【緋彩の瞳】 忘れていた日

緋彩の瞳

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忘れていた日

それに気がついたのは、美奈の一言だった。

『レイちゃん、何あげたの?』
「は?何?何のこと?」
それは電話越しで、受話器を片手に一人分の食器を流しに持ち運んでいたから誰も表情なんて見ているわけではないのに眉間に、つい、しわを寄せる。美奈はいつも会話が成り立たないからついつい、電話の相手が彼女だと疑いから始まるのだ。
『何って、レイちゃんの保護者。はるかへのプレゼント?』
「はるか?何か大会にでも出てたかしら?」
『……ギャグ?』
真冬の冷たい水が蛇口からチョロチョロと流れてゆく。美奈の声は笑ってなどいなかった。
「は?はるかのことでしょ?………」
そのとき、はっ!と壁のカレンダーを振り返るのと
『今頃ショック死ね』
という言葉は見事に重なり合って、レイは“あ~ぁ”とため息をつくしか出来なかった。


時計は23:15分になっている。27日どころか、今日は28日だった。


『はるかなら、今朝からいじけて部屋から出てこないわよ』
「子供なんだから」
『お姫様、お願いだからあんまりはるかをいじめないであげてね』
「いじめてないわよ……。みちるもこの前会ったときに言ってくれてもよかったのに」
『あなたが何も聞いてこないんだもの。てっきり、もう二人だけで遊ぶお約束でもしているものだと思っていたわ。それかもう、すでにお祝いしたあとなのか』
「してたらしていたで、はるかから報告が来るでしょう?」
『それもそうね』
でも私には関係のないことだから、なんて。みちるは受話器の向こうでクスクス笑っている。
『レイ、なんとかしてはるかに電話させるから。今度のお休みにでも付き合って差し上げて』
「いいけれど…いじけた分の代償は大きいかしら?」
『さぁ。しきりにレイからお祝いがない、会いに来ない、電話もないってそわそわしていたわよ』
本当に、昔からへたれ。
「プリンセスをお守りする美神とは思えないわね」
『違うわよ、私たちはいつだってマーズとヴィーナスのお守り役じゃない。それほどまでにあなたが大好きなのよ、はるかは』

大好きという言葉は優しくて、寂しくて、切なくて、ちょっと苦手。レイにはその気持ちがただ漠然としていて上手く説明ができないものだ。

「…それは、みちるの誕生日を忘れたら笑って許されないと言うことね?」
『あら、そんな風に聞こえるかしら?』
「聞こえるわよ、耳はいいもの」
『悪いのは記憶力かしら?』
みちるのちくっとした嫌味だって、レイにはたいしたことじゃない。

はるかの誕生日だからって、別にだから何?て思ったりもするけれど。
こうやって、誰かの誕生日を祝いたいと思えるのが当たり前になってみると、それこそレイが欲しいありきたりな日常をいつの間にか手に入れたのだと感じる。
一人の夜でも電話で繋がる相手がいて、つまらない会話に付き合ってくれる相手がいて。
「記憶力?よすぎて困るわ。前世まで覚えている人間なんて、そうはいないわよ?」
『そうね……あなたいつも私にだっこしてっておねだりしていたもの』
どれだけ昔のことを引き出すんだろう、と言いたいけれど言わせてくれそうにない。そういうみちるの表情を想像すると、不思議と嫌になれない。
「明日、そっちに行くから。おいしいケーキでも焼いて待ってて」
『どうして私が?』
「いいじゃない。みちるの手作りケーキでお祝いのしなおしというわけで」
『ふふ…わかったわ。じゃぁ、美奈子も呼んでいらっしゃい。おいしいご馳走を作って差し上げるわ。楽しい気分になって、はるかに甘えて許してもらいなさい』
「そうね、そうする」
まぁ、はるかが怒って口を聞かないなんて、実際に会ったらそんなことが5分も続くわけがない。

「ちなみに、美奈は何をプレゼントしたの?」
『レンタル猫よ』
「は?」
『猫で癒されてください、だなんて。アルテミスに真っ赤なリボンを付けてはるかに向かって投げ渡していたわ』
「……まったく、誰がそんな風に育てたんだか」
『ウラヌスでしょ』
「あぁ、まぁそうね」
『アルテミスは♂だから、はるかは別に必要がないそうよ。美奈子ったら、今月のお小遣いはお年玉も合わせて、バーゲンにつぎ込んだみたい。ある意味あの子も忘れていたのね、はるかの誕生日』
明日、なるべく早く来てアルテミスの引取りと、はるかのご機嫌を取るようにと念を押されるレイだった。




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Date:2014/09/23
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