【緋彩の瞳】 溢れる涙の愛しさに ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

溢れる涙の愛しさに ①


『ヴィ…ヴィナ…』
息をさせてくれないほどに唇を求め、愛に溺れる。
彼女の背中を指先でなぞりながら、そっとリボンを解く。
それにも気づかず、マーズはもっとキスをねだる。
『ヴィナ…抱いて………愛して』
もっと求めて。もっと愛して欲しいとねだって。
『愛してる、マーズ』
『……死ぬときに、私の名前を叫ぶくらい?』
『当たり前じゃない』

変なの

『……ウソツキ』

そんなつぶやきが聞こえた気がしたけれど、聞こえなかったふりをする。
ヴィーナスは笑って彼女のドレスの肩ひもを腕から外した。



「……最悪」
目覚まし時計は4時半に設定しているはずなのに、目が覚めたのはまだまだ辺りが暗い時間。嫌な夢を見た。そして、夢の中の自分が幸せそうにマーズと身体を重ねていた。

夢、というか事実であって、前世の出来事、なんだけど。






「レイ!!」
「……………美奈子?」
何事かと思ったけれど、驚きというよりも戸惑いの方が強かった。
たぶん、レイは寝ていた。自分でもよくわからない。周りが暗くて身体はだるいし、完全に意識もないところからいきなり起こされたのだから、寝ていたということを思い出すまでに少しの時間がかかった。
声だけで誰なのかがわかる。と言うより、こんなあたりが暗闇の時間帯に来る非常識な人間はレイの関係者では1人だけだ。
もちろん、勝手に人の部屋に上がり込んでくるのも1人だけ。建てつけの悪い玄関の扉がガラガラと音を立てることを嫌い、レイは美奈子に裏庭から直接上がってくる方法を教えている。
それ以来、昼間であろうとも美奈子が玄関の扉を開けたことなどない。
「ただいま」
「……何時よ」
身体が2倍の重たさなのは、抱きついている美奈子も一緒に起こしたせい。レイは枕元に置いている携帯電話を見た。

4時25分

もう、朝に近い

「今日、朝から撮影でね、マネージャーが5時すぎに迎えに来るのよ」
「だったら寝てなさいよ。うちに来ることないでしょ」
「なんだか目が覚めちゃって。PVの撮影で土日は東京にいないから」
そのスケジュールはずっと前に聞いている。平日もレコーディングが続いていたし、しばらく会えないっていう話もたしか3日くらい前の電話でしたはずなのに。というか、昨日の夜にも聞いた。
「………朝からテンション高いわね」
レイは美奈子の身体を押し返して布団からどかした。寝ていることさえわからないくらい、ぐっすりと寝ていて幸せだった睡眠を奪われ、少々腹立たしい気持と、美奈子に会えたことの嬉しさが戦っている。
でも、これを許すから、美奈子は人の活動時間を考えることなく、悪気なくこういうことをしているのだ。
「早朝からずーっとカメラに向かって、笑顔でいないとだからね。その前にエネルギーをチャージしておかないとダメでしょ」
「………眠いんだけど」
もう一度ガーゼケットに入りなおそうとすると、当然のように一緒に入ってくる。二度寝は許してくれるつもりがない、ということ。
「レイ、薄着ね」
「……夏なんだから、そりゃそうでしょ」
「やらしー」
帰って欲しいわけじゃないから、とりあえず背中を向けた。少しくらい申し訳ないって思ってもらいたい。
「え……ちょっ」
腰に回された腕が上に上がったかと思ったら、両手がレイの胸の膨らみに触れてくる。
「思ったより小さい」
「ちょっと、変態…何してんのよ」
「エネルギーチャージ」
ぼんやりとしていた意識が、美奈子の温度を胸に感じてはっきりした。何かすごく、変なことをされているような気がする。でも心の底から嫌悪感を抱いていない自分がいて、妙な気持ちにさえなった。
「み、美奈子…。なんで人の胸触るのよ」
「え?だって、彼女じゃない」
「……いや、ちょっと…それは…」
「彼女、でしょ?」
違う、とも言えないし、そうね、なんて肯定したら何かもっと違うことをされそうで、一瞬ひるんだ。何か、を具体的に考えないようにって、咄嗟にごくりと生唾を飲み込む。
「レイ、聞いてるの?レイは私の彼女、でしょ?」
「……はい」
一応、彼女…っていう立ち位置のはず。勝手に付き合うことにされて、でもそれは嫌じゃなくて、なんていうか、嬉しいと思う気持ちもあって。毎日来るメールもちゃんと読むし、画像も見られるようになってからは、誰もいないときに見ているし。
「何か問題でもある?」
「いや……それはあるでしょ」
相変わらず美奈子の両手は、レイのそれほど大きくない乳房をわしづかみにしていた。
こんな行動に出て、美奈子は男だっただろうか。
「どうして?」
「……美奈子は女でしょう?」
「そうよ。何、それって問題なわけ?」
「………男みたい」
「男なら、されても仕方ないわけ?」
「そんなわけないでしょ?………あっ…」
指先が何かを探すように膨らみを泳ぎ、頂きに触れてきた。思わずもれた声に、自分でも想定していなかった声が出て、口を塞いでしまう。
「レイ、可愛い声」
「………やめて」
「もうちょっとだけ」
「やめて……もう!」
肘で細い腰を押し返しても、寝ているせいでそう簡単に離れてはくれなさそう。それに、美奈子が胸を触ってくるせいなのか、力が奪われている。
「レイ、意地悪しないでよ」
「意地悪してるのは美奈子でしょ?」
押し返してはひっついて来て、それを何度も繰り返す。レイは両足で美奈子を押し蹴り、自分が布団から逃げ出した。
「……ひどい」
「そ、それはこっちのセリフじゃない」
触られていた胸を隠すように自分の両腕を抱く。
頬を膨らませて起きあがった美奈子、は批難するような視線をレイに送って来た。

こんなこと、早朝からすることじゃないのに

いや、そうじゃなくて
時間帯の問題じゃなくて

「……ち、近づかないで」
身体が熱いのはどうしてだろう。心臓が寝起きではありえないようなリズムを刻んでいる。当然のように近づこうとする美奈子を、怖いと感じた。
「なんでよ」
「触るつもりでしょう?」
「そんな、セクハラじゃないんだから。スキンシップしたいだけよ」
「……嫌よ」
「なんで嫌なのよ」
「だ、だって……」
胸を守る様に組んだ腕が、自分の意思とは関係なく震えている。心臓のリズムとは無関係に。
苦しさを感じているのに、その理由がわからない。
「……なんで、そんなに嫌がるわけ?レイは私を好きなんでしょ?」
どうしてそう言う聞き方をしてくるの。
嫌な聞き方だって思った。そうやって、レイの気持ちを確認するのはどうしてだろう。
美奈子にそうさせているのは、レイが美奈子のように自分から好きだって言わないからなんだろうっていうのは、何となくわかる。
でも、付き合って3カ月も経ってない。その間に何度会ったかと言えば、週に1度会えればいいくらいなので、まだ数えられるくらい。

毎日声を聞いて、毎日メールもして、毎日送られてくる画像も見て。

それは楽しいと思うし、幸せだと思う。
2人きりのとき、美奈子はキスをしてくるし、それには慣れてきた。
言うと調子に乗るだろうから、嬉しいなんて口にはしないけれど、嫌がっていないことは伝わっている。

だけど、それと身体を触ってくることは別のはず。
絶対。
好きと言う気持ちがあれば、触らせてもいいものなのかはわからない。

「なんで黙るのよ。レイはいつもそう。一方的に私が好きなだけ、みたいにしてるけど、何がしたいわけ?意地っ張りも、私との関係に対して発揮する必要があるの?今は2人きりよ?」
触られたのはレイの方なのに、どうして美奈子が怒る必要があるんだろう。止めてって言っただけなのに。
「べ、別に……キスくらいならしてもいいけど」
「何なのよ、それ。くらい、ってなによ」
「……だって、その」
レイから言わせれば、キスするだけで精いっぱいで、それで幸せを満たしているように思っている。だから、美奈子が身体に触れるような行動を取ることが理解できないのだ。
「意地っ張りなレイも好きだけど、私の前では私だけを見つめて、私に好きだと伝えて、素直になってもらえるって思ってた」
「……勝手に思っていただけでしょ」
何もかもが、レイには経験のないことばかりの連続。

アイドルという職業
同性
戦士
前世がある

そして
人を好きになるということも

美奈子に言われるように行動しておけば、嫌われることもないだろうと思っている。
だけど、身体に触れられることは自分が望んでいるかどうかなんて、全然わからない。

「レイ」
美奈子の口調はレイを批難している。貴重な睡眠時間を割いて会いに来てくれた。
会いたいって思ってくれたことは嬉しいのに。
「…………」
「マーズはいつも私に“抱いて”って言ってきたのに」

カッとなって、美奈子の頬を叩いた。
パチン!という音が鳴った瞬間に、美奈子がなぜ早朝じゃないと時間が取れなかったのかを思い出した。


PVの撮影


「仕事前になんてことしてくれるのよ」
謝ろうと思うより早く、アイドルはきつく睨みつけてきた。赤くなった左頬をさすりながら、咄嗟に仕事のことを考えることは、今は流石だと思えない。
目の前のレイよりも、仕事。
いや、そんな子供じみた考えを持つなんて、どうかしている。
でも、何も言葉を紡げない。ごめんと思ったのに、それが声に出せなかった。

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Date:2014/08/28
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