【緋彩の瞳】 溢れる涙の愛しさに ④

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

溢れる涙の愛しさに ④

「……へぇ。なんだ、レイって優しいのね」
自動販売機の前のレイは、飲み物をすでに2つ買っていた。紅茶とオレンジジュース。
「……何がよ」
「別に。それより、何よあのメール」
「馬鹿に馬鹿って送っただけ」
「二日間メールが来なくて寂しい、っていう意味でしょ?」
レイは何も答えない。黙ったままふたつのペットボトルを小脇に抱えて、次の飲み物を買おうとしている。美奈子は持っていた小銭をコイン入れに通した。
「レイは何を飲む?」
「………アイスコーヒー」
「無糖、ミルク入りね」
美奈子はボタンを押して缶を取りだすと、小銭を入れてレイと同じものを選んだ。
「悪かったわよ、マーズの名前を出して。レイからしたら迷惑だっていうことは、一応頭ではわかってるの」

でも
あの約束をなかったことになんてできない
あの愛が消えたと割り切れないものがある

抱いてとヴィーナスを求めたマーズは
来世でも愛してと言ってくれた
必ず、愛して、と

「美奈子も私も、別の心を求めているというの?私はいつでも愛野美奈子だけなのに、美奈子はヴィーナスの気持ちでしか私を見てくれない……だったら私は1人でいる方がいいわ」
レイを好きなのは美奈子なのに。どれだけ言葉にしても、結局美奈子が“マーズ”って呟けば、現実の世界のすべてが嘘になってしまう。
「私だってレイが好きよ」
「だ………だったら…」
うつむいて視線を外す仕草は、人を好きになることに慣れていない“火野レイ”だ。
「マーズがヴィーナスを愛していたことを、なかったことになんてできない」

崩壊前夜に彼女と交わした約束
ヴィーナスが最後に叫んだ人の名前

「……もういいわ。私も美奈子に期待しない」
「レイ」
寂しそうな瞳と、ふてくされた態度。
お互いに成熟していない、初めての恋をもう1人の自分が邪魔をする。
「結局、美奈子は私がマーズだから傍にいたいんでしょ?」
違うと首を振れない

レイは絶対に受け入れてくれない
戦う理由も
愛する理由も

「レイが好きよ」
気持ちに嘘はない
この手が求める温もりを持っているのは、火野レイだけ
「……だって、マーズだものね」
レイはオレンジジュースを美奈子に押し付けて、アイスコーヒーを奪い取ると、またクラウンへと戻って行った。
わかってなんてくれないだろう

どれほど愛し合っていたのか
そして、あの時の彼女の願いを叶えてあげられなかったことが
今も心苦しいと思いながら、生きていることを





うさぎは美奈子がジュースを買ってくれたと信じ切っていて、レイも美奈子もそれについて否定するのが面倒になって、何も言わなかった。まことがレイと美奈子の間に流れる冷たい空気にうろたえながらも、クッキーを食べ、うさぎにカラオケを歌わせ、何とか場を盛り上げようと必死なのが、申し訳なかった。
「じゃ、みんな。私、今からお仕事だから」
「え~!もう帰っちゃうの?」
ぶーたれるうさぎに、美奈子が営業スマイルで手を振る。
「今度、みんなで遊園地に行きましょう」
「ぜ~~ったいだからね!!!」
「約束するわ。夏休みにどこかで1日空く日はあるから」
名残惜しそうに手を振るうさぎ。美奈子は学生鞄を手にして一足先に階段を上る。
「レイ、見送りはいいの?」
「いいわ」
「……話し聞くからさ。っていうか、聞かせてよ」
「いいって」
「いや、でもさ」
何かアドヴァイスをもらえば、なくなるようなものでもない。
ただ、美奈子が求めているのは自分ではなくて、かつて愛した人なのだと言うこと。
レイがそれを覚えていたとしたらどうだったのだろう。

嬉しいって思ったのだろうか
前世の続きを望んだのだろうか

でも、それがわからない
マーズを他人だとは言い切れないけれど、やっぱりそれは火野レイではない以上、美奈子がレイに好きだと言ってくれるのなら、レイがマーズではなかったとしても、そうだと言いきってくれる何かが欲しいと思う。

うさぎも家に帰ると言うので、3人はクラウン前で別れた。まことが当然のようについてくる。
レイは歩くスピードを緩めて、結局は良き相談相手に、美奈子が求めているのはレイではないということを説明した。

「……美奈子は、ヴィーナスは…マーズが恋しいのよ。私に好きだっていうのは、マーズと同じ顔をしている私に、前世の想いを重ねているだけなのよ」
美奈子は出会ったときから、前世を持っていた。
たとえば、戦士としてではなく知り合って仲良くなったのなら、好きだと言う感情を抱いただろうか。
彼女は、火野レイを好きになってくれただろうか。
「あぁ、そのことか。ダメなの?前世の自分を愛してくれた人と、現世でもう一度めぐり会えて、また愛してるって言ってくれてるってことでしょ?それってさ……奇跡なんてもんじゃないくらい、ものすごく幸せなことだと思うんだけど」
「私は何も覚えてない」

前世でマーズがどんなふうにヴィーナスを愛していたのか
ヴィーナスに愛されていたのか

「でも、美奈子ちゃんはレイが好きだよ。レイがレイだから。それにレイがマーズでもあるからだ。レイは前世を否定するけれど、前世を確かに持ってるんだ。ヴィーナスを愛していたマーズを否定するなんて、前世のマーズが本当にそれを望んでると思う?」

火野レイが愛野美奈子を好きだと言う気持ちを、受け入れてくれないのはヴィーナスの方なのに

思わず声に出しそうになって、レイは手で口を押さえた。簡単に好きだなんて声に出している自分に今更ながら、恥ずかしくなってくる。

「私だったら素直にうれしいって思う。だって目の前の好きな人が、前世でも恋人同士で、まためぐり会えて、前世の頃からずっと好きだって言ってくれたら……。生まれてきてよかったって思うもん。記憶がなくても、その人と巡り合うために生まれてきたんだろうなって、思えるじゃん。それは、そんなに悪いことかな」
「でも、それに縛られてしまうような気がするわ」

自分に身に覚えのないことでも、“マーズはそうだった”なんて言われたら、レイの意に反していたとしても、抗えなくなり、嫌われたくない想いを抱いてしまうことが嫌だ。

馴れたようなキスの仕方も
当然のように胸に触れてきた指先も


美奈子はレイではなく……“マーズ”と何度もキスをして、身体に触れていたから、ためらいなんて持たずにいられる。

「前世の自分を受け入れるとか、思い出すとか、別人だとかはさ、そう言うのは置いといて。レイは美奈子ちゃんが好きで、美奈子ちゃんもレイが好き。深いこと考えないで、美奈子ちゃんに好きだって言えばいいだけだよ。美奈子ちゃんだって馬鹿じゃないよ。レイが何を考えているかくらいわかっていて、それでも前世でマーズを愛していたって言ってくれるのなら、レイはマーズの分も合わせて、2倍愛してもらえるんだから、お得だって思えばいい」
まことはレイの肩を叩いて、満面の笑みを見せてくれた。
「……まこと」

大切な仲間
前世からの仲間
まことがジュピターじゃなかったら、出会えなかった
こんな風に、励ましたり、心配したりしてくれる大切な友達なんて出来なかった

「だいたい、難しく考えすぎなんだよ。いいじゃん、そんなのどうだって。2人には未来しかないんだから」
「………そうね」
友達はありがたいと思うのに、好きな人だと素直に受け入れられない。
我儘だってことくらいはわかってる。
「あんまり美奈子ちゃんをいじめないであげてよ。忙しくしていて、レイだけが心の支えなんだからさ」
「……そんなの知らないわよ」
「今日だって、あれはレイに会いに来たんじゃん」
「そうかしら?」
「はぁ~~~!なんか、ムカついてくる」
まことは鞄でレイのお尻を叩いて、逃げるように去って行く。
怒ることも、やり返すこともせず、その背中を見送った。



ぷっしゅ
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Date:2014/08/31
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