【緋彩の瞳】 溢れる涙の愛しさに ⑤

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

溢れる涙の愛しさに ⑤

美奈子からの連絡は途絶えている。
夏休み前の試験が始まり、携帯電話を抱きしめてウジウジしながらもやらなければならないことを優先させていると、1週間が過ぎた。美奈子は土日が忙しいと言っていた。夏休みはもう目の前に来ている。何をどうすればいいのか、まだちゃんと考えがまとまらない。
結局この想いはレイのものなのだ、と認めざるを得ない。レイの心は前世とリンクされていないし、ヴィーナスではなく美奈子に会いたいと思う。愛野美奈子だけしか好きじゃない。
本当は認めたくはなかった。

結局、前世にこだわり過ぎているのはレイ自身だって。

「………」
携帯電話の着信履歴を眺めたり、過去のメールを眺めたり、そんなことばかりをしている。
文章を作ってみては、送信できずに消してしまう。
充電がひとつ消えた。ほとんどが美奈子とのやり取りしかしない携帯電話は2日くらい充電しなくても大丈夫なのに、いじってばかりいるせいで、消耗が早い。
時計は夜の11時を回っている。レイは着信履歴から美奈子を選択した。
3コール鳴らして、出なかったら切ってしまおう。
そう思ってボタンを押す。
『レイ』 
「………1コールも鳴ってないのに」
『かけようと思ってたの』
これだけ早くに繋がれば、その言葉が嘘じゃないと信じられる。


「…………美奈子………会いたい」


『すぐ行くわ』


会いたいと毎日想っている。でも、会いたいと口にしたりしないようにしている。
会いたいとありふれたセリフの中に、好きだと言う想いが強く込められているとわかっている。
簡単には出せない感情。
どうしてもっと、素直になれないのだろう。
自分自身に呆れても、どうしようもないというのに。



絞り出すようなレイの“会いたい”と言う言葉は、仕事帰りでぐったりとベッドに突っ伏していた美奈子を飛びあがらせた。携帯電話を見つめては、連絡を取ろうかどうか悩み続けて、思いとどまり、自己嫌悪していた1週間。
なんだかんだ言いながらも、レイから連絡が来るだろうって最初の2日は思った。でも、連絡を取らない記録をあっさり更新してしまって、本当にレイは美奈子のことを好きじゃなくなったのかと心配で仕方がなかった。
でも、美奈子の中での考えもまとまらない。
この1週間、マーズへの想いを殺そうと何度も思った。
この胸を焦がす思いは美奈子だけのものだって、何度も自分に言い聞かせた。
愛野美奈子として火野レイのことを好きでいることに、嘘はない。

だったら、彼女は……マーズは…


「レイ」
部屋にそっと入って襖をあけると、美奈子の姿を確認して、握りしめていたらしい携帯電話を放り投げて立ち上がった。
「………美奈子」
「レイ」

蒸し暑い夏の夜。

額にじんわり掻いた汗をぬぐいながら、さっきまで音をたてないように気を使っていたのが嘘のように、レイに縋りつき、唇を奪った。
一瞬だけたじろいだ背中を抱き寄せて、冷たい唇をこじ開けるように犯すように、レイを求める。
「ん………み…」
言葉を発する吐息さえ奪うように、唇に縋りつく。きつかった抵抗は、諦めがついたのか大人しくなる。力が抜けた一瞬の不意をついて、身体を押し倒した。
「きゃ……ちょっ…美奈…」
「ごめん……我慢できなかった」
レイは目にじんわりと涙をためている。悔しそうな顔。
辛そうで、言いたいことを言えないで我慢している。
そんな顔。
「レイが好きよ」
押し倒した身体を起こすより早く、馬乗りになって腕を押さえつける。
「……美奈」
「好きなの」
「誰が、誰を好きなのよ」
「私が、あなたを好きなのよ」
「ヴィーナスが、マーズを好きなのでしょう?」
美奈子は何も言わずに身体をレイに押し付けて、首筋に唇を寄せた。胸にあたった耳に、かなり早い心臓の音が聞こえてくる。
「やめ……て」
「あなたが好きよ、レイ。前世でマーズがヴィーナスに注いでくれた愛よりも、もっと深くあなたが好き」
キャミソールの中に右手を差し入れた。侵入した腕から逃げるように、レイがもがく。
「やめて!」
「レイが欲しい」
好きだと伝えたいのに。
愛していると。
「美奈………どうして………」
ギリギリまでこらえていた涙が、雫になって綺麗なレイの頬をぬらす。その涙をなめるように唇を寄せ、侵入させたままの掌で彼女の乳房を包んだ。
「私を好きって言って……レイ」
「手をどけて」
「嫌」
「お願いだから……」
「嫌よ。私を好きだと言って。愛してるって言って。抱いてってねだって」
レイを泣かせて、どうしたいのだろう。
「やめて……私は抱かれたいなんて思ってない」
「私のこと、好きじゃない?」

レイの頬に雫が落ちては小さな粒を作ってゆく。
自分の頬を伝った雫が、レイの涙と重なった。

「好きよ。愛野美奈子が好き」
耳にささやく声が響いた。



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Date:2014/09/01
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