【緋彩の瞳】 何もできない ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

何もできない ①

「レイちゃん?」
「ん、…なぁに、亜美ちゃん」
「さっきから、ずっと同じページを読んでいるけれど……どうかした?」
言われてみて、自分が本を開いていたことに気がついた。そもそも、この本は何の本だったのだろうか。表紙を見て確認すると”前世占い“と書かれてある。
これはもう、ずいぶん前に読み終わったはずなのに、どうして鞄の中に入れたのだろう。
朝の自分の行動を思い出してみても、記憶がよみがえってこない。
「あぁ…うん、ちょっと考え事してたみたい」
パタンと本を閉じてため息ひとつ。亜美ちゃんが顔を覗きこんでくる。
「レイちゃん、何となく元気ないんじゃない?」
「え?そう?……そうかしら?自覚ないんだけど」
カラオケクラウンにはレイと亜美ちゃん2人だけ。隣同士に腰を下ろして、それぞれ本を読んでうさぎたちを待っていた。うさぎもまことも少し時間がかかっているらしい。
「顔色悪いなって思ってたんだけど……」
遠慮がちに、亜美ちゃんはレイの額に右手を伸ばしてきた。
「熱なんてないわよ」
レイは自信を持って言いきった。そんなものがあれば、流石に自分でも気がつくだろうし。
「いや……でも、あるような気がするよ」
「そう?亜美ちゃんの手が冷たいんじゃない?」
困らせたいわけじゃなくて、心配させたくないだけ。レイは笑顔をみせて、平気だとアピールする。事実、自覚がないのだから。
「レイちゃんが大丈夫っていうのなら……でも、今日は無理をしないで帰った方がいいと思う。栄養のあるものを食べて、ゆっくり休んだらどうかな?」
もう一度平気だって言おうとした言葉を飲み込んだ。意地を張ってここに留まったら、亜美ちゃんのことだから、あとから来る2人に事情を話して、レイを帰らせるという手段に出る可能性がある。そう言う子だから。
「……亜美ちゃんが言うのなら。別に今日は特に集まって何かするって決めてるわけじゃないし」
「うん。もし、具合が悪くなったら言って。私が看病してあげる」
「大丈夫。なんともないって」
言われてみて、今日はやけにため息が多かったような気がしたけれど、単に夏の暑さに苛立っているせいだと思っていた。読んでいなかった本を鞄にしまい、立ち上がって、また、ため息が漏れる。一瞬だけ視界がぐらついた。
「レイちゃん…大丈夫?送ろうか?」
「大丈夫。あ、まことたちには言わないで。余計な心配かけたくないから」
「わかった。神社のお仕事って言っておくから」
亜美ちゃんに軽く手を振り、階段を上る。その10段だけなのに、なぜだか息切れするように感じた。

ちょっと、疲れが溜まっているらしい。
亜美ちゃんの言うことを素直に聞いて、家に帰ってゆっくり休んだ方がいい。
レイ自身は自覚がないと言うのに、ちょっとしたことでも仲間の変化に気がつく優しい亜美ちゃんに感謝しながら、急ぎ足で神社へと戻った。


夜、いつものように携帯電話が鳴った。
『レイ』
「美奈子。お疲れ様」
今日は確か、新曲が出るからとあちこちのラジオ局を回っていたはず。
『うん。今日はラジオ局を攻めまくったわ。生放送聞いてくれた?』
「……聞いてない」
聞くように言われていたのに、頭がぼんやりしていたせいなのか、すっかりと忘れていた。美奈子が指定した時間帯はちょうど神社に戻ってきて少し横になっていたころだ。
言われてみて思い出した。どうして今日、みんなでクラウンに集まろうっていう話をしていたのか。美奈子のラジオ生放送を聞こうっていうことだった。
『もぅ……昨日ちゃんと伝えたでしょ?』
「ごめん、その、用事が出来て」
『収録だけの番組もあるし、それはまた教えるけど。ちゃんと聞いてよね』
「うん、……ごめん」
どうしても聞きたかったというわけじゃないけれど、美奈子が聞いて欲しいと言うものは聞いておかないと、あとでこうやって言われることくらいわかっている。
『クラウンにも行かなかったの?みんなで聞くって言ってたじゃない』
「いや、行ったわよ。でも、神社でどうしてもやらないといけないことができて、帰らなきゃいけなくなったの」
『…そうなんだ。明日は?歌番組の収録が終わったら、夕方からはオフだから』
もし美奈子に会えたら2週間ぶりになる。少し眠ったけれど良くなった気配はない。
気のせいではなく、たぶん本当に疲れが溜まっているのだろう。でも、咳やのどの痛みなどもないし、会えるのなら会いたい。
「わかったわ。どうしたらいい?」
レイは数秒の迷いの後、美奈子に会いたい気持ちに従った。
『うさぎたちは空いているかしら?サイン入りのCD渡す約束しているから、みんなの都合が合うなら1時間くらいクラウンに行って、その後レイとホテルでご飯食べようかなって思ってる』
「うん、わかった。美奈子から直接連絡したら?うさぎ、絶対に来るわよ」
伝書鳩になることは嫌ではないけれど、うさぎが喜ぶ声は美奈子自身が聞いた方がいい。大切なファンの1人でもあるのだから。
『わかった。じゃぁ、一斉メール入れておくわ』
「うん」
『レイは?忙しかったの?』
「あぁ……うん」
自分の額に何となく手を置いてみた。何と言うか、手も額も両方熱いような気がする。
『どうしたの?なんか、声に元気がないわね』
「そう?別に元気よ?」
レイは取り繕うように、意識して高い声を出した。美奈子は朝からどんなラジオ番組に出たのか、生放送の番組はどんなものだったのか、レイが聴き逃した放送の代わりに、受話器の向こうで話し聞かせてくれた。
ラジオなんて聞かなくても、毎日美奈子の声は聞ける。そう言おうとしたけれど、それはそれって言われるに決まっている。

30分ほど美奈子の話を聞いて、お休みと告げた後、仲間全員に向けた美奈子からのメールが届いた。

『愛野美奈子のサイン入り新曲CDが欲しい人は、16時にクラウンに集合』

1分以内にうさぎとまことから返信が入り、その10分後に亜美ちゃんからの返信も入った。レイは返信せずにお風呂に入り、けだるい気分を紛らわすように布団に潜り込んだ。




そんなに病弱のつもりはないが、暑さのせいかあんまり食欲がわかなくて、なんとなくいつもいり食べる量が減っていた。そのせいなのか、溜まった疲れが身体から抜け切れていないようだ。
「………はぁ」
昨日、亜美ちゃんから指摘された時は自覚症状なんてなかったのに。
朝、眼を覚ました瞬間から自分の体調の悪さはレイの精神へと自己主張してくれている。
「16時か……」
神社の手伝いはおじいちゃんに事情を説明して免除してもらえるとして、果たして16時までにこの体調の悪さは落ち着きを取り戻してくれるだろうか。熱を計ろうかとも考えたけれど、数字を見てしまえば、気力さえ失せるような気がした。
起き上がる腕に力が入らない。鉛を背負っているように身体がいつもよりも重く感じる。壁伝いに台所に行くと、いつも通り朝食は何も用意されていない。
朝食だけは自分で作るようにしている。だから、夏休みの間、レイは時々サボってしまうこともあるのだ。
こういう時に限って、親と住んでいないことを悔やんだりするが、父親と住んでいたからと言って、朝食が準備されていると言うわけじゃない。
冷蔵庫を開けると、お手伝いさんが持ってきたらしい梨とゼリーが置いてあった。
ゼリーを食べて、とりあえずもう一度布団にくるまった。15時に時計をセットして、ひたすら眠ることにしよう。それまでに少しでも、体調が良くなればいいんだけれど。



関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/09/05
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/319-f8744a47
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)