【緋彩の瞳】 何もできない ③

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

何もできない ③

「レイちゃん!」
きっと美奈子ちゃんと待ち合わせをしているんだろう。レイちゃんが立ち上がるから、見送ろうと同じように立ち上がったのに、視界の高さにレイちゃんの姿がない。
うさぎちゃんが叫びながら駆け寄ってくる。
「レイちゃん?!」
足元に視線を落とすと、レイちゃんが床に横たわっていた。
「レイちゃん、大丈夫?」
「レイ、どうした?」
慌てて抱き起こすまこちゃんを手伝って、額に掌を置く。息切れのような呼吸を繰り返して、焦点が定まらない瞳は誰も見ようとしていない。
「やだ……こんなに熱があったんだ…」
「え?レイちゃん、熱があったの?」
「そう言えば、なんか今日、ちょっと変だったような……」
ゆっくりとソファーに寝かせて、熱い手を握りしめた。
「レイちゃん、無理しすぎだよ」
「………ごめん、ちょっと…立ちくらみ…した、だけ」
これじゃぁ、美奈子ちゃんと会ってもデートなんてできないし、美奈子ちゃんを悲しませるだけだ。
「少し身体を休めて、タクシーで帰った方がいいよ。送っていくからさ」
まこちゃんは水で冷やしたハンカチでレイちゃんの額を冷やしてくれた。
「いいって。…大丈夫、自分で、帰れる」
どこかで美奈子ちゃんが待っているとしたら、レイちゃんが来ないことを心配するに違いない。
「意地張ってないで。仲間だろ?」
「そうだよ、レイちゃん!」
まこちゃんとうさぎちゃんは、このあとレイちゃんが美奈子ちゃんと会うって知らないから、送りたいと申し出ているんだろうけれど、それが出来ない事情を、どう説明してあげればいいのだろう。
レイちゃんも辛い呼吸を繰り返しながら、苦しさと困惑で眉をひそめている。
「………今日は、無理じゃないかな?きっと、その身体じゃ……」
レイちゃんはきっと、美奈子ちゃんと2人になりたいから無理をしている。
悔しいんだろうと言うのは、嫌でも伝わって来た。
起き上がる力が出ないのは、そのいろんな想いが心を締め付けているせいなのかもしれない。



レイは17時15分を過ぎてもクラウンから出てこない。
遅い。
5分かからずに出てこられるはずなのに、姿を見せる気配もないし、メールや電話で遅れるというようなことも言ってこない。
美奈子は携帯電話を睨みつけていたが、レイの番号にかけてみた。コールが10回以上過ぎて留守電に切り替わる。
「……何してんのよ」
入口を見張っているから、レイが出てどこかへ行ったというわけでもない。うさぎたちと何か話しが盛り上がっているのか、なんて思ったけれど、美奈子が外で待っているのに、話を長引かせるようなことをするだろうか。
もう一度かけてみる。7コール目で繋がった。
「レイ。どうしたの?何してんのよ」
『…………美奈子ちゃん……』
繋がったと思ったら、少しの沈黙の後に聞こえてきたのは亜美の声だ。
「……レイは?」
『あの……ちょっと……遅れるっていうか……』
どうしてレイの携帯に亜美が出たのだろう。携帯電話に出られない事情があるのだろうか。
「何?……レイは?って聞いてるんだけど」
『………うん……あの、その、………倒れちゃった』



倒れた?



さっきのぼんやりとしたレイの瞳を思い出す。
クッキー1枚を食べようとしなかった様子。
まさか、具合が悪かったのだろうか。
美奈子は電話を切って、車から飛び出した。
急いでクラウンに戻る。こんなにクラウンの階段は長かっただろうか。心臓の刻むリズムが気持ち悪いくらいに速い。



「レイ?!」
部屋の扉を開けると、ソファーを囲む3人の背中があった。
「……えっ?!え~~~?!美奈子ちゃん?!どうしたの?!」
うさぎの質問に応えずに階段を下りてソファーに駆け寄ると、ぐったりしたレイが寝かされていた。
「レイ」
両手で頬を包み込んでその体温の高さに驚いた。かなり熱が出ているらしい。
「レイ、大丈夫?」
軽く頬を叩くと、閉じていた瞳がうっすらと開く。
充血して赤くなった目で見つめられて、泣きたくなる気持ちになってくる。
苦しそうな呼吸を繰り返しているくせに、罰の悪そうな表情を見せて。
「……ごめん…美奈子……ちょっと…待って……少し、休んだら…大丈夫、だから」
「馬鹿!」
頬を叩いてやりたい気持ちを抑えて、レイを抱きしめた。触れる場所すべてが熱い。
「レイは……本当、馬鹿なんだから」
膝の裏と肩の後ろに腕を通して、ゆっくりと身体を起こした。
「病院行くわよ」
「……いい」
「却下。連れていくから」
抱き上げようと力を入れると、まことが美奈子を止めた。
「変わって。背負った方がいいよ」
「……いい。私が背負う」
まことがレイを背負うのは嫌だ。美奈子がしなきゃいけない。
膝をついて、レイの腕を首に回して立ち上がった。
「……レイ?」
耳元で繰り返される荒い呼吸は、それだけで精いっぱいらしく、返事が出来ないでいる。
「急ごう。タクシー拾ってくる」
「いいわ。事務所の車を待たせてあるから、それに乗せる」
階段をゆっくりと上がり、態勢を整えながらワゴン車の後部座席にレイを乗せた。
「みんなも乗って」
膝の上にレイの頭を乗せて、額の汗を拭ってあげる。
「南十番総合病院に行って」
美奈子はタクシーの運転手に言うように、自分のマネージャーに命令した。
「ちょっと美奈子ちゃん、誰その子?…あれ?社長が事務所に入れようとしたけど、口説き損ねた子じゃ……」
「いいから、早く出して!」
後ろから座席の背中を蹴飛ばすと、慌てたマネージャーがアクセルを踏んだ。8人乗りのワゴン車は法定速度を守りながらも、かつて美奈子が入退院を繰り返していた病院へと急ぐ。
握りしめた熱い手は、美奈子の手を握り返しては来ない。
死ぬようなことはないだろうけれど、こうやって辛そうな人を抱きしめることなんて生まれて初めてだった。

あの頃
死んでもいいと思っていたあの頃

レイが病院に来るたびに、会うたびに、今にも泣きそうな顔をしながら美奈子に手術を勧めていた。見ているのが辛い。何もしないでいるなんて馬鹿だ。そう言われていて、あの頃はそのレイの言葉を理解しようとはしなかった。
意味がわからないとさえ思っていた。

今ならわかる。

辛いと思っているのなら、その辛さを半分引き受けたいって思うし、助けてあげたいと思うし、じっと見ているだけしかできないことが苦しい。




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Date:2014/09/08
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