ」
「二人きりで行ってもいいのよ?レイはそのつもりで誘っているのかもしれないし」
「いいのよ、気にしなくても」
せつなの心づかいは嬉しいけれど、先にほたるが行きたいと言っているのを聞いた後で、レイだけを選ぶことは気が引けた。それに、みんなと一緒に行ってもレイがいるのならそれだけでもいい。話は周りに人がいてもできるし、ほとんどもう周知の事実なのだし。
「なんだかな~。見ていて歯がゆいんだけどさ」
腕を組みながらはるかはそんな事を言うけれど、せつなもはるかも、いらぬお節介をしすぎることもなく、あくまでも穏やかに見守る姿勢を崩そうとしない。
何しろ、相手が火野レイだから。
あの、火野レイとなんとなくお互いに好きだなんて、それはその時を楽しめるだけ楽しみたい。
“なんとなく”はときどきむずがゆいけれど、さりげないレイの感情の揺らぎを少し離れたところから推し量り、思いはせたりすることもまた、幸せなのだ。
それはまるで、桜の花の刹那を楽しむように。

『明日、よければみんなでお花見に行きましょう。少し離れた所に桜の綺麗な公園があるようだから、みんなで11時位にうちへ来て車で行きましょう。お弁当は私たちで用意するわ』
送信ボタンを押す。
シャンパンをごくりと飲んで、レイからの返事を待つ。
たぶん、返事は
『了解です』
今までの経験上から言うと間違いないだろう。


「……みちる?どうしたの?みちる?」
少しして、レイからの返信を流し読みするつもりでいたみちるは、画面を見たとたん固まった。
あまりに目を見開いたまま動かないので、はるかが不安になってみちると携帯電話の画面の間に手をはさんで振ってみる。
「みちる?レイはどんな返事をしてきたの?」
せつながその驚きの顔をレイのメールが原因だと感づいて、みちるの手から携帯電話を取ろうとしたから、慌てて抱きしめるように携帯電話を死守した。
「みちる?」
「な…な、何でもないわ」
「何でもって。レイ、明日嫌だって言ったのか?」
「まさか。行くって言ってるわ」
「だったら、どうしてそんなに驚いているの?」
はるかもせつなも、めったにみせないみちるの慌てる様子に眉をひそめて理由を求めている。
「ちょっと…ちょっとね」
「ちょっと?それはいいこと?悪いこと?」
せつなの問いかけに、みちるは自分の頬が火照っているというのがなんとなくわかった。グラス半分も飲んでいないシャンパンではこんな風になるわけがない。
「……いいことよ。身体に悪いくらい……」
「あらそう?」
「なんだよ?」
せつなは意味ありげに微笑むけれど、はるかはまだちんぷんかんぷんといった表情。
「はるか、いいじゃない。みちるだって恋をする女の子なんだから」
「ふ~ん。なにか、みちるを喜ばせるようなことをあいつが書いたんだな」
「そういうことじゃないの?」
2人がニヤニヤしてくる。
みちるはどうすればいいのかわからなかった。
レイは“書いて”いない。“つけて”いるのだ。

『了解しました。みちるさんの作るお弁当を楽しみにしています』

この文の最後に、ハートマークをひとつだけ。

今までレイのメールから、一度たりともつけて送られてきたことがないハートマーク。

みちるも同じようにハートマークをつけて何か送ろうか。
いや、今すぐは止めようか。
でも、もしかしたら勇気を持ってつけてくれたのではないだろうか。
でもでも、実は大して意味がないのかもしれない。
……ほたるも乱用していることだし。

たったひとつのハートマーク

こんなに嬉しくて、こんなに悩まされるものだとは、レイもみちるも知らなかった。


関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/08/23
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/298-2911d1e0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)