【緋彩の瞳】 優しさ小さじ1杯 ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世設定なし]

優しさ小さじ1杯 ①

黒木ミオがうさぎ騙して美奈子のライブやっちゃうAct30


「……え?」
学校から帰ってくると、鳥居の傍に1匹の…ひとつのぬいぐるみがいた。
「アルテミス」
「やぁ、マーズ」
いつもの黒い方じゃない。
レイはアルテミスを抱きあげて、その持ち主であるアイドルもいるのかと辺りを見渡した。
「あ、いや、美奈子はここに来てないよ」
「1人で来たの?」
「そうだよ。なんていうか、行って来いって言われたんだけどね」
「ヴィーナスに?」
白猫ぬいぐるみアルテミスの所有者は、うさぎ曰く有名なアイドル愛野美奈子で、セーラーヴィーナス。アイドルだからなのか、それともほかに何か事情があるのか分からないけれど、何度レイが声をかけても、絶対に仲間と一緒に行動しようとしない、協調性がゼロの自称リーダー。
「そうさ。僕はパートナーであって、使いっパシリじゃないっていうのに、いつもこうなんだよ」
そう言って、アルテミスは首輪のところに挟まっている紙をレイに渡した。
「何なの?」
「美奈子の携帯電話の番号と、メールアドレス」

「………で?」

「渡せって言うから。確かに渡したから」

「あぁ…そう」

これで何かあったらすぐにヴィーナスを呼べるというのは便利かもしれない。この前みたいに、愛野美奈子がどこで何の仕事をしているかを、イチイチ調べる必要もなくなるし。
「あと、君の番号とアドレスを聞いて来るように言われてる」
「……なんで本人が来ないのよ」
別に教えたくない理由はないけれど、あれこれ電話で上から指図されたりするのではないか、と思うと、一緒に戦わないことに更に苛立ちを覚えてしまいそうで嫌な気持ちにもなる。
「さぁね。ただ、美奈子は君のことを信頼しているのは確かだ」
「嬉しくないんだけどね」
レイはノートを取り出して、自分の携帯番号とメールアドレスを書いてアルテミスの首輪にくくりつけた。
「よかった。すんなり書いてくれて助かるよ。もらうまで帰ってくるなって言われていたから」
「別に教えない理由はないわよ」
「そうか。じゃぁ、これからもプリンセスのことをよろしく頼む」
「言われなくても。うさぎは私の仲間だから」
仲間に入るつもりのないヴィーナスのことを、アルテミスはそれでいいと思っているのだろうか。レイたちに隠して何かほかにやらなければならないことがあるとしたら、それは何なのだろう。
影武者じゃなくなり、まして自分がリーダーだと意味のわからないことを言っているくせに、そのリーダーが単独行動するなんて。
「……あぁ。そうだな、君は絶対プリンセスを守ってくれる。だから美奈子は君に託しているんだと思うよ」
「どういう意味よ」
託すって何。
ヴィーナスは戦いが終わるまでずっとこの距離を保つつもりなのだろうか。
「いや。とにかく美奈子に言われたとおりのことは終わったし、僕は美奈子のところに帰るよ」
「そう。気をつけて。変な子供について言っちゃだめよ」
レイは足元にアルテミスを置いて、それから頭を撫でた。これが本物の猫だったらよかったのに、って思う。人間に変身することができちゃうルナっていうのは正直怖いんだけど。アルテミスが人間になってしまわなくて、よかった。
「……君は美奈子に似てるよな」
「は?」
「いや。じゃあ」
誰もいないことを確認して、アルテミスは本物の猫みたいに走って行った。
ヴィーナスは、今どこで何をしているのだろう。



携帯電話に愛野美奈子の名前で番号とメールアドレスを登録してみても、特に今のところ何も用事はない。聞きたいことや知りたいことはあるけれど、それをヴィーナスが教えてくれるなんて思ってない。
クラウンでいつものように4人で集まって、うさぎの学校に転校生がやって来たらしい話しを聞いた。全く知らないけれど、新人のアイドルらしい。
「亜美ちゃん、その子って有名なの?」
「うーん。ごめんね、私も言うほどテレビを見るわけじゃないし。でも、CMの数は愛野美奈子と同じとか、それを上回る勢い、だとか…」
「へぇ」
それって人気の基準になるのかしら。CMってそんなに重要なことなのかよくわからないけれど、うさぎは愛野美奈子の方がいい!と言いきっているし、その新人に会ったことがないレイは興味もない。でも、まさかヴィーナスはライバルが出てきて仕事を奪われたくないから、そっちを優先させたいなんて思っていたりするんだろうか。

……まさかね。

1人考えていると、携帯電話が鳴った。
「ちょっと、ごめん」
愛野美奈子と表示されている。レイは携帯を手にして急いで部屋から出た。
「……もしもし」
『マーズ』
「……何の用事?」
『別に。ちゃんと本当の番号を渡したのか、確かめておこうと思って』
「うさぎの番号でも欲しかった?」
『まさか』
「別に、私の番号を教えたくない理由もないから」
『そうよね、だからって、何かあるたびに私のことを呼んでも無駄だから』
こっちから掛けるなんて、するつもりない。
「別に、よっぽどじゃない限りあなたに助けてなんていうつもりもないわよ。アルテミスの方が役に立つでしょうし。私たちは仲間だから、4人で助けあってやっていくから」
精いっぱいの嫌みを言って、電話の向こうからの反応を待ってみても、ヴィーナスからは仕返しの声がやってこない。
「……ヴィーナス?」
『黒木ミオに気をつけて』
「は?」
『プリンセスの学校に転校してきた、黒木ミオよ。嫌な気配がするの。よく見ておいて。それじゃ』
「………はぁ?ちょっと!」
一方的に切られた電話。折り返したいと言うわけじゃないが、まさかヴィーナスはこうやってレイにあれやこれやどこにいても命令ができるというだけで、番号の交換をしたというのだろうか。
「黒木ミオって、愛野美奈子のライバルなら、自分で何とかすればいいのに」
とはいっても、レイだってうさぎと同じ学校じゃないし、何がどうなっているかなんてわからない。


「レイちゃん、電話?」
「あぁ、うん。ごめん。身内から」
うさぎがカラオケで1人盛り上がっている。亜美ちゃんはそう言えば、うさぎと同じクラスだ。
「ねぇ、亜美ちゃん。悪いんだけどお願いがあるの」
「何?」
「その、黒木ミオっていう人、クラスでどんな様子なのか、できれば毎日教えてほしいの。うさぎとどういう風に接していたかとか、話していた内容とか、クラスの様子とか」
「……いいけど。何かあったの?」
「いえ。ほら、プリンセスに目覚めたばかりでしょ?今、この環境でうさぎに近づく人間は、全て疑ってかかった方がいいと思うの。何もなければそれに越したことはないと思うわ。だから、安心したいっていうだけだから」
「うん。レイちゃんは学校が違うし、うさぎちゃんのこと心配だもんね。なるべくちゃんと様子を見ておくね」
「ありがと」
ヴィーナスは何を疑っているのだろうか。何か心配の種があるとしたら、それは新たな敵の予感なのだろうか、それとも、単に自分のライバルがうさぎの傍にいることが気に食わない、とか。いや、まさかいくらなんでもそこまで子供っぽい……いや、愛野美奈子という人物はそう言うタイプだったような気もする。


それから、ヴィーナスからの電話は頻繁に来るようになった。
レイは亜美ちゃんから聞いた十番中学で起こっている出来事をそのたびに伝えて、ヴィーナスの様子をうかがってばかり。何だろう、これは。
『怪我をした黒木ミオを置いたまま逃げたって、吹聴して回ってるんでしょ?』
「敵が現れて、黒木ミオを安全なところに移動させただけらしいけれどね。わざわざそんなことを人に言うかしら。変と言えば変なのよね」
『孤立させたい理由は何なのかしら?』
「さぁ。亜美ちゃんとまことは事情を知ってるし、私たちは大丈夫なんだけど。その子3日間だけで、あっという間にクラスの中心人物になったらしいわよ」
『……そう。この前、普通に話をしていただけなのに、いきなり嘘泣きされたわ。周りのスタッフにこっちが悪いみたいに言われるし、あの子、相当曲者なのよね』
「それはヴィーナスがいじめたんでしょ」
『はぁ?そんなことするわけないでしょ?』
「どうだか。興味ないけど、それなりに人気出てきているとかなんでしょ?嫉妬したんじゃないの?」
『するわけないでしょう?あの子がプリンセスの正体と私の正体を知っている可能性はあるんじゃない?』
ヴィーナスなら、嫉妬していじめそうなのに。なんて言わないでおいた。うっかり、レイにまで口撃受けたんじゃたまんない。
「まぁ、色々と気になるところもあるのよね。亜美ちゃん曰くうさぎが黒木ミオを伝書鳩にして、18時に外で集まる様にって言ってきたらしいわ。直接じゃなくて、黒木ミオを通してって言うのも気になるし、何かあるのかもしれないわ」
『……気をつけなさい。プリンセスに直接確かめないの?』
「いや、うさぎが何かサプライズをしかけるから、本人に確認してはダメって言われたみたい」
『……それ、おかしくない?なんで黒木ミオを使うわけ?ほかの人間でもいいのに』
「変なのよね。明日、ルナにお願いしてこっそり、黒木ミオに張り付いておくようにいってある」
『そう。何かあったらすぐに電話して』
「わかった」
『じゃぁね、マーズ』
電話を切って、ふと思った。
愛野美奈子はいつまでレイを“マーズ”と呼ぶつもりだろう。
そしてすぐ思った。自分も相手を“ヴィーナス”と呼んでいることを。
愛野美奈子っていうフルネームは平気なのに、“美奈子”って呼べないのはどうしてだろう。
それが“仲間”かそうじゃないかの違いなのだろう。距離感がそうさせているような気がした。




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Date:2014/08/24
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