【緋彩の瞳】 隙だらけの君
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緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[原作]

隙だらけの君

◆嫉妬まじりの恋のお題
「恋したくなるお題」からいただきました。




「レイちゃん、早くっ!」
「わかってるわよ」
階段を駆け上る美奈子に腕を引っ張られたレイは、今にもバランスを崩して顔面を階段にぶつけそうなくらいだった。引っ張られた腕が痛そうに見える。
「おーい、そんなに急がなくてもチケットはちゃんと手に入れているんだけど」
僕はその二人の姿を、階段を上りきるまでゆっくり眺めていてもよかったんだけど、あまりにレイがかわいそうだから思わず声を張り上げてしまう。だけどもちろん別の理由もある。
「なぁんだ!もっと早く教えてくれてもいいのに!」
僕の声の場所を探し当てた美奈子が、レイの手をさっさと放して両手を挙げて抗議する。隣のレイも目で同じ訴えをしているけれど。
「大丈夫?」
ゆっくりと階段を上りきったレイの背中を無意識に擦る。あくまでもさりげなく。
「大丈夫とか聞く前に、もっと早く教えてよっ」
「おー、怖い。みちるみたいだ」
乱れた呼吸を整えながら、綺麗な瞳が僕を捉える。僕だけが今、レイの瞳に映ることが許されている。
ほんの数秒だけ。
その隙が君に恋をさせるなんてこと、君は知らない。

「スリーライツと競演なんてみちるさん、本当羨ましいわよね。レイちゃん、あとで出待ちしてサイン貰おうよ」
「やーよ。アイドルなんて興味ないし。みちるさんに頼んだら?」
美奈子はレイと強引に腕を組んで、幸せそうに笑う。笑うという表現をあまりしないレイは、相変わらず美奈子のテンションについていくつもりもない感じで、でも、掴まれた腕を振り払おうとはしない。
君は恋に興味がある振りを見せないんだ。
本当は美奈子のことが好きなくせに。
他人にはその事実を見せ付けないんだ。
なんでもない振りをして、誰にでも同じように接して。美奈子のことを時にはけなして。
だから、全然気がつかないで隙を見つけて僕が君と美奈子の間に割って入る余地があるように、錯覚を覚えさせるんだ。

でも、心の奥底では美奈子のことを愛しているんだろ?

「レイちゃん、足大丈夫?」
「大丈夫よ、ヒールで走るのは慣れているから」
「だよね。ヒールでブイブイいわせているだけあるわよね♪」
「そういうつまらないことを言う口は、どのお口?」
両手で抓られた頬。美奈子は“いひゃい”といいつつ降参のポーズ。
「もー、レイちゃんっ。愛情表現が過激なんだから」
「ったく、誰があんたなんか」
「じゃ、僕が立候補しようかなー」
美奈子の髪を引っ張って間を割って入るように僕は冗談っぽく言う。
「みちるさんが怖いわよ」
「レイちゃん、問題はそこなわけ?!」
「あら、他に何があるの?ちょうど私も乗り換えの時期だし」
「レイちゃん!!!!」

君の冗談は僕に恋をさせる。本気にさせるんだ。
君は人に恋を撒き散らす。
僕の心をひっそりと“好き”だらけにさせるんだ。

でも、それは恋以上にはならないんだと思い知らされるだけ。

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Date:2014/08/23
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