【緋彩の瞳】 何もできない ②

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

何もできない ②

「……あ、レイちゃん」
昨日、美奈子ちゃんからのメールは仲間全員に送られていた。レイちゃんが来るとか来ないとかは連絡が来ていなくて、美奈子ちゃんと直接連絡を取っているんだろうと言うことは想像できた。
「亜美ちゃん」
「大丈夫なの?」
「ん?うん。大丈夫」
早めに来てクーラーの効いたクラウンで勉強をしていると、レイちゃんが入って来た。
「本当?あんまり顔色よくないよ?」
「そう?いいの、気にしないで」
「でも……」
レイちゃんの笑みはいつもと違って、無理をしていると言うことを隠そうと必死な様子がうかがえた。赤い椅子に腰を下ろした瞬間に聞こえたため息は、辛さを携えている。
「熱、やっぱりあるんじゃない?」
「計ってないわ」
夏の午後の暑さの中歩いてきたという理由以外の汗をぬぐいながら、レイちゃんは髪を鬱陶しそうに払った。亜美は冷たいジュースを淹れて、その腕を掴んだ。
「亜美ちゃん?」
「やっぱり、熱いよ…」
「いいのいいの」
無理をしてまでどうしてって思ったけれど、今日は美奈子ちゃんが来る。だからレイちゃんは無理をしないといけないんだと、思いあたった。
ここに5人が揃うということ、本当に少ないから。5人でいることをレイちゃんはとても大事なことだと思っているし、美奈子ちゃんのためだって言う気持ちがあるんだと思う。
「……辛くなったら言ってね」
「大丈夫だって。でも、心配かけたくないから……」
「うん、誰にも言わない」
亜美はレイちゃんが言おうとしていた言葉を先に読みとって頷いて見せた。
ホッとするレイちゃんの顔が誰を想っているのかなんて、嫌でもわかる。


16時を5分ほど過ぎてクラウンの部屋に入ると、真っ先にレイの姿が目に飛び込んでくる。
「レイ」
うっかり一番に名前を呼んでしまう。レイは満面の笑みで小さく手を振ってくれたから、そのまま階段を駆け下りて抱き締めたい気持ちになった。
「美奈子ちゃん~!」
だけどそんな美奈子の気持ちを全く知らないうさぎが、ぴょんぴょん跳ねて抱きついてくる。
「うさぎ、お久しぶり」
うさぎがいなかったら、レイに一直線だっただろう。そうだった、今日は自分がみんなを招集していたことを、レイの顔を見たせいでちょっと忘れていた。
「美奈子ちゃんがCDくれるっていうから!もう興奮して寝付けなかったよ~」
「本当?ありがとう。ラジオもちゃんと聞いてくれた?」
「あったりまえじゃん!ね~、まこちゃん」
「うん」
無邪気な我がプリンセスの顔は、幼稚園児のようで可愛い。視線はレイを捕らえているけれど、後で2人きりでゆっくりと過ごせる。ここは5人で楽しむ場所だから。
「じゃぁ、CDあげる!あと、せっかくだから新曲をお披露目してあげるわ」
「「やった~~!!!」」
うさぎとまこと、両サイドから腕を掴まれてブンブン振り回された美奈子は、レイに“後でね”という想いで視線を飛ばした。
レイが小さく頷いたのを確認して、彼女から一番遠い椅子に腰を下ろした。

4人の前で全員にサインを書いて新曲を渡す。うさぎ、まこと、亜美、レイ。
「レイ」
「ん?何?」
「どうしたの?」
「何が?」
「なんか……嬉しくない?」
「まさか」
何だろう、さっきと違って無理に笑っているように見えた。うさぎが甲高い声を出している傍にいるのが嫌なのか、それとも一番に欲しかったとか…。
「そう?ちゃんと聞いてね」
「っていうか、今から歌うんでしょ?」
「そうだけど……」
よそいき笑顔って言うそれは、無表情になったかと思うと、交わし合う視線を逸らすように、ジュースを飲み干してしまう。
「あ、冷たいもの淹れるね」
「ありがとう、亜美ちゃん」
亜美がレイの空になったグラスに、冷たいジュースを注いで、それをぼんやりとした目で見ている。なんとなく虚ろ。

なんだろう、レイの何かがおかしい。

「美奈子ちゃん!さっそく歌って!歌って~~!!」
「うん。みんな、じっくり聞いてね!生で歌うのは今日が初めてなんだから」
うさぎが馴れた手つきで、CDのカラオケバージョンをセットしてくれた。
ロンドンでレコーディングして、ジャケットとPVは日本で撮影したものだ。自分で言うのもなんだけど、病気と戦いの狭間に苦しんでいたころよりも、歌の評判は良くなっている。
その評価が上がったのは、レイといられるからだって思っている。
イントロが流れると、うさぎとまことが椅子から立ち上がってステージの上にいる美奈子に手を振った。レイはいつも通り落ち着いて椅子に腰を下ろしている。
美奈子を見つめる瞳。大好きなレイの瞳。
亜美がレイに何か耳打ちをしている。何を話しているのだろう。真顔で亜美と何かをやり取りして、それからそれを取り繕うように、美奈子をまた見つめてくる。
子供をたしなめるような笑みを向けられて、心の中で自分に馬鹿って呟いた。
どんな場所で歌っても、その時がベストじゃなきゃ、アイドル歌手じゃない。




そっと触れた手は、やっぱり熱い。ちょっと熱があるという程度ではなくて、かなり辛い状態じゃないかと思えた。勢いよく飲み干されていくジュースがそれを裏付けているように思える。
「……無理なら、用事が出来たって帰ってもいいんじゃないかな?」
「いいわ。気にしないで」
「………病院、行かなかったの?」
美奈子ちゃんが歌い始める前に声をかけると、一瞬笑顔が消えた。
「嫌いなのよ、病院。寝たらそのうち治るものだろうし」
「……そうかもしれないけれど」
「心配かけてごめんね」
レイちゃんは歌い始めた美奈子ちゃんに向きを変えて、笑みを浮かべている。
その額からうっすらと汗を掻いている。ため息のような呼吸を繰り返して、冷えたグラスで少しでも掌を冷やしているようにも見える。亜美は言いたい言葉を飲み込んで、ステージにいる美奈子ちゃんを見つめた。

美奈子ちゃんはレイちゃんだけを見ている。
美奈子ちゃんが気づいてくれたら、レイちゃんだって嫌でも大人しく寝てくれるのに。
でも、レイちゃんはきっと悟られたくないんだろう。
美奈子ちゃんに心配の目で見つめられるより、嬉しそうな瞳で見つめられたいって思っているんだろう。

「やっぱ、美奈子ちゃん最高!」
「ありがと、うさぎ」
席についてひと段落すると時計を見た。16時半を過ぎたところ。
まことがニコニコした顔で、得意の野菜クッキーを並べてくれる。
「わ~!やっぱこれ!おいしそう!」
「栄養もとれるし、一石二鳥だろ?」
うさぎが両手に撮って、サクサク食べ始めるのを見て、美奈子も1枚手に取った。
「……レイ?」
「え?ん?何?」
レイがグラスを両手で包んだまま、ぼんやりしている。美奈子が椅子に座っていることすら気が付いていなかったみたいだ。
「食べないの?」
「え?あ、何を?」
「まことのクッキー」

……何だろう、やっぱり何かがおかしい。

「あぁ、うん。食べる……」
そう言ってほうれん草味のクッキーを手にしても、齧っているようで齧っていない。野菜が嫌いって言うわけでもないのに。

どうしたんだろう。何かに悩んでいるのだろうか。
昨日、夜の電話はいつもと変わらなかった。レイは神社で手伝いが忙しかったと言っていたけれど、何かそこで嫌な目にでもあったのだろうか。

「あれ、レイってほうれん草嫌いだっけ?」
1枚をなかなか食べ切らないレイを見て、まことが不思議そうに首をかしげた。
「ん?いいえ、別に。よくこんな上手に作るなって、感心するわ」
「いや、簡単だよ。作り方教えてあげるよ?」
「じゃぁ、今度教えて」
「うん、いいよ。また野菜たくさん買ったときに連絡するよ」
愛想笑いを返しながら、レイは口の中にクッキーを入れて飲み込んだ。氷の解けたジュースで喉をうるおしている。
「あ~!そうだ!みんなで写真撮ろうよ!!!」
うさぎが急に思いついたように声をあげた。クラウンでは美奈子以外の4人で撮った写真が綺麗に飾られていて、いまだに美奈子の写真は1枚もない。アイドル愛野美奈子のポスターは飾られているけれど。
「私はパス」
内心弾んだ気分は、レイの一言で一気に冷静になった。
「え~~、レイちゃんも撮ろうよ~!」
「写してあげるから。美奈子と写りたいんでしょ?みんな、並んだら?」
うさぎは単純でぶーたれた声を出したのに、レイの提案ですぐに満面の笑みに変わる。
「亜美ちゃん、カメラどこにあったかしら?」
「あ、うん」
部屋に置いてあるポラロイドカメラを亜美から受け取ると、レイは美奈子の方に向けてカメラを構えた。
「美奈子ちゃん、ピースピース!」


……

うさぎとまことにはさまれて、美奈子は笑えなかった。
「どうしたの?笑いなさいよ、美奈子」
「……あとで、レイも写ってよ」
「いいって」
「……何よ」
照れ臭いという表情をしてくれたら、それはそれで可愛いって思えるのに、何だろう口調が面倒って言いたげ。
レイに背中を押された亜美が端っこに並んでシャッターを切った。
引きつった営業スマイル。
すぐに現像された写真を見て、こういう作った笑みは久しぶりだわと、思った。


17時になって、美奈子は立ち上がった。
「ごめん、今日はこの後用事があるの。もう帰らないと」
17時過ぎにクラウンの近くまで、事務所の車が迎えに来てくれる。レイを連れて出て、ホテルに行くために。レイは美奈子の言葉に自分の腕時計を確認して、それから視線を美奈子に向けた。
「お仕事?」
「うん、ちょっとね。久しぶりにみんなと遊べて楽しかったわ」
名残惜しそうなうさぎに手を振ると先にクラウンを出た。待ち合わせ場所は車の中。



美奈子と目が合い、小さく頷いた。うさぎが出口まで美奈子を見送って、永遠の別れみたいな手を振っている。その有り余る元気を少しくらい分けてもらいたい。
「……私も帰るわ。神社の仕事、途中だから」
美奈子は事務所の車の中で待っているはずだから、あまり待たせるのも悪い。
確実に熱を持っているだろう身体は、呼吸をため息に変換させて、けだるさは全身を包んでいる。
美奈子がいなくなって気が緩んだせいなのか、立ち上がった瞬間に眩暈が襲った。




セラミュのマーズかわいいよね↓
関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/09/07
Trackback:0
Comment:2

Comment

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014/09/08 【】  # 
 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014/09/08 【】  # 
 

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/320-b9123fbd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)