【緋彩の瞳】 迷子の子猫ちゃん ①

緋彩の瞳

その他・小説

迷子の子猫ちゃん ①

学校指定の参考書でも買おうかと、大きな本屋の“中高・参考書”のプレートの前で上の棚から順番に目線を下ろしていく。俗に言うエスカレーター式で、受験のない私立校でもこの時期には、やっぱりそれなりにテストはあるわけで。そろそろ、本腰を入れておく必要もある。1冊、英語の参考書を手に取ると、隣のみちるが覗いてきた。
「レイ、現代社会が苦手なのでしょう?」
じろっとみちるを見て、レイは横へ3歩進むと、現代社会の参考書を取った。
「これは、いらないんです」
「どうして?」
「選択科目じゃないんです。私、日本史を選択しているからこれは勉強しないんです」
取った参考書を、本棚にしまう。
「苦手なものは諦めるってわけね」
みちるの挑発的(小悪魔的?)な言葉に、レイは振り向かずにレジに向かった。
「待って」
「知りません。大体、私はみちるさんのお守りじゃありません」
「つれないわね」
「はい」
そんな、はっきり言わなくても。頬を膨らませて無言の抗議をしてみても、相手ははるかのように弱くないのだ。効果がない。
「そもそも・・・」
お金を払って本を受け取ったレイは振り返って一呼吸置いた。髪が、さらっと靡く。
「迷子になったのはそちらでしょう?」
一瞬でも見とれたことに、みちるはほんの少し後悔した。
「わかったわよ。目的地まで連れて行ってください」
両手を合わせて、ウインクしてみせる。
「私は、みちるさんのお守りじゃないですってば」
「帰れないじゃない」
「知りませんよ、そんなの」
大きな本屋を出て、レイは目の前のエスカレーターに乗った。みちるも当然その後ろを付いていく。
「レイは何をしているの?」
「少なくとも、迷子をしているわけじゃありませんけど?」
まったく。
最近はどうしてこう、反抗的なのだろう。突けば突くほど面白くて、可愛くて。
みちるは、内部戦士の中でレイを特に目にかけている。
みちるいわく“愛情”だが、レイいわく
“はた迷惑で、余計なお世話”らしい。
「レイ、ストレス溜まっているわね」
「えぇ、まったくですわ。誰かのおかげで」
「美奈子が何かした?というより、美奈子はどこにいるの?」
「別行動です」
ステップを降りて、オロオロすることもなく、3つに分かれている通路の真ん中を歩く。
「ねぇ、どこへ行くの?」
まっすぐ前を向いて歩くレイとは対照的に、みちるは左右賑やかなお店を交互に見ながら歩く。
「ちょっと!」
置いていかれそうになるのを、慌ててレイの腕を掴んで止めた。
「レイ、ねぇ。せっかくだから見ましょうよ」
(何が“せっかく”なのよ・・・)
がっちりと掴まれた腕は、そう簡単に話してくれやしない。ズルズルと有名ブランドのお店に引き摺られたレイは、なんとなく嫌な予感がした。


その頃
「おーい、みちるぅ?!」
別のフロアで、はるかは小パニックに陥っていた。


「みちるさん、そうやってウロウロしているからはるかさんとはぐれたんですよ。そのところ、お分かりですか?」
服の入った紙袋を持たされて、レイはものすごく不満を含んだ声を出した。
「あら、せっかくショッピングに来ているのに、迷子で終わらせるのは嫌じゃない?」
(自分で迷子って認めているなら、もっと焦るでしょ・・・)
シンプルだけど絶対高級そうな財布から、クレジットカードを取り出すみちる。
「それに、レイと一緒なら心強いわ」
自動ドアへと向いていた身体は、一歩を踏み出せなかった。がっちりと腕を掴まれている。
「さ、次はどこへ連れて行ってくれるのかしら?」
「確実にはるかさんに会える場所に行きましょう」
レイはみちるがありとあらゆる誘惑の罠に引っかからないように、掴まれた腕に力を込めてまっすぐ進み、店内マップのある場所へ向かった。
「あら、便利ね。レイ、ほら見て。ここにお化粧品の専門店があるみたい。連れて行ってくださる?」
「みちるさん、私はタクシーのドライバーじゃありません」
「もちろんよ」
「みちるさんは、今からここに行きますから」
マップのサービスカウンターと書かれてある場所を指差したレイは、そこまでの100メートルほどの通路にある障害物を確認した。
(なんで、レディースファッションばかりなのよ!)
険しい道のりになりそうだ。すでにみちるの瞳は360度、あらゆるお店へと向いている。
「ねぇ、そのサービスカウンターには何があるの?」
「迷子になった子供やそのお母さんが、助けを求める場所とも言います。さ、行きましょう」
紙袋を持っていない手でみちるの腕を取ると、レイはまっすぐに進んだ・・・つもりだった。
「ねぇ!それって、遊んだ後にそこではるかを呼び出してもらえばいいのではなくて?」

“迷子の天王はるかちゃん。お母様がお待ちです。至急、3階サービスカウンターまでお越しください”

そんな、綺麗な声のアナウンスが、関東最大級といわれるショッピングモール全体に響き割るのか。いや、そもそも迷子はみちるのほうだ。レイは一瞬にしてありとあらゆるシミュレーションをしてみた。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「・・・・みちるさん、遊んでいる場合じゃありません」
ズルズルと引き摺られながら、レイは自分がどうしてモールに来ているのか本来の目的を忘れつつあった。


その頃
「つれないわよね、レイちゃんも。入った瞬間、別行動だなんて」
いつものことだから、さほど気にしてはいないけれど。
「待ち合わせまであと2時間かぁ。さ、がんばらなきゃ!」
レディースファッションのお店をはしごする美奈子の背後を、レイを引き摺ったみちるが通っていった。

さらにその頃
「みちるぅぅ~」
はるかは、モールの中心でへたれていた。


「まったく・・・」
みちるが瞳を輝かせて化粧品専門店に足を入れてから、かれこれ30分が経った。始めは付き合っていたレイも、独特の香りのキツさと人の多さにうんざりして店から飛び出し、入り口に一番近いベンチに腰を下ろして長期戦に構えることにした。ここにいれば、出てきたみちるをすぐに見つけることが出来る。
「まったく・・・」
さっきから、何度この言葉を繰り返せば気が済むのかというくらいレイはぼやいていた。
「どうしたの?浮かない顔ね」
小さな紙袋をいくつも手にしているみちるが、いつの間にかレイの前に立っている。どうやらぼんやりしていて、みちるが出てきたことに気がつかなかったようだ。
「・・・そりゃ、迷子のみちるさんは楽しいでしょうけれど」
「楽しくない?」
「はい」
「・・・即答ね。ダメよ、こういうところで楽しまなきゃ、いつ楽しむの?」
迷子のみちるに楽しまれるのは、大いに迷惑だ。レイはまた心の中で“まったく”と呟いた。
「さ、満足したのならそろそろ呼び出しをしてもらいましょう」
「待って、レイ。そっちじゃないわ。こっちよ」
「は?」
立ち上がって、サービスセンターまでの険しい道のりを睨み付けたレイは、肩を掴まれて身体を回転させられた。
「ちょっと、みちるさん」
「もう、お昼でしょ?」
「・・・まさか、のんびりランチを取るおつもりですか?」
「“まさか”だなんて。当然と言ってもらいたいわ」
「みちるさん!」
そろそろ我慢の頂点に近付いてきた。けれど、レイは爆発しない。
「・・・・・わかりました」
「そう?ものわかりのいい子で、つまらないわ」
微笑みながらもその言葉の本当の意味に気がつかなかったレイを見ているのは、さすがにみちるも少し辛い。
「余計なお世話です」
主導権がみちるに渡される。エレベーターに乗って、最上階まで来た。そこでレイは、ある重大なことに気がついた。


「・・・・やられた!!!!」
本屋でみちるが声を掛けてきて「はるかとはぐれちゃったの」なんてしょんぼりしていたからすっかり忘れていた。そう、通信機の存在。いや、そもそもみちるが方向音痴だなんて聞いたことがないし、はぐれたからと助けを求める人間じゃないのだ。
高級レストランの前で、「予約した海王です」なんて言って微笑んでいる。
「みちるさん!まさか私を振り回して遊んでいたんじゃ・・・」
「あら、わかっていて付いてきたのではないの?」
「付いてきたぁ?!」
それは、こっちのセリフ。とぼけるみちるに、レイの我慢はまたもや頂点へと向かう。
「怒らないの。はるかとさっき連絡を取って、はるか経由で連絡してもらって、美奈子もこのお店に来ると思うわ。さ、行きましょう。奢りよ」
奢りだけじゃ、物足りない。レイはくるっと向きを変えた。


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Date:2014/09/23
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