【緋彩の瞳】 乙女の唇 ①

緋彩の瞳

マリみて、舞乙、ワンピ

乙女の唇 ①

舞乙HiME  シズルがコーラル、アインがパールの時代の話です。





「こ、これは……」

コーラルNo.1シズル・ヴィオーラの部屋のベッドには、憧れのそのお方がスヤスヤと眠っていた。
よく知った人物だが、同室であるハルカとは違う。
扉を開けて、おや?と思い、その姿を見たとたんに思わず周囲を確認せずにはいられなかった。

(い、いただいてええんやろか……、これはええということにしておくべきどすなぁ)

とりあえずそっと扉を閉めて、今一度、眠り姫の目蓋の具合を確認する。

(それにしても、なんでこんなところにいはるんやろう?ハルカさんはさっきまで教室におったし、用があるにしても…こないに無防備な姿をしはるなんて)

麗しのパールNo.2であるフィア・グロスは、少し乱れた制服のままシズルを誘うかのように瞳を閉じていた。



少しさかのぼる。
その日、パールたちはコーラルよりも一足先に授業を終わらせて、それぞれの余暇を過ごしていた。入学前から故郷アンナンのマイスターオトメになるとされているアイン・ルーは一人図書室で何冊もの本を積み上げて、丁寧に1ページずつ読み耽っている。可愛い妹がおいしい手作りケーキをねだってきたのだ。今まで誰も食べたことがないようなものというリクエストをされて、断ればよかったものの、妹からのお願いにNOと言えない性格が邪魔をしてしまう。
「熱心ね」
気配もなく背後から誰かが声をかけてきた。
誰か、なんて別に緊張しなければならないほどではないのはそのやや低い声だけでわかる。
「フィア、珍しいわね。あなたがこんなところにいるなんて」
振り返ると、思った通りにぴんと背筋を伸ばしたフィアがアインを見下ろしていた。授業意外の勉強はしない主義の彼女が図書館にいるなんて。思わず、レポート提出の宿題なんてあったのかしら、と考えてしまう。もしそうなら、ケーキなんて作っている場合ではない。
「どこぞの親切なクラスメイトが、アインが苦い顔をして図書館に篭っているから助けて差し上げたら、と申し出てくれたのよ」
「なぜ、フィアが?」
「アインが悩ませていることの解決策を知っていそうな唯一の人物、ですって」

フィアは聡明な人。
アインは努力を重ねることを続けてパールNo.1になったが、おそらくフィアはあまりそういう順位に興味を示していないのだろう、わざとNo.2になったちょっとずるい人でもある。上位3名から漏れた瞬間に、母国カルデアからの援助が打ち切られるというのだから、彼女も背負わされたものは決して軽くはないのに。
「ねぇ、おいしいケーキを作りたいのだけれど」
「なぜ?」
パラパラと積まれてある本を適当に捲りながら、フィアはため息をついた。
「シズルが食べたいと言ってきたのよ」
「相変わらず、妹のことになると目じりが下がりっぱなしね」

『洋菓子の歴史』

こんな本から読みふけっていると、ケーキを作るまでに何年かかるのだろうか。アインは努力家だが、その生真面目すぎる性格はときに要領よくという言葉を省いてしまうこともある。
「そう言えば、カルデアにおいしいケーキのお店いっぱいあったわね」
「まぁ、うちの国は昔から洋菓子を好む人が多いけれど。でもフロリンス出身の子に教えてもらったほうが、確実じゃないかしら?」
どちらかというと、そっちのほうが本場よ。そう言ってその場から離れようとしたけれど。
「フィア」
しっかりと制服の裾を握り締めて放そうとしない。見上げてくる瞳は、嫌になるくらい綺麗な色をしている。
「……シズルに似てきたわね。材料を買いに行きましょう」
「ありがとう」
利用されるとわかっていたけれど、断れない雰囲気があった。


「あなた、いったいどれだけのお酒を入れるつもりなの?」
時間短縮のために別行動で買い物に行ってきた二人は、調理室に入るとそれぞれの材料を並べた。
「店員さんが次々に薦めてくるから。それに、説明を聞いているといったいどのお酒が一番いいのかわからなくなってきて。フィアに選んでもらおうと思ったのよ」
リストには、ラム酒とちゃんと書いたはずだ。それなのに、カルーアにブランデー、コアントロー、バニラビーンズ。ここまでは良しとするが、なぜだか赤ワインと白ワイン、さらにはジパングの伝統酒まで買って来ている。これはケーキに関係はない。
「わざとね」
しれっとそっぽ向いているアイン。学園内での飲酒は禁止されているのに、まさか飲むつもりだろうか。そういえば、アンナンではお茶を飲む感覚でお酒を飲むと聞いたことがある。
「さて、はじめましょう。シズルも楽しみにしていることだし。ハルカさんの分も作って、4人でいただきましょうね」
アインは普段口数が少ない。物静かでおとなしく、トリアスとして、パールNo.1としての仕事も微笑んでそつなくこなしている。時々その微笑が明らかに“困っている笑み”であっても、誰も気がついていない。彼女は重圧に耐えられないタイプではないが、何でもお人よしにひきうけなければならない立場に立つことに向いているとも思えない。フィアもどちらかといえばお飾り的なものが苦手でワザとNo.1にならなかった。間違いなくアインはそれを見抜いていて、困っている笑みでフィアを見ている。
「では、まず使わないお酒は全て片付けてちょうだい」
「……いじめっ子」

それから、二人並んでいるのにほとんど会話をせずにケーキを作った。よくわからないといいながらも、馴れたような手つきでケーキをつくるアインを見ていると、最初から上手く利用されているとわかっていたけれど、そのほうが心地よかった。


「間に合ってよかったわ」
アインの部屋は相変わらず塵ひとつない。妹のシズルが毎日やってきて丁寧に掃除をしてくれると言っていた。掃除をしにきては何かを破壊するハルカとは違い、本当によく出来た妹を持っているようだ。取り替えてくれないものかと思う。
「ねぇ、アイン。ハルカとシズルに食べさせるのなら二人の部屋に行けばいいのに」
切り分けられたケーキは4つのお皿に飾られているし、紅茶の準備も出来ている。わざわざ呼び付けたいのだろうか。一人部屋よりもコーラルの部屋の方が広いのは確かなのに。
「これ、ちょっとだけ…と思って」
アインのスカートのポケットはかなり膨らんでいた。その中から取りだされたのは赤ワイン。
「学園長に見つかったらどうなるかわかっているの?」
「あなたがNo.1になるかしら?」
「二人揃って退学よ」
規律を守り、後輩たちのお手本となるトリアス二人が自室で飲酒。アインがお酒を手にしている時点でもう、十分に罰せられる。
「だって、面と向かってあなたのことを好きだなんて言えないわ。お酒のお力添えがなければね」
ボトルを抱きしめて言うことじゃない。
「言ってるわよ、すでに」
「あら……本当」
「適当にこじつけて、お酒を飲みたいだけでしょう?」
「どちらも本当よ。フィアも付き合って」
罪のない微笑み。
罪がわからない人。
「かならずボトルを始末するのよ」
「イエス・マスター」
隠し持っていたワイングラスを出してきたアインは、これまたなぜ持っているのかオープナーで器用にコルクを開けた。




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Date:2014/09/23
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