【緋彩の瞳】 大人気なくても

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

大人気なくても

◆嫉妬まじりの恋のお題
「恋したくなるお題」からいただきました。



お勉強の時間だというのにプリンセスの姿が見えない、と、さっきからマーキュリーが血相を変えてパレスの中を走り回っていた。まぁ、おおよそどこに行っているのかくらいは簡単に想像が付くのだから、マーズはそれほどあわてない。プリンセスがいないということは、彼女も一緒というわけだから。プリンセスが命の危険にさらされるような可能性はないだろう。

「ヴィーナス、またプリンセスと抜け出したわね?」
お勉強の時間とされている時間を少しだけ過ぎた後、同じ手と足が出て不自然なスキップをしているヴィーナスが大根役者のように薔薇の庭園からこちらにやってきた。どうやら銀河への回廊をたった今渡りきって、大慌てでプリンセスの背中を押してお部屋へと向かわせたのだろう。
「あ、な、なんのこと?」
「地球に行っていたの?」
「……さ、さぁ~」
「感心しないわね。マーキュリーのお勉強の時間を狙って。せめて私の時間にしたらいいのに」
ふふ~ん♪と何のメロディだか聞いたことがない鼻歌を歌いつつ視線を合わせない。
「プリンセスにおねだりでもされたのでしょう?」
手と足が同時に出たまま、笑いつつマーズの横を無事に通り抜けきれるはずがない。
「あはは~。マーズ、取り逃がしたあなたも甘いわよ」
普段ストイックなヴィーナスは、嘘が苦手。
「ヴィナ。私、笑っているように見える?」
「……」
降参のポーズ。両手を高々と上げてやっと不自然なスキップがやむ。
「仕方ないじゃない。プリンセスが行きたいとおっしゃるんだもの」
「甘やかせることないわよ」
「甘やかせてないわよ」
「そんなことをしたって、あなたになんて見向きもしないこと、わかっているでしょう?」

そう。

彼女はプリンセスが好き。
プリンセスのために生きて、プリンセスに愛を捧げる戦士。

「いいわよ、そんなこと。鬱憤はマーズが晴らしてくれるのでしょう?」
それは冗談なのか、それとも本気なのか。
「どうしてそういう考え方になるわけ、あなたは?」
否定なのか肯定なのか、はっきり出来ない返事。
出来ない。出来るはずもない。
彼女がどんな感情でこの身体を弄んでいるのかなんて、きっとどうでもいいこと。
思い込めばいい。
愛されているから、って。
「だって、マーズは私が好きだもの」
「自惚れが過ぎていてよ、ヴィーナス」
「照れちゃって~!ホッペがピンクよ」

子供みたいに駄々をこねて、私以外を見ないでと手足をばたつかせれば
そうすれば
彼女は……

そんなことをふと思いながらも、らしくないと自嘲する。
突っぱねて、愛されているだけの振りをしていればいい。
そうしておけば、彼女は一日の最後に必ずこの腕の中に戻って来る。

それは戻って来るのか、それとも戯れに来ているだけなのか。
もはやそんなことはどうでもよくて。

「もう一度聞くけれど、私、今、笑っているように見える?」
はっきりと口にする。
はっきりしない事を望んでいるくせに。
「ひぃっ。み、みえない」
「そうよね、見えたら視力検査をしなきゃいけないものね」
彼女が苦手の嘘をマーズは自分自身に吐き続ける。
「あはは。さ、さ~ってと、ちょっとジュピターのところに寄らなきゃいけないから」
また奇妙なスキップで逃げてゆく背中。
「あなたは……ずるい」

大人びた愛情の理解をしめしても、この心は満たされないと知りながら。
大人気ないことさえ出来ないことに嫌気をさしてでも。

彼女の瞳に宿ることが許されたプリンセスを憎むことすら出来ずに。

何も出来ずにいるだけで……。


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Date:2014/08/23
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