【緋彩の瞳】 愛をつついて ④

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

愛をつついて ④


逃げ込んだみちるの部屋。
初夏の日差しが柔らかく注ぎこまれた広い海のような部屋。

隅々まで掃除は行き届いて、空気清浄機がマイナスイオンを発しながら常に働き続けている。
レイはコーヒーを一口飲んでマフィンを食べきり、ベランダの窓を開けた。
日差しの光のまぶしさを想うより、それほど暑くはない。
木々の緑が目に染みる。そんなことで感動するようなことなど、普段はないのだけれど。
「おいで」
呟くと、視界に入っていなかったフォボスとディモスがどこからか舞い降りて、ベランダの手すりにやってきた。こうやって3人だけになるなんて、ここ最近はあまりなかったかもしれない。
「いい天気ね」
手すりにもたれると、2人はレイの肩にかかる髪を愛でるように、身体を寄せてくる。
「あの迷路でズルをしたのはみちるの方よ。覚えてる?」
みちるは自力を諦めて、足元30センチほどの隙間をくぐりぬけてゴールまで辿り着いたのだ。レイはルールを守りゴールへの道を探した。
小さな小さなプライドだった。
何をしても要領のいいみちるに、何か一つでも勝てるものが欲しい。ただ、それだけだった。
「みちるの得意げな顔と言ったら。あとで深美ママが怒ってたけれど」
あの時も、2人は高い空をずっと飛んでいた。みちると喧嘩して1人になったレイをただ、ずっと見ていた。あのときは、確かに見守られている安心感がそこにあって、だから、みちるがいなくても孤独感を抱くことはなかった。
いつでも、どんなときも、たしかに2人の存在はある。人間と言うものはとても面倒臭い動物で、感情でさえ言葉で表現をすることに価値を見出しているけれど、この2人とは、溶けて染み込む想いを声にせずにいられる。

伸ばした腕に乗り、しばしの憩いの空気を飲み干す、その小さな嘴を指先でつついた。

この仮の姿、東京でもどこでもあまり好かれない色の鳥だけれど、万人に好かれるような幸せの白い鳩より、とても自然に寄り添える格好だと思う。
猫は飛べないし、なにより口うるさいし。
あんなのと毎日一緒にいるうさぎと美奈はある意味尊敬に値する。
誰かと会話をしていれば、独りではない証明にはなるだろう。
だけどそんな目に見えるものだけが真実とも限らない。
「あんたたちは、私の歩むべき道に迷ったときにちゃんと私を導いてくれたものね」
変身できずにいたとき、助けに来てレイを導いてくれた。
美奈でもみちるでもなく、プリンセスでもなく、レイに必要なものを持っていたのはこの2人だ。初めて戦士として目覚めた時も傍にいた。ずっと見守られて強くなってきた。

少しの時間、2人と同じ景色を眺めていた。
同じ高さで。
同じ色を。



「レイ」
ノックをせずにみちるが部屋に入ってきた。ここはみちるの部屋だから、遠慮をしないことは当たり前なのだけれど。みちるの気配をレイより早く感じ取っていたのか、2人はレイの髪に嘴でキスを落として舞い上がっていったから、誰かが来るのだろうと言うのは分かっていた。
「ん?」
「もう機嫌は直していて?」
「さー」
「陽に焼けちゃうわよ」
「そーね」
まぶしい太陽の光を浴びて、見上げた空には舞い上がった2人がいる。
「慰めてもらっていたの?」
隣に来たみちるは手で影を作りながら、遠くの空に向かってもう片方の手を振った。
「別に」
「そう?美奈子が機嫌を直して降りてくるのを待ってるわよ」
「海に沈めてやろうかしら、本当」
みちるの白い肌も焼けてしまう。
レイはまだ空を見上げているみちるを引っ張って部屋に入った。
2人には何も声をかけたりはしない。
「でも、レイは美奈子を助けるのでしょう?」
陽を浴びた黒髪を優しく撫でるヴァイオリニストの手は、幼馴染の癖に穏やかで頼りになる。
「ふん」
「フォボスとディモスには言葉はいらないけれど、美奈子は人間なのだから。嫉妬したりして愛を確かめたい時だってあるのよ。そのたびに腹を立てても仕方ないでしょう?」
「でも、内容によるでしょ?馬鹿げているわ」
仮に美奈とあの2人が海で溺れるようなことがあったとしても、フォボスとディモスはレイに助けを求めたりはしないだろう。そんなみすぼらしいことなどせず、美奈の足元にもぐりこみ、少しでも美奈の息ができるように最後の気力を振り絞って、死を恐れる隙さえ見せずにその命を費やすだろう。レイはそれに甘えて美奈を助ければいい。そして2人を誇りながら生きてゆけばいいだけだ。
「言っておいたわ。フォボスとディモスはレイに助けを求めたりするような馬鹿な子じゃないんだからって。レイは迷いなく美奈子を助けるし、彼女たちもそれを望むだろうからって」
「……そう」
みちるは付き合いが長いからか、そういうところは口にしなくてもちゃんと通じる相手だ。
「結局、競争する相手じゃないっていうことなのよ。でもね、美奈子はちゃんと分かっていても言いたくなるのよ。レイが好きだから」
「……本当、馬鹿馬鹿しい」
「そうね。でも、あの子なりに、それだけレイを想う気持ちは負けたくないって言う気持ちだから、とりあえず、機嫌を直してあげたら?」
わざわざ美奈の代弁者になることないのに。
言えないけれど言いたいことは他人を介して伝えたい。
それもまた、人間の持つ面倒な部分だと思う。
溜息ひとつ落とすことで、そういう面倒が軽くなればいいのに。
「みちるはいいの?」
「何が?」
「みちると美奈、どっちが大事?という質問の答え」
「あぁ、うざい。だったわね」
みちるは思いだして、そしてそれに少しムッとしたのか、背中に抱きついて脇腹をつついてきた。
「レイは天邪鬼だから。いちいち気にしないわよ」
「あぁ、そう」
「でも、どっちも大事って言ってもいいのよ?」
「何?どっちもうざいが本音なんだからいいじゃない」
「もぅ……」
それでもみちるは、腐れ縁という糸で繋がった幼馴染。
互いの思考回廊の裏くらいまでなら簡単に読める、唯一無二の存在。
レイがフォボスとディモスを愛していることは、みちるを介して間違いなく“言葉”を使い伝わっているだろう。いちいち言葉にしたくないということも、十二分に承知の上で、それでもお節介を焼いて、わざわざ伝えているだろう。みちるはそういう人だから。
「ほら、今日はみんなで植物園に行くんだから、お弁当作るのを手伝って」
「人手が欲しくて呼びにきたわけね」
「そういう口実にしたほうがいいでしょ?」
「………みちるって私のことを操ってない?」
腐れ縁という糸はレイの背中に付けられていて、みちるの指先で自由自在に動くのだろうか。でもレイもまた、そんなみちるを指先で動かせる技も持っているから、どっちもどっちなのだろうけれど。
「さぁ?いいじゃない、それで」
みちるに押しだされるように、部屋を出てリビングに戻った。

お弁当のおかずは何がいい?なんて聞いてくるみちるに、しいたけが入ってなかったら何でもいいと答えながら。



ランチボックスを手にした美奈子様が先頭を切って、玄関から勢いよく飛び出してこられた。
「レイちゃん、早く!」
「お弁当箱を振り回さないでよ、美奈」
「美奈子、アルテミス忘れてるぞ~~」
何やら、揃ってどこかへお出かけするのだろう。そろそろ雨の季節が始まるから、今日が最後のチャンスかもしれない。
はるか様は、ご自慢のスポーツカーではなく新たにワゴンカーを購入された。カスタマイズされたそのお車について、ディモスは20分ほど拘束されてしまい、説明を聞かされたことがある。よくはわからないが、その辺を走るファミリーカーよりも幾分と性能がいいということらしい。
安全運転をしてくださればいいのだけれど。
レイ様は美奈子様に腕を引っ張られて、お車の3列目に乗り込まれた。ほたる様の手を引いたせつな様と、忘れ物のチェックを終えたみちる様も出てきて、それぞれがお車の中へと入っていかれる。
はるか様が言うには、エンジン音も違うとのことらしいが、よくはわからない。
走り出した車は一度クラクションを鳴らす。
それはフォボスとディモスへ向けられた合図。



羽を広げ、フォボスとディモスは青い空を目指した。

レイ様をお守りするために、高く高く空を飛ぶために
レイ様の愛する人たちを、お守りするために
レイ様の愛する世界を見つめるために

たとえ言葉を交わすことがなくとも
素肌に染み込む愛がレイ様の答え

私たちに星を与えてくださった
銀河一神々しく輝く星のプリンセス


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Date:2013/11/10
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