【緋彩の瞳】 I love you, but… END

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世では恋人]

I love you, but… END

「レイ」
部屋のチャイムが鳴って扉を開けると、少し肩で息をしているレイが立っていた。
「美奈子」
マネージャーに我儘を言って、スイートルームを取ってもらった。シティホテルのスイートルームだから、驚くほど豪華と言うわけじゃないけれど、それでも2人では十分すぎる広さだ。クイーンサイズのベッドが2つ並んでいる。
「何か飲む?」
「……冷たいもの」
「座ってて」
レイは汗を手の甲で拭いながら、鞄を置いてソファーに腰を下ろした。その姿を確認しながら、冷蔵庫からウーロン茶の瓶を2本取りだす。
「レイ、テレビ見ないからさ、そういう情報はまだ伝わらないだろうって思ってたのよ」
「……うさぎから聞いたわ」
「あぁ、そっか。そうだよね、そっちまで意識回ってなかったわ」
栓を抜いてグラスに注いでひとつをレイに渡すと、勢いよく半分が飲み干されていく。急いでここまで来たと言っているように喉が鳴った。
「………先に教えておいて欲しかった」
「ごめん。うちの事務所もさ、ユウトの事務所と話がちゃんとできていなくって。どうやら向こうの事務所が仕立て上げたことらしいんだけど、来月公開の映画に合わせて、スキャンダルが欲しかったらしくて。食事に行ったことにされているけれど、あれ、うちのマネージャーもいたし、ほかのタレントもいたし、写ってないだけで結構たくさんいたのよね。あんなにきれいに映されているんだもの、ワイドショーも雑誌も、ユウトの事務所から何か言われてるんじゃない?うちの事務所と違って、業界でも凄く大きい事務所だから」
隣に腰を下ろして、汗ばんでいるレイの頬をそっと指先でなぞった。びくっと反応して美奈子を睨むその瞳は、美奈子のことを想っていると嫌と言うほど伝えてくる。
「どうするの?沈黙を通すの?」
「否定するわよ。うちの事務所にユウトのファンからカミソリの刃とか届いたら嫌だし。第一、うちの社長が黙ってるわけないでしょ。鼻息荒くしてたから、明日にでもユウトの事務所に乗り込むんじゃないかしら?」
そのせいで、別の注目を浴びるかもしれないけれど、大丈夫だろうか。
美奈子はレイの髪に指を絡めて、その細い身体に縋りつくように抱きついた。
「レイが悲しんだりしないかって、ちょっと不安だったのよ」
「……悲しいっていうか、びっくりしたって言うか……。美奈子のことなのに、うさぎたちから情報をもらうっていうのも、あまり気分がいいものじゃなかったわ」
「そんなに私のこと、好きなんだ」
耳元で嫌になるくらい、特大のため息を聞かされる。
このわざとらしい感じは、照れているっていう証拠。
「…………私は、美奈子しかいないわ」
「私もレイだけが好き」
「本当に…私だけ?私は女よ?」
「…………レイ以外なんて、私は知らないって言ったわ。愛していると言う言葉をあげるのは、レイだけ」
レイは美奈子を見つめようとせずに、視線を美奈子じゃない方へと逸らそうとする。
何か言いたいことがあるなら言えばいいのに。

美奈子が好きだって
言ってくれてもいいのに

「でも、美奈子はいろんな人から愛されているでしょう?」
「アイドルやってるんだから、そりゃそうじゃないとお金稼げないわよ」
「……それもそうよね」
嫉妬したって顔に書いてるけれど、素直に認めてくれないレイ。
そこが可愛い。
「レイからちゃんと愛されてるし、大切な恋人はレイだけだもの。後にも先にも、火野レイ以外にはいないわ」
「………あなた、そう言う恥ずかしい言葉をよく平気で言えるわね」
膝を抱えながら、レイは赤くなっている顔を隠すようにうずくまる。
わかりやすくて、本当に可愛いんだから。
素直じゃないってレベルを超えてる。
「嘘じゃないもの。ねぇ、顔をあげてよ」
両手でその頬を包みこちらを向かせると、ふてくされた顔。
美奈子はその唇を覆うようにキスをした。熱を出していたレイにはこうやってキスが出来なかったし、あれから会っていなかったから、キスをするのも久しぶり。
「どんなことがあっても、私はレイだけしか見てないから」
「………知ってるわよ」
抱き寄せて、レイの腰に腕を巻きつけた。心臓が共鳴するように互いに胸のときめきを伝えようとリズムを刻んでいる。
「でも、よかった。レイに会えるのはもうちょっと先になるかなって思ってたけど、お陰でレイに会えたわ」
「馬鹿………うさぎが心配していたわよ。メール、ちゃんと読んであげたの?」
「明日、返信しておくわ」
きっとクラウンではちょっとした騒ぎになっていたんだろう。うさぎはどんな様子だったのだろうか。その時のレイはどんな様子だったのだろうか。
「もうちょっとしたら、私、帰らないと」
「泊まって帰らないの?」
「朝、早いの。神社のお手伝いもあるから」
「そうなんだ……」
せっかくのスイートルームなのに。レイと一緒にお風呂に入って、ひとつのベッドで寝られるって思っていたのに。
美奈子は名残惜しくて、きつくきつくレイを抱きしめた。キスをして、シャツの中に手を入れて背中の感触を掌で愛でる。
「ん……ちょ…」
「またしばらく会えないかもしれないし、レイの身体を忘れたりしないように」
「……ちょ」
頬に落とした口づけを少しずつずらして鎖骨をなめる。急いで来たって言っていたから、ちょっと汗の味がした。
「み……止めて…」
束縛から逃げようとするレイの動きを利用して、ソファーに押し倒す。これ以上本気になると、自分のことだけど止められる自信もないし、レイが本気で美奈子を殴りかねない。
「……わかった、止める。だから、少しだけこのままでいさせて」
レイの身体に乗ったまま、美奈子は涙目になっているレイにキスをした。両手がレイの素肌を求める想いを理性で何とか押しとどめて、何度も唇を重ねる。
「あなただけしか、好きじゃないから」
「……わかってる」
「レイも?」
「……美奈子だけよ」
「キスだけじゃ足りない。もっと触れたいって思ってる。それは嫌なの?レイのことを愛している証明をレイの身体に刻みたいって思うことは、許されないことなの?」
これだけの至近距離でも、視界を逃がしてごまかそうとする。本気の拒絶じゃないのは、レイが美奈子の気持ちをわかっているからだって思っていたい。



「………それは、前世で私とあなたがそう言うことをしていたから?」


“私を愛して、ヴィーナス”


「していたけれど……別に前世でしていたからじゃないわ。愛野美奈子が火野レイを好きだと思っているから。レイは?私が好きなのでしょう?私に触れて欲しいって思わない?もっと愛を欲しいって思わないの?」
赤い瞳から、堪えていた涙の粒が零れ落ちた。
レイは抱きしめて、身体に触れるとこうやって苦しそうに涙を流す。
レイの気持ちがわからない。
マーズじゃなくて、美奈子が欲しいのはレイなのに。
何度も言っているのに。
どうしてわかってくれないのだろう。
「ごめん、レイ………わかった……」
美奈子は涙を唇で堰止めて、ゆっくりとレイを解放した。
「……あと少し…待って……」
「待ってたら、レイは私に全てをくれるのね?」
レイの冷たい掌が、そっと美奈子の頬に触れる。
「……約束、するわ」
「泣かせたいわけじゃないの。レイが好きだから…」
「………わかってる」
口に広がる涙のしょっぱさ。
ありもしないことなのに、勝手に恋人にされたユウトとのスクープを心配してくれて、嫉妬してくれて、それでも、レイだけしか愛していないという証拠を、レイは受け取ってくれない。
レイが不安だと思う気持ちを取り除くのは、レイ自身が美奈子のすべてを受け入れることだって思う。

でも、レイもそれはうすうす感じているのだろう。抱き寄せる身体から伝わる熱は美奈子のことを好きだと確かに告げている。

触れた素肌が、美奈子を恋しがってくれる日はいつになるのだろう。






次の日、学校帰りにクラウンに行くとうさぎたちが先に来ていた。
「レイちゃん、見て見て~!」
階段を下りるレイを手招きして、うさぎがわざわざ椅子を引いて待っている。
「ほら、昨日言っていた雑誌だよ」
「……あぁ。美奈子の」
昨日、直接美奈子に会って否定してもらったから、レイの中では終わったことになっていた。
「美奈子ちゃんから朝メールが来て、ユウトは彼氏じゃないんだって」
「そう」
「なんか、ホッとするような気もするけどさ~。こういう話題になるって、やっぱり美奈子ちゃんって仲間っていうより、芸能人って言う感じだよね」
うさぎは愛野美奈子というアイドルがデビューしたときから追いかけているから、余計そう思うのだろう。レイは全然知らなかったことだから、今回のことで初めて思い知らされたけれど。
「まぁ、ガセネタだったんだろ?よかったじゃん。この写真だって、本当に2人きりだったかどうか、怪しいよね」
「他にも人がいて、数人で飲んでいたのに、うまく写真を撮られたみたいよ」
レイは亜美ちゃんにコーヒーを淹れてもらったものにミルクを注ぎながら、まことに昨日教えてもらった情報を伝えた。
「え?レイちゃん、それはどこからの情報?美奈子ちゃんは、そう言う発表したの?」
自分だけしか知らない情報だと知らずに、よかれと思って話した言葉が墓穴を掘ってしまうこともある。
「………あっ、えぇ。美奈子に用事があって電話したら、聞いてもいないのに教えてくれたから」
「え~!レイちゃんは電話繋がったの?い~な~!私は繋がらなかったのに」
「た、たまたまでしょ?」
ストローを口にくわえて、一気に口の中に吸い込んだ。苦味が広がって味わうことなく喉の奥へと消えていく。
「レイちゃんさ、なんだかんだ、仲良しだもんね~。うさぎの方が愛野美奈子のファンなのに」
「……そうかしら?別に、そんなつもりもないわよ。仲間なんだから」
咽そうになるのをこらえながら早口になっていく声に、落ち着けって自分で言い聞かせて見る。亜美ちゃんとまことのハラハラした感情が、わかりやすく伝わってくる。
「この前も、レイちゃん倒れたときに、美奈子ちゃんが凄く心配してさ、おぶって病院連れて行くんだもん……ズルイよ、レイちゃん!」

熱出して、ズルイと言われるなんて。
というか、おぶってくれって頼んでないし。
美奈子が勝手に病院に連れて行って、勝手に看病してくれただけだし。

声に出しそうになるのをグッとこらえながら、レイは視線でまことに助けを求めた。
「いやいや、うさぎ。美奈子ちゃんはさ、私たちの仲間なんだし。リーダーとサブリーダーなんだから、別に仲良くてもいいじゃん?うさぎだってレイと2人で遊んだりするだろ?それと変わらないって」
「そうだけど……」
不貞腐れたうさぎの前に、まことは買ってきたお菓子を絶妙のタイミングで出してくる。
「秋限定のお菓子買ったんだ!食べよう!」
「わ~い!」
単純馬鹿のために、まことは常日頃からお菓子を作ったり買ったりして、可愛そうだなって思うけれど、これさえあれば大丈夫という能天気に助けられている。レイは小さくありがとうって視線を送った。

その雑誌が発売された次の日、美奈子の公式HPにユウトと交際はしていない、記事は事実無根であるという内容が書かれ、ブログにも美奈子の言葉で交際はしていないとはっきりと書かれたらしい。パソコンを使えないレイにその情報をくれたのはうさぎで、ものすごく勝ち誇った顔をしていた。それでまた、レイが特に何の反応もなく“あぁ、そう”の一言で済ませたから、うさぎはぶーたれるし、まことはまた、新作のお菓子を鞄から出してくるし。

結局、美奈子の熱愛報道は1週間ほどで終息して、何事もなく日々が繰り返されることになる。


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Date:2014/09/16
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