【緋彩の瞳】 溢れる涙の愛しさに END

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

溢れる涙の愛しさに END

「……私にはヴィーナスの記憶があるの。ヴィーナスはかつて愛し合ったマーズを求めている。マーズはもう一度生まれ変わったら、見つけ出して、愛してって言ったの。最後まで彼女を守れずに先に死なせて、幾つも約束を破って彼女を悲しませた。ヴィーナスは……マーズとの約束をただ……だけど…」


助けてよ、マーズ
どこに消えたの、マーズ
孤独な夜と痛みに耐えて、マーズにまた出会えることだけを生きる望みにしていたのに


プリンセスを、この星を守るという使命の先に求めていることを
生きている意味を
思い出したというのに


「レイ……愛野美奈子はそう言う女なの。かつてマーズと深く愛し合って、その幻想にしがみついて、でも……レイが好きな気持ちは嘘じゃない。それでもマーズを…ヴィーナスは前世で、マーズを深く愛したの。マーズはヴィーナスを愛してくれていた。その事実をなかったことには……あの愛に満ちていた前世をなかったことには……できない」

掌にあるレイの乳房の感触。美奈子はあの頃を思い出そうとしたけれど、今はその感触が同じだったかどうかさえ、わからなくて。

この掌に伝わる温もりは、火野レイのものだった。


「……応えてあげられないわ」
「わかってる。レイはレイだもの」
「美奈子が泣くほどマーズを愛していたのは、わかったわ。別にもう、そのことを責めたりしない」
レイの涙の上に零れ落ちた雫だけがひとつになる。
2人はこんな風にひとつになれないのだろうか。
「私は……レイが好き」
確かに存在していた前世を消すことはできない。レイが覚えていなくても、美奈子は夢に見るほど、あの頃のマーズを思い描くことはたやすくできる。
この身体では何一つ経験していないと言うのに。幻想を追い求めているんだということくらい、わかっているのに。
「美奈子が私に何を望んでいるのかがわからない……。マーズの気持ちなんて、私にはわからないもの」
涙の川はどこへ流れて行くの。
溢れては咲いて散ってゆく涙の粒。
「……レイはレイのままでいい。レイを悲しませたいわけじゃない」
「でも……」
「レイが好きだって言ったわ。あんまり素直じゃないところも、私のことをまっすぐ見つめる瞳も、さりげなく優しいところも」
あの頃の愛は消えてなくなりはしないけれど、こだわり続ける限り、目の前の彼女は泣き続けるだろう。
そして、離れてしまうだろう。
「でもあなたは、私とマーズを比べ続けるのでしょう?」
「レイ」
「………私がどれほど美奈子を想っても、美奈子は私が前世を持っていない限り満足しないのでしょう?」

こんなにも美奈子を好きだと泣いてくれる彼女を
これ以上悲しませるなんて

「愛してる、レイ」
鼻先を合わせて、唇が当たり前のように愛を綴った。
美奈子自身も言おうと思ったわけではなく、吐息のように出た愛情だった。
「………美奈、子」
拒絶するように込められた全身の力が、ふっと抜けたのを感じた。
乳房に押し当てていた掌をキャミソールから抜いて、濡れた頬を撫でる。
「ごめん、レイ。わかってなんて、都合がいいって思ってる。ヴィーナスは前世で愛した人がいる。私にはその記憶がある。でも、愛野美奈子は火野レイが好きで、私たちは今を生きているの」
何か言いたげな唇を塞ぐようにキスをした。抵抗されずに受け入れられた唇。舌先を深く押しこむと、絡みつくように応えてくる。
レイに身体を預けて、深く深く口づけた。唾液の絡む音が耳を刺激する。

「いっとくけど、愛野美奈子が誰かに愛しているって言ったのは、火野レイが初めてよ」
「………知らないわよ、そんなこと」
「まさか、レイは私以外に言ったことがあるなんて、言うんじゃないでしょうね?」
「さぁ、どうかしら」
夜の涼しい風が裏庭の木々を揺らす音が聞こえる。美奈子はレイの頬と首筋に唇を押しあてて、肩に小さくキスマークを付けた。
「ちょっと」
「レイは私のものだもの」
ぐっと強い力で身体を押しのけられた。美奈子はしぶしぶと身体から離れて、それでも髪をひと房掴んだまま離れたくはないアピールをする。
「………ねぇ、レイ」
起き上っても、その髪を美奈子の手から抜こうとしない。あきれたような溜息をもらす愛しい人。
「何?」
「……なんでもない。好きよ」
身体に触れたいって口に出そうとして、思いとどまった。レイはまた、全力で逃げるに決まってる。あの頃の素直な感情を、愛するという想いに慣れないレイはまだもちえていないのだ。
「……そう言う単純な性格がうらやましいわ」
美奈子がレイみたいな性格だったら、2人は永遠に平行線をたどり続け、想いが重なる日など訪れたりしないだろう。
だから、これでいい。自分は前世の頃から何も変わらない。
「レイだって素直に好きだって声に出してくれるじゃない。私にだけは素直でいてよ」
「………別に」
この素直じゃない感じが本当に可愛いんだから。握りしめた黒髪に唇を寄せると、しぶしぶとそれに付き合っているアピールをする。
「今日、泊まってもいい?」
「一緒の布団で寝たりなんて、しないわよ」
「いや、するし」
「させないし」
「別にエッチしないから」
そんな言葉を言われると思っていなかったのか、レイは慌てふためいて、美奈子の掌から髪をさらりと奪って距離を開けた。
「あ、あ、あた、当たり前でしょ?」
「……いや、今はしないけど」
我慢だってあと3カ月くらい続けば大したものだろうと思う。
「帰って」
物凄い軽蔑の視線。
「まさか。会いたいって言ったのはレイじゃない」
「そ、それはそうだけど」
「エッチしないって言ったでしょ」
今すぐにでも求めたい気持ちは、まっさらな心のレイを傷つけるらしいということはわかっている。だけど、せめて素肌に触れて傍にいたい。
愛している人が傍にいることを。もう二度と離れたりしないと。
「……嘘吐いたら、ただじゃ済まさないわよ」
「うん。だから、一緒の布団で寝させてよ」
渋々と言う態度を見せながら、レイは一組だけの布団を敷いた。一緒にお風呂に入ろうって言うのを断固拒否されて別々でシャワーを浴びることになる。後で入ったレイを待っている間に、美奈子は一度キャミソールを着たのを脱いで上半身裸になって布団に潜り込んだ。
明日の朝は早くて、6時にはマネージャーが迎えに来るから5時には神社から出ないといけない。
「……でもなぁ、追い出されるよな、流石に」
美奈子の上半身裸を見たら、レイはビンタして蹴り飛ばしてくるだろう。
結局、前世を引きずっているのは美奈子だって言われて、さっきまでの素直なレイがまたどこかへ消えてしまう。
「………あ~ぁ」
結局、一度脱いだキャミソールを再び着ることにした。
「………なんで上半身裸なのよ」
両腕にひもを通そうとしていると、すーっと襖があいて、ものすごく険しい顔をしたレイが睨んでくる。
「暑いって思ったけど、怒られるだろうと思って、大人しく着ようと思ったのよ」
「……じゃぁ、いいけど」
「っていうか、そこまで睨まないでよ。私が上半身裸だと、レイは嫌なわけ?さっきの約束はちゃんと守るって言ったのに」
「別に」
短パンのキャミソール1枚なんて、襲ってくださいみたいな格好のレイは警戒心を持ちながらも自分の布団だと言うのに遠慮気味に、美奈子の横に腰を下ろす。
美奈子は立ち上がって腕を伸ばして、部屋の明かりを全部消した。
「………ねぇ、レイ」
「な、なに?」
薄暗闇の中、できる限り端っこをキープしている姿が良く見える。
「……レイは一体何に怯えてるの?」
「美奈子の変な行動に決まってるでしょ?」
「変ってさ…好きな人に触れたいって思うのは、変なの?」
「………そう言うことを言いたいんじゃないわ」
悔しいから端っこで背を向けたレイにぴったりと身体をくっつけた。ドキドキと聞こえてくる心臓の音は、嫌がっていないと言うことを証明している。
「暑い」
「……せっかく一緒の布団なんだから。いいじゃない」
腕枕なんてしてあげられないし、ただ、背中に抱きついただけ。レイの心臓の音だけを聞きながら、シャンプーのいい匂いで肺を満たして、これが夢じゃないんだと自分に言い聞かせて。
「ねぇ、美奈子」
「ん?」
「………あんまり手馴れたように私に触れないでよ。私は美奈子と違って、美奈子以外を知らないの」
「……何言うのよ。私だってレイ以外の人を触ったことなんてないわよ」
「あるんでしょう、前世で」
さっき、レイが言った美奈子の変な行動っていうのは、つまりそう言う馴れた手つきのことなのね。無意識なのに。
「この身体は愛野美奈子のものよ。ヴィーナスのものじゃない」
「馴れた手つきでそう言うこと言うわけ?前世を持ち出すのは美奈子の方なのに」
「………簡単にわかってもらえないものね。捨て切ってしまえばどれだけ楽になれるか…それでも、レイと初めて会った時…嬉しくて…ちゃんと、同じ世界に生まれてきてくれたことが嬉しくて…もう二度とあんなに辛い涙を流させたりしないって…でも、レイが何も覚えていなくて、悲しいって思いながらも……ちょっとホッとしてる気持ちもある」
泣きながら、ウソツキと言った最期を。
どれだけ愛していると言われても、ヴィーナスは愛のすべてを返してあげられなかった。
一緒に死んであげられなかった。
「私には関係のない話だわ」
「えぇ。これは前世の誰かのおとぎ話よ」
「そうよ。私にもあなたにも関係のないし、私が美奈子を好きだという理由とも無関係よ」
「うん……ありがとう、レイ」
「その人たちと同じような恋愛を求めたいのなら、よそでやればいい」
「求めてない。永遠に年を取らないで戦い続ける世界で交わした愛は…もう嫌よ。苦しいもの」
四六時中傍にいて、呆れるくらい愛し合って、それでも愛し足りなくて。
永遠に続くと思っていた。
自分だけがそう思っていた。
マーズはあの世界が崩壊することを知っていた。
何をしても無駄だと言うことを。それが運命であると言うことを受け入れていた。
抗えないことも。
愛してと言い続けたマーズの真意は、ヴィーナスを傷つけたくはないという想いからだということを、あの世界が崩壊する姿を見つめているときに気がついた。
プリンセスを助けられない無様を嘆くことのないよう、マーズだけを愛していれば……
一緒に死ねたのに。

「何を想いだしているの?」
雫がレイの肩に零れ落ちたのか、レイが振り返って美奈子の頬を撫でた。月明かりの漏れる薄暗闇の中、まっすぐなレイの瞳に見つめられる。吸い寄せられてしまいそう。
「………レイ。あなたが好きよ」
「知ってるわ」
「あなただけが好き。その瞳をずっと……ずっと探してた」
レイの指をぬらす雫を止めたいのに止められなくて。どうしたらいいのかわからない。
前世を想い泣いているわけじゃないって言い訳をしたいのに、言葉を紡げなかった。
「……………覚えてなくて、ごめんなさい」
「レイ」
「わかってあげられないの、美奈子の気持ち」
「………レイ」
「苦しいのは美奈子だけじゃないわ」
「わかってる………」
何度生まれ変わっても、ヴィーナスの魂はマーズを求め続けている。魂にこびり付いて離れない愛をかなぐり捨てることなどできはしない。
「少し時間がかかるかもしれないけれど、その……今は待って」
そう言って、レイは唇を重ねてきた。
レイからキスしてくれた。レイが美奈子を想う気持ちが溢れてくる。零れ落ちないようにレイの想いを身体の中に溶かし切る様に、唇をついばんだ。
「……レイ」
「前世を想いだして泣いたりしないで……。美奈子が他人を想っているみたいで……あんまりいい気分じゃないわ」
「……うん。ごめん…悲しませたいわけじゃないのに」
子供をあやすように、レイの手が美奈子の背中を撫でてくれる。こんな風に抱き合える。レイはこんなにも傍にいるのに。
「明日も仕事なんでしょ?目が腫れるわよ?」
「うん」
「お休み、美奈子」
「お休み……レイ」
あの愛の続きではない、火野レイとの愛が欲しい。
レイと愛し合いたい。
レイの身体を、愛野美奈子の手で。

美奈子がマーズじゃなくて、火野レイだけが好きだと、胸を張って言いきれないのは、ヴィーナスの記憶のせいで。

だけど、あの愛は……あの愛は………

レイをきつく抱きしめて、レイの名前を何度もつぶやいた。
抱きしめ返してくれるその腕に込められた強さは、それだけ美奈子を好きでいてくれる証拠だった。





実写!!
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Date:2014/09/03
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