【緋彩の瞳】 溢れる涙の愛しさに ②

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

溢れる涙の愛しさに ②

「……私はマーズじゃない」
「だから何よ」
「抱いてなんて、私は一度も言ってない」
「だから、私は“マーズは”と言ったわ」
でも、レイはマーズだ。
確かに前世を持っているけれど、それを記憶していない。
レイが美奈子を好きだと思うのは、美奈子がヴィーナスだからじゃない。
前世のことなんて知らないし、知りたくもない。
それにとらわれてしまえば、美奈子が望んでいるのは自分ではない気がしてしまう。
美奈子がレイのように前世を記憶していなかったら、レイを好きになってくれたのか。
そんなことを考えてしまう自分がいて。自分が2番手のような気持ちになる。美奈子の本命はマーズで、レイは容姿が同じ別人のような扱いをされていないか、と思ってしまう。

だから、普段はそんな風に想わないようにって自分に言い聞かせている。

それなのに、マーズの名前を出すから……

「じゃあ、何よ。私に前世のマーズがそうしたように演じろっていうわけ?」
「違うわよ。もっと素直になればいいって言ってるの」
「だったら、よその素直な女に抱いてって言ってもらえばいいでしょ」
「はぁ?レイ……馬鹿じゃないの」
美奈子は腕時計を確認して立ち上がった。赤い頬を冷やしてあげないと、って思いながらも、そのタイミングはもうとっくに逃している。
「馬鹿って何よ」
「もういいわよ。レイに何も期待しない」
「期待?」
喧嘩腰に言い返しても、美奈子は鞄を手にとって振りかえらずに部屋を出て行った。
早朝の神社はとても静かで、夏と言ってもまだこの時間は蒸し暑さもない。
レイはもう眠る気になんてなれなくて、小さくうずくまった。


震えた両腕は、涙をこらえていたからだった。
とめどなく流れたのは、悔しいからなのか、腹が立つからなのか、驚いたからなのか。

自分がどうしたいのか、何も分からないし、わからないと言うことが伝えられない。
そのことが苦しかった。





手水場に向かい、美奈子はハンドタオルに水を浸して絞り、ヒリヒリする頬に当てた。ひんやりと気持ちがいい。熱を持っているのだろう。撮影は6時半時からだ。夏の朝のさわやかな日差しとひまわり畑で、新曲のサビ部分を重点的に撮影する。カメラテストが終わるまでには赤みも引いてくれるだろう。
それにしても、レイの天の邪鬼は面倒臭いにも程がある。喜怒哀楽の変化は見ていて楽しいし、可愛いし、瞳が美奈子を好きと歌っている。その些細な仕草を見つめるたびにドキドキする。
「……あ~ぁ。マーズの名前を出すなんて、馬鹿だな私」
レイは付き合うようになってから、いや、付き合う前から、前世の柵に対して嫌がる態度を見せていた。戦う理由も、生きている理由も、恋も、前世から決められたわけじゃなく、自分の意志だという信念を言い続けてきた。
それは間違えていると思っていたし、そのことで戦いに身を置いているときは、何度も口論になった。

だけど、レイは美奈子が好き。そのことを否定しないことは、肯定と同じもの。
レイの前世が、あの頃のマーズがヴィーナスに共鳴してくれているのか、と思った。
何度確認しても、前世の記憶なんてないと言い続けたレイの中のマーズが、それでも魂はヴィーナスを求めているのか、と。


「……私も記憶がなければよかったのに」
だけど、あの想いがなかったことにされるのも辛い。
それはきっと、レイにはわからないだろう。
愛しくて愛しくて仕方がなかった。
どんなことがあっても、必ず来世でまためぐり会おうと約束をしたこと。
それが叶えられた喜びも。
彼女には伝わらないし、分かち合えない。
「……愛してって言ったのは、マーズなのに」
レイが混乱するから、前世のことを持ち出さないようにって、付き合うようになってからは気を使っていた。そうすればレイだって、いつか素直になってくれると思っていた。
もちろん、素直になってくれることはある。
キスだって拒否されなくなったし、いつだって美奈子の都合を優先してくれるし。
「あれじゃ……前世で毎晩何をしていたかなんて、話しをしたら……殺されるわ」
美奈子としては、3か月もレイに触れずに我慢していたのだから、むしろ褒めてもらってもいいくらいだと思っていた。
しかも、素肌には触れていない。服の上から胸に触れただけなのに。
「……ひどい仕打ちじゃない」
潔癖なところがあることはわかっていたけど、愛しているという表現でしかないものなのに。
「………マーズ、レイは手ごわいわよ」
美奈子もレイも1人しかいないのに、なんだか4人で恋愛しているみたいだ。
だから、美奈子はレイと付き合うためならって、ヴィーナスが愛するマーズを心の中に押しとどめたはずなのに。
「……盛りのついたネコみたいよ、ヴィーナス」
自分に言い聞かせたところで、でも美奈子としてレイに触れたい気持ちが全くなかったかと問われてしまえば、レイに触れたいと思った手は美奈子のものです、と応えるしかない。
嫌だと言いながらも、受け入れてくれるだろうと言う淡い期待は、ビンタになって返って来た。
「馬鹿」
美奈子もレイも、ヴィーナスもマーズも。
馬鹿だ。



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Date:2014/08/29
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