【緋彩の瞳】 聖なる夜に END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

聖なる夜に END

みちるだけがいない、いつものメンバー。アルコールの入っていないシャンパンを飲み、急いで作ったらしいまことのケーキを食べ、相変わらずのうさぎと美奈子の笑い声に時間が経つのも忘れて大笑いする。いつでもこんなに楽しい時間を持とうと努力をすれば、そこには温かさがある。自分でも羽目をはずしていると言う自覚はありつつも、でもどうしようもなく楽しい。
「怒りんぼうの・サンタクロース~♪」
「うさぎ、それはあわてんぼう」
「いいじゃん~!怒りんぼうのほうが、レイちゃんらしい」
「なんですって?!」
誰がサンタよ!ってうさぎの頭を叩いたりして。ゲラゲラ笑う仲間たちの間を繋ぐ鎖の一つに自分もなっているって思う。
楽しくて優しい時間だった。



「お帰りなさい、みちるさん」
深夜遅くに帰ってきたみちるを寝ないで待っていた。朝、また早くに出て行く彼女をどうしても一目見て、それから眠りたくて。
「レイ。起きて待っていてくれたの?」
「私は、明日の予定なんて得にないし。みちるさんは忙しいから」
重たいスーツケースとヴァイオリンケースが旅の疲れを表しているような気がした。やっと地方公演を終えて東京に帰ってきてもまだ、終わりはない。リビングに入ったみちるは、服を着替えると一度自室へと向かった。その間に温かい紅茶を入れて待つ。同じ空間にいることに安堵を覚える。どうしようもなく、安心する。
「レイ、今日で学校終わりだったわね?」
化粧を落としてリビングに戻ってきた。香りも温度も丁度いい紅茶を、みちるのマグカップに注ぐ。
「えぇ。明日から…今日から冬休み」
「そう。どこか、遊びに行くの?それとも、神社の方が忙しいのかしら?」
「神社はもう、仕事を手伝うことはしないの。おじいちゃんがアルバイトの巫女さんを雇うって言っているし、去年、忙しすぎて熱を出したのが心苦しいみたい」
「そう」
みちるはレイの予定をそれ以上聞いてこなかった。
「美味しいわ」
温かいマグカップを両手で持つみちるの言葉。レイは小さくうなずくだけ。
「明日から、また忙しいわね」
「えぇ。でも、自分で選んだ仕事だもの。忙しいっていうのも楽しいって感じるわ」
「そうね、凄くカッコいいわよ」
その姿をほとんど見ないくせに。自分でも褒めておきながら想像でしかない言葉だとすぐ見抜かれるのではないかと感じた。
「レイが見に来てくれたら、私いつもよりも張り切っちゃうわ」
決して、観に来ないレイを責めたりしない。理由もそれほど追求しない。レイの考えている事を分かってくれているって思っている。その気持ちが心地いい。
「……ごめんなさい」
穏やかに優しく行かないレイを気遣ってくれているみちるの言葉は、あまりにも清らかで時々痛いなって思うときもある。
「気にしていないわ。私がレイの傍にいたいって思っているだけだもの。レイはレイのペースを崩しちゃダメよ」
どうして傍にいたいと思ってくれるのだろう。でも、その理由を聞くのも嫌だし、何を言われてもレイが望むものじゃない気がした。ただ、傍にいたいと言ってくれるだけで、それでいい。それは自分がみちるを必要だと思う感情とはるかにかけ離れた理由だとしても。それでもいい。
「寝ましょう、レイ。あなたが傍にいると温かいから、すぐに寝ちゃうのよ」
みちるは「本当よ」と微笑んで、それからレイの髪を撫でた。
ほんの少しだけ、イヴのコンサートに顔を出してみようかしらと思えた。
優しさをくれるみちるへのお返しとして。
驚いて、喜んでくれるみちるの顔が見たくて。



日本各地の記録的な大雪と、世界各地からのクリスマスの模様が交互に流れるニュース。レイは嫌いなTVもみちるの家では例え一人でも見るようになった。日本に限らず世界各地を飛び回るアーティストであるみちるに、少しでも会話をあわせることができるようになりたいから。レイだって常識はずれの人間じゃない。けれど、みちるはもっと知識が豊富なのだ。TVを見るくらいじゃ、追いつくことは出来ない。
「……どうしよう」
23日の夜、みちるは帰ってこなかった。コンサート終了後に行われたパーティ会場であるホテルに泊まることは、前々から決まっていたことだ。それは構わない。出されていた宿題を23日にほとんど終わらせ、神社で一日を過ごした。問題は今日のイヴを結局どうするかだ。
みちるには言い出せなかった。行ってもいいか聞こう聞こうと思っているうちに今日が来てしまった。突然行って誰かに言えば何とかなるものだって、はるかに相談したらそういう返事が返ってきた。だから行けばいい。苦手な場所でも、行ってみれば案外いいかもしれない。 
あーでもない、こーでもない、と無駄に悩む時間はあっという間に過ぎてゆく。
「……行かないと。……行かないと」
人々が幸せになる時期に、いつも彼女は仕事をしている。幸せを与える仕事なのだ。それを苦だと思ったことはないといつも言っていた。人々が喜ぶ姿を見ている事が好きだし、それを手伝っていることは喜ばしいと。
その姿を今は見たい。そっと、少しだけでもいいから。何も心にないこんな人間でも、その清らかさを目にすれば何かが生まれるかもしれない。
「よし」
彼女に会うためのチケットなんて、手にしていない。
「電話、繋がる。きっと繋がる」
レイは自分と携帯に念をこめて、コールした。急がしい時間だろうけれど、まだコンサートは始まっていない。もしかしたら、繋がるかもしれないと。


でも、世の中そんなに甘くはなかった。
レイはコンサートホールに電話をした。自分が海王みちるの知り合いであること、彼女に伝言があるから、それをコンサートが始まる前に伝えて欲しいと言う事。
ちょっと洒落た演出になっているのかしら、なんて思ってみたりした。


とにかく服を選ぼう。地味すぎず目立ちすぎずに、でもみちるの前に出ても恥ずかしくない服。
なんて注文が多いのだろうと思いつつ、レイはドレッサーを開ける。箪笥の肥やしたちが手に取られるのを待ちわびているように見えた。
「えっと…」
白にしよう。ホワイト・クリスマスは東京では叶わないかもしれないし、何となくその響きも今は嫌いになれないから。

着ている服を脱ごうとセーターに手をかけると、外でフォボスとディモスが異常な鳴き声を発した。それは、とても嫌な叫びに聞こえた。
「邪魔してくれるわね」
それほど近くではないけれど、ぞくっとする妖気を感じてしまう。これからと言う時に、何ていいタイミングなのだろう。
2羽は早く行けといわんばかりにさらに大声で鳴く。
「わかったわよ、行くわよ」
どうせ、こういうことになるオチなのよね。時計はまだ、開演するには十分な時間であると教えている。
「速攻で行って、速攻で始末してくれる」
通信機の召集ボタンを押して妖気を感じる方角へ向け、コートも羽織らずに飛び出した。



よくよく考えたら、今日はほとんど仲間がいないことくらい分かること。敵を前にして、もう誰か来ていてもおかしくないはずなのにと首をかしげて、ようやく気がついた時はすでに後戻りできない状況だった。
美奈子たちは学校で出来たお友達とスキーに出かけているし、うさぎは衛と確かどこかに行くといっていたはずだ。はるかがこんなイヴに暇をもてあましているとも思えない(本人は仕事と言っていたが)せつなは年末まで休みがほとんどないと言っていた。
「私一人で…」
こんなクリスマス・イヴに。
キリストがいつ生まれようと彼の勝手だけれど無性に寂しさと苛立ちを覚えてしまう。
「やってやろうじゃない」
こんな敵さっさと片付けて、さっさと家に帰ってダッシュでコンサートホールに向かえば、みちるに会える。
お祭り騒ぎに便乗して、人々のエナジーを吸い取ろうなんて迷惑な妖魔。どこから沸いて出たと言うのだろう。きっとあの世があまりにも寂しくて寂しくて、こっちに舞い戻ってきてしまったのか。
なんだか自分みたい。
そんな事思っている場合じゃないのに。

また、雪が降ってきた。

粉雪だ。


一人荒い呼吸で必死に戦っても、誰も来ないし、誰も褒めてくれないし。
寒いし。
何やってるんだろう。
こんな妖魔、見過ごしても自分には何の非もないだろう。
そんなことをちょっとでも思ったから、罰が当たった。
吹き飛ばされた体は、粉雪が濡らす地面に激しく叩きつけられる。
それでも立ち上がる自分が少し偉いと思っても、誰かが見ているはずもない。
「マーズ・フレイム・スナイパー!!」
放たれた矢が炎をまとい、憎き妖魔を焼き尽くす。
「まったく……もう、行けないじゃない。このバカ」
キズだらけの体と、汚れた髪。今から家に帰ってそれからシャワーを浴びて自分でキズの手当てをして、それから、それから………
考えただけでもう、諦めへと答えが導かれてゆく。
温かい何かが胸を覆った。プロテクターやセーラースーツがやけにいつもより赤い。


血だ。


そう思ったのと、力が抜けて膝から倒れ落ちるのとは、ほとんど同じで。
「……み…ちる……」
痛みを自覚していないのに、何故だか体が動かない。

目を閉じるとその世界は真っ白だった。

ホワイト・クリスマスってもしかしてこれ?って自分に聞いたりして。

その思考も、あっという間に消えていった。




良い子にしていたつもりはないけれど、取り立てて悪い子のつもりもなかった。子供らしさに欠ける少女だったけれど、それでも悪い子だなんて言われたことはない。それなのにサンタクロースは一度だってプレゼントをくれなかった。別に欲しいとは思ったことはない。何か欲しいものがあったわけでもない。だけど、サンタクロースを信じる周りの子達と同じような夢を見たいと、少し思っていた。
クリスマスの朝、喜びと驚きで目覚める夢を。
興奮して眠れないイヴを夢見て。
優しいぬくもりを抱く夢を。


「良かった」
寒いと思って目を閉じたのに、気がつくと温かかった。体には温かい羽毛布団がかけられていて、とても寝心地のいいベッドだ。
「……」
「レイ。敵が現れたのね?あなた、一人で頑張っていたの?」
「み、ちる…さん」
指の先には感覚がなかった。けれど握り締めてくれていることは心で分かった。必死になって握り返すと、そこから何かが生まれたのか感覚が目覚めてくる。
「えぇ。よかったわ、やっと目を開けてくれた」
やっと、って言うほど自分は眠っていたのだろうか。そもそもどこでどうやって眠りに着いたのかいまいち分からない。
だけど、彼女が傍にいると言う事は、もうコンサートが終わったということを証明していた。
「……コンサートは?」
確かめるように呟くと、もう一つの手がレイの髪を撫でる。
「あなたが来るってスタッフから連絡を受けて。何とかしていい席を空けたの。でも、開演してもあなたは姿を見せなくて。不安で不安で。最後の一曲まであなたが来てくれることを待ちわびていたのよ。でもきっと、来る事が出来ない気持ちになったのねって、それは仕方がないからって思ってコンサートを終えたの。そのあとでルナから連絡を受けて。あなたが一人で戦って大変な事になっているからって」
たいてい何があっても冷静を保てる自信はあったけれど、これでも取り乱して現場に走ったのよ、とみちるは教えてくれた。
「みんな今日はお出かけしていたのね。あなた一人に戦わせてしまって……」
急いで駆けつけたみちるは必死になってレイを抱いてマンションまで運んでくれたらしい。コンサート後で疲れているだろうに、一生懸命介抱してくれたのだ。
こうして傍にいてくれて、手を握り締めてくれているのに。
会えて良かったって思っているのに、レイはどうしようもなく情けなかった。
情けなくて、悔しかった。
行きたかった。コンサートに行きたかった。強くそう思った。今日行かなければ意味がなかったのだ。聖なる夜に、清らかなみちるの姿を見たかった。寂しさを洗い流して欲しかった。

「レイ?痛い?キズ、もう血は止まったのだけれど。痛み止めを飲む?」
体の痛みで泣いたことなんて今まで記憶に残っていない。40度の熱が出ようとも、激しく嘔吐しようとも、いつだって耐えることができたし、耐えることが普通だと思って育ってきた。でも、涙は次から次へとポロポロとこぼれてゆく。みちるに平気だって言わないとって思えば思うほど、もっと溢れてくる。
「悲しいの?寂しいの?辛かったのね」
どれも全部だわって、レイは思った。同じことがなんでもないありふれた日に起こったとしても、きっとこんな事思わなかったに違いない。
クリスマスは、だから嫌いなの。
みんなが心の底からバカになって浮かれている時に、自分は興味のないフリをしないといけない。そうしないと寂しさを認めてしまうから。
なんでもないフリをして、でも本当は、自分もそんな風にバカになっちゃうほど浮かれて舞い上がって、一緒にいたいと思う人と寄り添ってクリスマスらしいことをして、幸せを感じて。
本当はそれを求めていたのに。
今年は、なんだかそれが叶う気がしていたのに。
それを全部みちるになんていえない。押し付けてしまうことなんて出来ない。サンタクロースじゃないのだから、彼女は。
「レイ。よく頑張ったわ。いい子ね。もう一人ぼっちにはさせないから、ね?泣き止んで」
そんな風に誰かに言って欲しいなんて思っていない。もう、クリスマスに何かねだるような子供なんかじゃない。もう、子供じゃないんだから。
でも、次から次に溢れてこぼれる涙は、子供がわがままを言って泣き喚くみたいになっていって。痛いのを我慢している涙じゃないのが、もうみちるにも伝わっていたらしく、子供見たいによしよしってあやされてしまう。
「レイ、いい子ね。よく頑張ったご褒美が欲しいのね?何がいいの?今なら何でもあげるわ」
母親が死んだ時以来こんなに大泣きしたことがなかったレイは、ひっくひっくともう、声がまともに出てこない。
「み・・るさんと、っ…」
「なぁに?」
体中のキズも、包帯の巻かれた腕も頭も、もうレイにはどうでもよくて。痛いなんて考えないで腕を伸ばしてみちるを求める。
それに答えるように、レイのサンタはぎゅっと抱きしめてくれた。
「……ずっと、こうして、いたい…の」

サンタが初めてレイのもとへっやって来た。
聖なる夜に。
粉雪の舞い降りる夜に。
清らかな空気に包まれて。
そして、そっとキスをくれた。

「レイ、メリー・クリスマス」
会いたくて、会いたくて、でも眠ってしまって会えないっていう幻想的なお話よりも。
会いたくて、会いたくて、やっと巡り会えたハッピーエンドの方がずっと素敵。
「……メリー・クリスマス、みちるさん」
たとえ今、この場にクリスマスケーキもツリーも歌さえなくっても。
こうやって、誰かにお決まりのセリフを言えるだけでいい。
温かい人の優しい想いがあれば。

クリスマスに欲しいのはあなただけ。
でも、クリスマスじゃなくても欲しいのは、あなただけ。
いつだってあなただけ。

クリスマスにあげたいのは、会いたいと想う心。
泣いてぐちゃぐちゃで言えないけれど


“Merry Christmas”



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Date:2014/08/23
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