【緋彩の瞳】 何もできない END

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

何もできない END

処置室で点滴を打たれている間、美奈子はずっと傍を離れなかった。意識がはっきりして落ち着きを取り戻したレイに、1日入院して、身体を休めた方がいいと言っても、絶対に嫌だと譲ろうとしない。
「……レイ、40度の熱なのよ?」
「寝てれば治るわよ」
「そうかもしれないけれど……」
「入院なんて、絶対嫌」
「……わかったわよ。まったく、頑固者なんだから……」
待合室ではうさぎたちが心配そうな顔をして、じっと待ってくれている。点滴が終わって起きあがった苦しげな顔を見ていると、あの神社で独りぼっちの部屋に帰すなんてことをしたら、今度は美奈子が心配で具合が悪くなりそうだ。
「………ごめんね…美奈子…」
「ううん」
けだるいせいなのか、レイは美奈子に甘えるように抱きついてくる。その熱い背中を抱きしめて、頬にキスをした。
「レイ、我慢強いものね。私とデートしたくて黙っていたんでしょ?」
返事の代わりに抱きついた腕に力が込められた。可愛いところもあるけれど、素直じゃないって本当、熱を出さなきゃわからないなんて。
「仕事、全部キャンセルしてやったわ」
「…………どうして…」
「社長に直接言ったの。大切な人が倒れて看病したいから、仕事なんてしてる場合じゃないって。明日、ずっとレイの傍にいる。ホテルの部屋取ってるし、ゆっくり寝てよ。ね?」
レイからは“ごめん”とか“ありがとう”っていうセリフはやってこなかった。
何を考えているかくらいわかる。
「こんなときくらい、レイの傍にいさせて」
「……美奈子…」
「これは、私からのお願いだから」
小さく上下した髪。そっと頭を撫でてゆっくりと立ち上がらせた。
「大丈夫?」
「……さっきよりは」

手を繋いで処置室を出ると、うさぎたちが待っていてくれた。
「よかった。レイちゃん、大丈夫?」
「……ごめん、心配かけて…」
うさぎが心配そうにレイの顔を覗きこんでくる。
「うさぎ、レイは大丈夫だから。2人も付き合ってくれてありがとう。私はレイを送っていくから、みんなはうちのマネージャーの車に乗って。ちゃんと家まで送り届けさせるわ」
レイは繋いだ手を離そうとしていたけれど、美奈子はぎゅっと握りしめたままそれを許さなかった。
「え?でも、美奈子ちゃんお仕事……」
うさぎの問いかけを遮るようにまことが間に割って入った。
「これ、レイの鞄」
「ありがと」
まことからレイの鞄を受け取り、眉をハの字にしたうさぎに、“何か言いたいことでもある?”という無言の視線を送る。
「レイのこと、任せるよ」
「任せて」
うさぎの背中を押して、まことは小さく頷いて出口へと歩き始めた。
「これ、さっき薬局に行ってレイちゃんの薬をもらってきたから」
「ありがとう、亜美」
「じゃぁ、よろしくね」
笑顔で手を振る亜美に、美奈子も笑って手を振り返す。レイは美奈子に繋がれた手を隠すようにして、うつむいたまま。
3人が姿を消して、美奈子はレイとタクシーでホテルへと向かった。



「着替えとかは、私のやつを使えばいいから。何か欲しいものがあったら言って」
「………シャワー」
気だるさとぼんやりした頭。やっと2人きりになれたけれど、それは昨日思い描いていた美奈子とゆっくり食事をしながら、話をするという理想からは程遠いものだった。
「身体拭くくらいにしたら?倒れたりしない?」
「大丈夫。さっきよりマシなの」
心配を隠さない美奈子の瞳は、じっとレイを捕らえていて、レイだけしか映っていない。
熱を出した自分が悪いのに、そんなことが嬉しいと思ってしまうからちょっと馬鹿だって思う。
「バスルーム、大きいから一緒に入る?」
「なんでよ…」
「だって…心配だし…」
「大丈夫」
普段の歩幅の半分くらいしか動けないレイは、それでもバスルームに行って、ゆっくりと汗を掻いたシャツを脱ぎ始めた。
「……美奈子」
当然のようについてきた美奈子が、私物のシャツとマネージャーに買いに行かせたという下着を持って入ってくる。
「着替え。あと、私はここで待ってる」



……


恥ずかしいっていう気持ちはあるけれど、美奈子の瞳はいつもみたいに隙あらば触ろうとするような冗談めいた色じゃない。

本気でレイのことを心配している。

「……うん。なるべく早くする」
「気分悪くなったら言って」

背中を向けて服を脱ぐと、それを美奈子が受け取ってくれた。シャワーカーテンの向こうにずっと仁王立ちしているシルエットが映っている。急いでシャワーを浴び終わっても、本当にずっとそのシルエットは同じ形を保ったままだった。
バスルームから出てタオルを受け取ろうとすると、それを広げて、目が“こっちへ来い”と言ってきた。
「……」
「早く」
こっちは素っ裸なのに。何も隠すものを持っていない両手はかろうじて胸を隠しているけれど、美奈子は広げたバスタオルを渡そうとしてくれない。
「……」
元気なら一発ボディを殴っている。だけど今はもう、どうでもいいかもしれない、なんて思えてきた。人にこうやってお世話をされると言うことに慣れていなくて、素直に従うことが正解なのかもわからない。
………でも、美奈子は仕事をキャンセルしてくれたのだ。
おずおずとその両腕の中に裸のまま近づくと、バスタオルで身体を包み込まれ、きつく抱きしめられた。
「まったく。元気だったら襲っていたところよ」
耳元でささやく声に、やっぱりちょっとはそう言うことを考えているわけね、って言いたくなったけれど、それは美奈子なりの気遣いと言うことにしておこうと思う。優しい温もりだから。
「元気だったら…こんなこと、させないわ」
「それもそうね」
身体を拭いてもらう立場だと言うのに、レイは抱きしめてくれる美奈子を抱きしめ返していた。具合の悪い時に、人に頼れるなんてどれくらい久しぶりだろう。
美奈子はママじゃないけれど、今、頼れるのは美奈子しかいない。
レイと美奈子はそれぞれがちゃんと独立していて、互いを高め合う関係だと思っていた。
だけど、初めて支え合う関係なのだと知った。
心を許し、傍にいて欲しいと。
甘えてもいいんだと。
素肌に伝わる美奈子の温度が心地よかった。ずっとこうされていたいとさえ思って、すぐ、やっぱり熱があると思考に悪影響を及ぼすと、自分に突っ込みを入れる。

だけど、嫌な気分になれない。




ルームサービスで胃に優しいものを食べさせて、薬を飲ませると、レイは眠りに落ちた。眠たくなるような成分が入っているのだろう。額を冷やすタオルをもう一度冷たくさせて、美奈子もシャワーを浴びて、すぐにレイと同じベッドに潜り込む。
「………この私が誰かの世話を焼くなんてね」
甲斐甲斐しく人の世話なんてしたことは、あんまり記憶に残っていない。自分自身の病気でさえ、向き合わずに使命に没頭していたというのに、レイの苦しそうな顔を見て居たたまれなくなるなんて。

相当、レイのことが好きなんだって思い知らされる。
前世のあの頃よりも、多分、今の方がもっとレイのことを好きなんだろう。
永遠を生きる、平和に満ち溢れた、だけどある意味平穏すぎた作られた世界を生きていた頃よりも。
「早く治って……。裸で抱きしめられても……そんなんじゃ、心配でたまらないわ」
きっと、何でもないときにあんなことをしていたら、一直線に押し倒していた。だけど、虚ろな瞳でフラフラしているレイを見ると、心配で心配で落ち着かなくて。
今の美奈子はきっと、前のレイと同じような、心配で、苦しくて、辛そうな顔なんだろう。それでも、レイは確実に治るんだから、死ぬって聞かされていたレイの方が絶望を背負っていたに違いない。


悲しい想いをさせたお詫びなら、いくらでもしてあげる。
今の美奈子はそれくらい元気が有り余っているのだから。
「……あーぁ。レイが元気だったら、本当はイチャイチャしていたのに」
飽きることなくキスを交わして、抱き合って、問答無用で一緒にお風呂に入って、エッチまでは行かなくても、身体に触れるくらい許してもらおうと思っていたのに。
そのためにここから仕事場に行けるようにって、スーツケースに着替えを詰め込んでいたけれど、別の役に立ってしまうとは。
それでも、熱があるとはいえ、素肌を預けてくれるくらい信用してくれているのなら、きっと近いうちに、レイの全部を美奈子にくれると思う。

……たぶん、だけど

「……み…なこ…」
熱のせいで辛そうな寝息を立てていたレイを眺めていると、好きで仕方がない唇が美奈子の名前を綴った。
「……なぁに?」
タオルをひっくり返しながら、小さな声で囁く。
「……ありがと……」
閉じられた瞼は開く気配はない。照れているのか、寝言なのかもわからない。


美奈子は火照った頬に口づけをして、小さく笑った。




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Date:2014/09/10
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