【緋彩の瞳】 妬かれる幸せ

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

妬かれる幸せ

◆嫉妬まじりの恋のお題
「恋したくなるお題」からいただきました。



「れ~いちゃん!!」
チリンチリンという自転車のベルの音が後方から聞こえてくる。けれどもそれよりも大きな音量で自分の名前を呼ばれて、レイは振り返って誰なのかを確認するという作業をせずに済んだ。
凄い勢いでレイを追い越した自転車は、停止予定位置をオーバーして、両の手で必死にブレーキを掛け、地面とスニーカーを摩擦させて若干の煙を吹かせている。
相変わらず、毎日がにぎやかな人。
レイの10メートル手前でようやく停まった自転車。それを無視してレイは予定通りに左折をして自転車からドンドン離れていく。
「ま、ま、待ってよ!呼び止めてるじゃない!」
予定外の左折に慌てて、また自転車が追いかけてくる。
「何?」
「何って、そりゃ姿を見かけたら声くらい掛けるでしょう?」
「美奈って、暇ね」
「何よ、今日はじめて会う親友に笑顔で挨拶できないわけ?」
「はいはい。ごきげんよう。これはさよならの意味」
美奈子は息をほんの少し乱しながら、自転車をのろのろとこいでレイの歩くスピードに合わせた。
同じ学年だけど学校が違う美奈子がどうして私服で自転車を飛ばしていたのか、そこのところを聞いて欲しくて、ただ歩いていくレイについていく。
「……」
こぎこぎ
「……」
ちりんちりん。
「……」
「…レイちゃんさ、“だから何の用事?”とか“今日はどうしたの?”とか聞いてくれない?」
別にこのまま黙って二人並んでもよかったけれど、レイの行く先を知っている美奈子は、このままレイが行かれては困るので呟いた。
「あんたが言いなさいよ」
ごもっともだ。
「みちるさんのところに行くなら、乗せてあげようと思って。歩いて行くよりも早く着けるでしょう?」
「二人乗りって、違反じゃないの?」
背筋をぴんと伸ばしたまま、レイはローファーをコツコツ鳴らしてまっすぐ歩く。
「まぁまぁ。ほら、乗ってよ。私、海王州の近くまで用事があるのよ」
ここで、“いとしのみちるさんに早く会いたいでしょ~”とか冷やかそうものなら、自転車は原形をとどめずにボコボコにされるだろう。美奈子はわれながら、よく彼女の性格を把握していると感心してみた。
「あんたがこぐ自転車の後ろに乗れと?」
「あら、レイちゃんがこいでもいいのよ?それとも止める?でも、まだまだ歩くにしても15分はかかるでしょうしね。暑いし」
レイの歩みが停まった。右手に持っていた鞄はいつの間にか自転車の前籠に縦に置かれている。
「信号では、ちゃんと停まりなさいよ」
乗せて。とも、お願い。とも言わずに。美奈子は自転車を止めてうなずく。もう、後ろにはスカートの短さを気にして横を向き座ったレイがいる。
さすがだ。
「んじゃ、しーっかり腰を掴んでてね」
鼻息荒く、美奈子は出発のチリンチリンを鳴らした。
「普通にこぐのよ」
レイは会ってから、結局表情を一度も変えなかった。


「あら?」
待ち合わせよりも早く会う約束をしていた喫茶店についてしまったみちるは、ウインドウの向こうから信号待ちをしている自転車が見えて、飲んでいたアイスティのストローを口から放した。別にものすごく驚いたわけではない。ただ、登場の仕方がいつもと違うことに違和感を抱いただけだ。
信号で停まっている自転車は、定員数をオーバーしているせいなのか、両足をついて停まっているのに少しバランスを取りにくそうにしている。そしてこいでいる彼女は、しきりに後ろの人物に謝っている様子だ。危なっかしいから、それにクレームをつけられているらしい。
珍しい組み合わせと言うわけでもないけれど、正直妬けた。みちるは、後ろにいる彼女と自転車の二人乗りをしたことがないし、らしくないとも思う。
そう言うことを簡単にできるドライバーの彼女に嫉妬をするし、抵抗なく後ろに乗っているレイにもなんだか嫉妬する。
自転車が喫茶店の前に停まるより先に、運転手が店の中にいるみちるを見つけた。だからみちるは、笑顔で手を振って見せた。嫉妬した顔を見られたくはないし、そんなことで嫉妬をしているとも思われたくない。

レイはまだガラス越しのみちるの姿をみつけてはいなかった。美奈子がレイにみちるの存在を教えている仕草。なぜだろう、お互いのことを誰よりもわかっているはずなのに、美奈子に教えてもらわないとわからないなんて、ちょっとショックだ。
けれどそれも悟られないまま、みちるは手招きをした。
帰ろうとする美奈子の腕を取り、一緒に中につれてくるレイ。
それにも嫉妬を覚えるけれど。
「ごきげんよう、レイ。早かった原因はそちらのお嬢さんのおかげかしら?」
「えぇ、美奈は今日学校が創立記念日とやらでお休みなんですって」
「そう。届けてくれてありがとう。感謝するわ」
みちるは飛び切りの笑顔を美奈子に送った。照れながら笑う美奈子に嫉妬をしたいけれど、レイの前でそんな態度は見せられない。
「へへっ。ついでだから気にしないで。でも、もう帰ろうと思ったんだけど、レイちゃんがお茶飲んで行けっていうの」
「どうせ、本当は暇なんでしょう、美奈は」
会おうという言葉には“二人だけで”という意味を含んでいたつもりだけれど、そんなことを口に出すなんて嫉妬心バレバレ。レイだって美奈子を押し返したいと思っていないのなら、みちるだって思わないことにしないといけない。
「美奈子、お座りなさいな。レイを送ってくれたのでしょう?お礼をしないと」
オトナらしくお礼をして、お腹いっぱいになって満足してもらったら帰ってもらわないと。
「えー。じゃ、パフェ食べてもいいかな?」
必死で自転車をこいだ分のエネルギーを早くも取り戻そうとする美奈子。
レイは涼しそうにしている。
「レイ、美奈子の自転車に乗せてもらえてよかったわね」
嫉妬していませんと言う素振りを見せるつもりでみちるは微笑んだ。
「まぁ、よく乗せてもらってるけれど」
「だよね。私が自転車に乗ってみんなでどこか行くときは、決まって帰りはレイちゃんを後ろに乗せて神社まで送って行ったものね」

自転車買おうかしら。みちるは内心思った。

「でも、みちるさんという人ができてからは、レイちゃんはめったに自転車の後ろに乗らなくなったけれど。今日が凄く久しぶり」
なかなか、フォローの上手な子。みちるは嫉妬したけれどやっぱりそれを取り消す。
「美奈、黙りなさい」
それに比べて、レイは本当に素直じゃない子。
「だって、みちるさんが嫉妬したら世界中の海が大荒れでしょう」
「…あら、嫉妬なんてしていなくてよ」
みちるは微笑んだ。

美奈子には敵わない。姿を見つけたときからずっとポーカーフェイスを保っていたのに、こうも簡単にみちるの気持ちをコントロールさせてくれるとは。美奈子に嫉妬して、ますますレイを好きになってしまう。レイが美奈子に対して遠慮なくきついことを言って、それを楽しんでいる姿を見ると、もっとレイのことを知りたくなってしまう。
嫉妬をする。美奈子にもレイにも。
言い様に想いをコントロールされているように感じる。
自転車だけは、買わないでおこう。嫉妬をしたことがバレてしまう。仕方がないけれど、自転車の二人乗りは美奈子の領域かもしれない。だけど、レイをそんなに何度も乗せるのを認めるわけにもいかない。でも、そう言ったら嫉妬をしていることが伝わるだろうし。

「よかったね、レイちゃん」
目の前で普通に会話をしながらも、なぜだか表情が浮き沈みを繰り返しているみちるを見ながら、美奈子がレイの耳元で呟く。
「何?」
でもレイはちっとも気がついていやしない。
妬かれる幸せを知るにはまだまだ、恋愛経験が少ないのかもしれない。

恋のキューピットも楽じゃないと美奈子は思った。


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Date:2014/08/23
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