【緋彩の瞳】 御利益頂戴 ③

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説[実写・前世設定なし]

御利益頂戴 ③

「お腹空いた~!お菓子食べようよ~!レイちゃん、何かないの?」
神社の裏手に案内されると、平屋のわりと大きい家があった。みんな馴れた感じでレイの家に入っていくけれど、美奈子は初めて入る。
「もうすぐ夕食の時間なのに?っていうか、夜ごはんどうするつもりなの?」
レイの部屋に案内されているはずなのに、うさぎが先頭になって進んでいく。殺風景な部屋に通されて、美奈子はいかにもレイらしいわ、って心の中で思った。本棚と勉強机、箪笥、それくらいしか本当にない。
「まこちゃん、何か作ってよ」
「え?いや、それは構わないけど、食材は?」
「どうかしら?うち、おじいちゃんと私しかいないのよ?冷蔵庫の中に5人分の食材があるとは思えないんだけど」
箪笥から服を取り出しているレイは、まさか全員の前でお着替えショーでも始めるつもりだろうか。ちょっとハラハラしている美奈子なんて、無視されてるっぽい。
「それもそうだ。よし!ちょっとひとっぱしりしてこようかな。近くにスーパーあったよね」
「うん、坂を下りたところに」
「あ~ぁ、またあの坂を登らないとダメなのか。仕方ないか」
「がんばって。うさぎ、付いて行って、お菓子でも買ってきたら?」
「あ、そうする!まこちゃん、行こう~!」
「あっ!そんな!……わ、私も行く!」
亜美はレイと美奈子を見てから慌てて手をあげる。3人は財布と携帯電話だけを手にして、満面の笑みで出て行った。
「あ、いたの。ごめん、ちょっと忘れてたわ」
「……わざとでしょう?」
「美奈子も買い物に付いてく?」
「いい」
「でしょうね。ちょっと、着替えるから後ろ向いてて」
美奈子は帽子を取りながら、レイに言われたとおり背中を向けた。布がこすれる音が聞こえてくる。女の子同士なのにって思いながらも、そう主張してガン見したいわけでもない。
「今日、仕事だったんでしょ?」
「ミニライブ」
「まことに誘われてたような気がするわ」
「神社が忙しかったんでしょ?」
神社が忙しくなかったら、レイは来てくれていただろうか。
なんとなく、来ないような気もする。
「今日は特にね。大安だと、なぜかうちの神社で御守り買う人が多いのよね。変な噂が広がっているみたい」
レイは“よいしょ”なんて声を出しているけれど、服を着るのに何を“よいしょ”しているんだろうか。
「うさぎたちも、神社の御守りを持っているって言ってたわ」
「そうそう、うさぎと亜美ちゃんにはあげたわ。まことは、彼がうちにわざわざ来たのよ」
“もういいわよ”って言われて振りかえると、レイはデニムにロンTのいつもの恰好に変わっていた。美奈子は正座を崩して、膝で歩きながらレイに近づいて傍に座り直す。うさぎみたいに腕にまとわりついたりはしないけれど、うさぎの方がレイとの距離が近いなんて、なんだか腹立たしい。
「何、美奈子」
「レイの部屋、初めて入った」
「そう言えばそうね」
「みんなは何度も来ているの?」
「時々ね。お正月前とかは手伝ってくれたし、泊まりに来たこともあるし、あと家出先として利用されたこともあるわ」
「……そっか」
病気していた頃のことで、自分から仲間の傍にいることを避けていたのだから今更どうしたいとか、そういうのじゃない。
今、生きている奇跡だけで十分。それに仕事があるから、そうやっていつでも仲間と一緒にいられるなんて、そもそも無理だから。
「何、美奈子。不貞腐れてる?」
「別に」
「あ、自分だけ御守りもらってないって拗ねてるの?」
「拗ねてないし」
「拗ねてるじゃない。別に、美奈子に渡したくないって言うわけじゃないわよ」
レイは立ち上がって、勉強机の引き出しを開けると、大事そうに布で何かをくるんだものを持ってきてくれた。
「あなたが病気だって聞かされた時に……渡そうって思っていたのよ」
「……あ、りがと」
まだ、今年の春くらいのことだ。すっかり寒いこの季節になるまで、レイとは何度も会っていたのに。渡された布をそっと開くと、何も書かれていない真っ白な御守りがひとつだけある。
「あの……これは何の御守りなの?」
「……それ、病気平癒って言って。簡単に言うと、病気が治りますようにって言うやつよ。外にそう書いてあったら嫌がる人もいるから、書いてない御守りもあるの」
「へぇ。レイ、これを私に渡そうとしてくれてたんだ」
恋愛成就だったらどうしよう、なんて内心ドキドキしたというのに。

”片想いしている人に渡したら、両想いになれる“

うさぎが言ってたセリフを思い出して、まさかね、なんて考えを改めた。

「でも、渡しそびれちゃったのよ。なんていうか、治すつもりのない美奈子の態度に腹が立って」
「……そっか。きっとあの時なら、渡されてもいらないって、突っぱねていたかも」
「でしょうね。だから渡せなくて、手術するって言ってくれたから、当日の朝にでも渡そうと思ってたの」
美奈子の手から御守りが奪われてしまった。大切に包んでいた布まで奪われて、見せびらかしたかっただけとでも言うのだろうか。
「レイ?」
「何?」
「くれたんじゃなかったの?」
「なんでよ。美奈子、まだ病気なの?」
「……余命半年って宣言した先生がノイローゼになるくらい、健康」
「だったら、いらないでしょ」
確かに、病気じゃない美奈子にとって、病気が治りますようにっていう御守りを持っていても御利益なんてあるはずもない。というか、もう向こう30年くらい健康でいられる自信が満ち溢れている。
「うん」
「何?欲しいの?」
「いや……健康だし」
うさぎとまことは恋愛成就、亜美は合格祈願で、美奈子が病気平癒。
そりゃ、確かにチョイスとしては間違っていないだろうけれど、なんて言うか、今の美奈子のことを考えようとか、レイは思わないのだろうか。
「不満なわけ?」
「ううん……別に」
美奈子だけ何ももらえないくらいなら、病気平癒でもいいかも、なんて思ってしまう。外からはわからないわけだし。レイのあの御守りだって、きっと今更別の人にあげるなんてこともできないだろうし。
言えないけど。
「今日、ライブは成功したの?」
机の引き出しに戻されてしまった御守りを名残惜しく眺めていると、振りかえったレイがいつものような口調で聞いてきた。
「あ、うん。いつも通り。じゃんけんで勝った1人にサイン入りのポスターをプレゼントっていうのがあってさ、うさぎと8歳の女の子が最後に残っちゃって……」
「あ~、あの馬鹿は見境なく、子供相手に本気を出そうとしたわけね」
「お願いだから負けてあげてって説得するの、大変だったわ。まことも亜美も必死で」
「……うさぎは本当、脳みそ使えないんだから」
「うん。あとで楽屋に来ていいから負けてって、交渉したの」
そもそも、じゃんけんに参加すること事態に問題あるでしょう、ってレイは呟く。美奈子は隣に腰を下ろしたレイの髪を指で梳きながら、やっぱり止められるのはレイしかいないのね、と、つくづく思った。
「ん?何?」
「……ううん。静かな部屋だなって」
「そう?でも、静かな方が落ち着くから」
「ふぅん」
静寂は互いの呼吸する音に耳を傾けさせる。レイの髪は長くて細い。指の間をさらりと流れるから、何度も何度も掬いあげた。
その単純な動作が楽しいって感じてしまう。
「人の髪で遊んで楽しい?」
「そこそこ」
「……あぁ、そう。で?なんでわざわざみんな揃ってうちにくるわけ?クラウンでもよかったんじゃないの?」
「なんでだろうね。うさぎがレイに会いたかったって、さっき言ってたじゃない」
「それだけ?」
「何?」
せっかく楽しくレイの髪の毛で遊んでいたのに、手首を掴まれた。他にあるでしょう?というセリフを眼差しに乗せて見つめてくるから、本当、反則技を使う常習犯だと思う。
「美奈子が私に用事があるんじゃないかって思ったんだけど」
「特にないわよ」
「そう?素直に言っておいたほうがいいわよ」
「……別に、ないし。レイに会えたら、別に、それで…いいし」
掴まれた腕は不自由なままだから、美奈子は身体をレイに預けるように姿勢を崩した。咄嗟に抱きとめてくれるレイの体温は相変わらずちょっとだけ低い。
「やっぱり。美奈子、私に会いたかったんでしょう?」
「まぁ、そうだけど」
「うさぎみたいに、素直に言えばいいのに」
あんな、満面の笑みでレイに抱きつけるなんて、うさぎのキャラだから許される。それに、うさぎは衛がいるから、どんなにうさぎがレイに抱きついてもしがみついても、そこに恋愛感情があるということは決してない。まことや亜美だってそうだ。
レイにそんな感情がないから、みんなの前でも会いたいと口に出せるのだ。

レイを好きじゃなければ、もっと気楽にレイと会えるのだろうか。
だったら、好きじゃなければいいのだろうか。



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Date:2014/09/22
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