【緋彩の瞳】 おかいもの

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

おかいもの


「美奈」
「ん?」
隣を歩いていたレイに肩を突かれた美奈子は、何と首を傾げて彼女を見た。その本人はとおりの向こうにあるデパートを指差している。
「デパート?」
何があるの?春物バーゲンには時期が早いし、特に目立ったのろしはない。
「今、みちるが入って行った」
「そう」
「行くわよ」
レイはなにやら一人ニヤリ笑うと、信号を渡り始める。
「え?何しに?」
「いいから」
美奈子はちょっとひるんだ。レイのその瞳の輝きは、高級デパートをハシゴするときのそれと同じで、ありえない金額のものをほいほい買っちゃうときと同じものだ。
ごくり。
美奈子はけれど、黙ってレイの背中を追いかけた。




これからの連休、残念ながら遠出する予定はない。5月5日にチャリティのコンサートがあるため、それまではほとんどそのリハーサルやらなにやらで、結局休みは6日からと、世間からずれてしまっている。別に不満はないけれど、世間の騒がしい波に時には乗りたいものだわと思いながら、デパートの地下に降りた。
(今日ははるかも帰ってくるし)
せつなとほたるとはるか、4人で生活していて一番気を使うのが食事の中身だった。はるかはなんでもいいと言いながらいつも少しケチをつけるし、せつなは無添加物にこだわるし。ほたるは好き嫌いが多い。まったくとんでもない家族だわ、なんて思いながら、高級食材を求めてこうして週に何度も大金を使わなければならないのだ。
しかも、おだてに弱いみちるはまさにいいカモにされてしまうから、勧められたものを次々買うと言う悪い癖があり、それがまたみちるを自己嫌悪にさせている。
「いらっしゃいませー。お1ついかがですか?」
そんなことを言われて勧められたものは、申し訳なくて買わずにはいられないのだ。かれこれ、デパ地下に入って5分。すでにみちるの手にはワインのボトルと高級生ハムの袋がぶら下がっていた。
「みーちーる」
入り口からいろいろな専門店が並びまだ5メートルしか進んでいない。すでに2つも買わされたみちるは、聞き覚えのある声に振り返ってさりげなく後ろ手にそれらを隠す。
「あら、レイ、美奈子。ごきげんよう」
「ごきげんよう。お買い物?」
「え?えぇ」
レイはひょいっとみちるの手にしているものとお店の名前を見て、“相変わらず”とニヤリと笑う。
「今日はいいワインなのね」
「まぁ、ね」
決して不可抗力で買ったわけじゃないのよと言いたげなみちるに、レイはふふふと微笑んだ。
「今日、車?」
「はるかが迎えに来るの」
「そう。美奈、送ってもらいましょう」
レイはお願いね、とみちるに微笑む。みちるは眉を顰めてそれでもはいはいと頷いた。
「レイちゃん、いいの?」
「いいのよ。さ、欲しいものがあったら、ドンドンおねだりしていいから」
レイはみちるの背中にぴとっとくっ付くように一緒に買い物を楽しみ始めた。めぼしいものを物色している瞳はきらきら輝いている。これを目的にしていたんだと、美奈子は妙に納得してしまった。
「みちる、ほら、あれおいしそうじゃない?」
「え?どれ?」
「北海道名産の夕張メロン!あ、ほら海鮮セットですって」
1週間贅沢できそう。
美奈子は無邪気に笑いながら1ヶ月の小遣いよりはるかに高いものを次々みちるにねだるレイの姿を見て、心底恐ろしいと思った。けれど、同時にしばらく自分もその恩恵を受けることが出来そうなので助言はするまい。
あわれ幼馴染にめっぽう弱いみちるは、レイに頼まれてホイホイとカード払いをしている。
「今日、みちるの家に食べに行ってもいい?これ、せっかく神戸牛買ったんだし。ね、美奈」
「え?えぇ・・・」
神戸牛なんて生涯で何度食べられるかわかったものじゃない。美奈子は頷くだけである。
「そう?じゃぁお料理手伝ってね」
結局、みちるはレイにおねだりされたもの全てお買いあげになった。
そこまでして幼馴染を大切にしたいかと、美奈子はみちるに言ってやりたかったけれど。
「レイ、今日は学校だったの?楽しかった?」
「うん、まぁね」
「そう。5日はちゃんと観にきてくれるのよね?」
「ちゃんと空けているわ。それより6日以降がお休みなんでしょう?6,7,8とお休み?」
「えぇ。はるかもせつなも土日はお仕事お休みだから。ほたるも連れて少し遠出をしようと思ってね」
「ふぅん」
「レイも来る?」
「じゃ、どこへ行くか決まったら電話して」
「わかったわ」
本当、レイには弱いみちるだと美奈子はつくづく思う。
けれどそのおかげで神戸牛をタダで食べられるので、文句は言うまい。
たとえ、レイがみちるに見えないところで、こっそり美奈子に向けてVサインを見せていたとしても。



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Date:2013/11/10
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