【緋彩の瞳】 迷子の子猫ちゃん END

緋彩の瞳

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迷子の子猫ちゃん END

「レイ」
「みちるさんがはるかさんに会えたのなら、私はお役ごめんです」
「お役ごめんって、美奈子が来るのよ」
「別に、美奈と一緒にいなければいけない理由はありません」
背中を向けたままむっつりしたレイがぷんぷん怒っている。みちるは小さく笑った。もちろん、レイに聞こえないように。
「レイ、今日はがんばったじゃない。他人と歩くスピードを揃えることさえ苦手なあなたが、よく私と一緒にいることが出来たわね」
いつも思う。どうしてみちるには何もかもがお見通しなのだろう。全てを見透かされている気がしてならない。
「・・・みちるさんに声を掛けられたときに、逃げておけば良かったって凄く後悔しています」
振り返って、髪を掻き揚げる。振り回されてけだるそうな態度でも、みちるはお構いなし。
「ねぇ」
両手に持っていた荷物を床に下ろすと、みちるはレイに歩み寄り両手で頬を包みこんだ。
「何ですか?」
「もっと、怒ってくれたほうが私には嬉しいことなのだけれど?」
「・・・いいです、別に」
「振り回されて、むっつりしたまま付き合うくらいなら、怒って私に怒鳴りつけて御覧なさいな」
親指で綺麗な唇をそっとなぞってみた。眉間にしわを寄せて困った顔をしても、レイはされるがまま。
「そうやって、何にでも耐えて黙っていても、私にはわからないわ」
「ご冗談を。みちるさんは、私のことを見透かして行動していたんじゃないですか?」
「そうよ」
「私が人と歩く歩幅を合わすことが出来ないって、どうして知っているんですか?」
「気になる?」
頭を撫でて、ゆっくりと抱き寄せ・・・
「おーい、みちるぅ。何やってるんだよ」
未遂で済んだ。レイは、ようやく迷子の飼い主が現れたことに心から安堵して、声のするほうへと向きを変えた。
「何していたんですか、はるかさん。首に縄つけて、ちゃんと見張っていてください」
ぷんぷん怒るレイに、はるかは両手を上げる。ちなみに、みちるは別の意味でぷんぷんだ。

(はるかのバカ!あと10秒くらい待てないのかしら?!)
「だってさ、みちるが本屋の前で急にいなくなるんだもん。それまでは、一緒に歩いていたのに、急にだよ?いくらなんでも、僕だって探せないよ。通信機は切られていたし」
みちるはレイを見かけて、声を掛けたらしい。玩具を見つけた子供のように、はしゃぎまくったのも、何かしら計算していたとでも言うのか。
「私、わかりません。どうしてみちるさんが私で遊ぶのか」
真面目な問いかけをするレイに、みちるはくすっと微笑んだ。
「そうね。ただ、あなたが好きだからよ。そんなことより、おなか空いちゃったわ」

エスカレーターを美奈子が駆け足で上がってくるのが見えた。みちるは、いきなり呼び出しを受けて、何がなんだかわからないような美奈子に手を振る。
「はるかさん!レイちゃんがみちるさんに拉致されたって、どういうことですか?!」
みちるとレイが傍にいるにもかかわらず、美奈子ははるかのシャツを掴んで振り回した。
「わ、わっ!だから、レイとみちるがたまたま一緒にいるってだけで!ほらっ!」
はるかの人差し指の先に、レイがいる。

「レイちゃん!」
はるかを開放して、拉致の救出へと向かう。
「美奈、いったいどういう連絡を受けたの?」
「レイちゃんがみちるさんに拉致されたから、返して欲しかったら最上階のイタリアンレストランまで来いって。もう、大変だったのよー。この建物とは違うところにいて、トラック走を何回も走った気分よ」
おそらくはるかも冗談で、そんな連絡を入れたに違いないのだが。
「まったく・・・」
悪びれるつもりもないみちるとはるかを見て、レイは溜息を吐く。どうしてこんなに、振り回されているのだろう。
「美奈も、普通冗談だって気がつくでしょう?」
「みちるさんなら、やりかねない」
「あら、失礼ね」
さっさと案内された席に腰を下ろしたみちるは、美奈子とレイに向かって、手招きした。
「早くしなさい」
コントロールされているような気がすると、レイは思う。はた迷惑だけれど、嫌ではない。
「・・・座りましょう、美奈。おなか空いちゃったわ。みちるさんに散々振り回されて」
「何してたの?」
「ちょっとね・・・」
「レイちゃん、サンダル買うって言ってなかったっけ?」
「・・・あっ・・・・」
みちるの正面に腰を下ろしてから、固まる。
「何、レイ?」
手にしているのは、参考書1冊のみ。何もこんな巨大なショッピングモールじゃなくても、たやすく手に入れることが出来るものだ。
「奢ってもらうくらいじゃ、許さないから・・・」
それでも、いつもはこんなに人の多いところに来ると、吐き気がするくらいだったけれど、今日はそれどころじゃなかったせいか、身体が軽かった。
「何でも食べていいわよ。はるかの奢りだから」
「え?」
メニューを見ていたはるかが固まる。
「どっちでもいいです」
「レイちゃん、いいこと言うじゃない。すいませーん!注文いいですかぁ?」
冷たいレイの言葉と、店員を呼んで一つ一つメニューを指差しながら注文をしていく美奈子。
「みちる、どうして僕が?」
「いいじゃない」
もとからお金を出すつもりではいたものの、改めて言われるとありがたみというものが半減するのではないかと、はるかは考えてみる。
「ごちになりますっ」
運ばれてきた前菜を前に、嬉しそうな美奈子を見ると、不満を言うのもかっこ悪い。
「どんどん食べてよ」
はるかは、いつものスマイルを送った。


むっつりしたままのレイは、1人サンダルを買いに行った。付いていこうとした美奈子はもちろん追い払われて、しゅんとしたまま大人しく待っている。
「みちるさん、レイちゃんと何していたんですか?」
「見かけたのよ、レイを。こんなに大きなショッピングモールで参考書選んでいるなんて、声を掛けたくなるじゃない」
「だからって、僕を置いていかなくてもいいんじゃないか?」
レイを待つ間、はるかに奢ってもらったジェラートを食べる美奈子。みちるは美奈子の隣に腰を下ろすと、歩き回って疲れた足を伸ばした。
「はるかがいると、あの子遠慮するもの」
「みちるさんだと、レイちゃんは遠慮しないんですか?」
「させたくないわね。私、あの子の性格よくわかっているから」
時々、みちるが怖いと思うことがある。美奈子はその横顔をじっと見つめた。
「・・・美奈子、ジロジロ見てもそれは溶けていくばかりなのよ?」
手元のジェラートがとろーりし始めている。慌ててスプーンで掬った。
「みちるさんは、どうしてそんなにレイちゃんのことが好きなんですか?」
「あら、どうしてわかったの?」
微笑んで、みちるはレイの姿を見つけて小さく手を振った。
「好きじゃなきゃ、レイちゃんにチョッカイかけたりしませんよ、普通」
「チョッカイ?何なのそれ?出来れば、愛情表現と言ってもらいたいわ」
はるかは、声には出さないが、どちらかと言えば美奈子の言葉のほうが近いじゃないかと、思ってみる。
「どっちにしろ、好きなんですよね?」
「・・・・・・好きよ。だからね、助けてあげなきゃいけないのよ」
立ち上がってレイを向かえるみちるを座ったままの位置から見つめると、どうしてだろう。胸に切なさの雫が落ちた。美奈子は最後の一口を食べて、みちると同じ目線でレイを向かえる。
「レイ、欲しいもの見つかったの?」
「とりあえず」
本来の目的であるものをようやく手に入れたレイは、ほっと一息吐いた。
「美奈、帰るわよ」
「うん」



「私の負けなのよ。悔しいわ」
送ると申し出ても、レイにきっぱり断られた。いわく、これ以上振り回されるのはごめんらしい。はるかはせっかくのショッピングを、みちるの暴走のせいで、1人で楽しむことになったことに少し不満だった。
「みちるさ、レイにかまい過ぎだよ。いくらなんでも、レイのプライベートまで首を突っ込まなくてもいいじゃないか」
「腕を掴んでおかなきゃ、消えていなくなっちゃいそうだったのよ。そんな風に見えてしまうと、放っておくわけにはいかないじゃない」
ふとした瞬間に見せる、何も捕らえていない冷たい瞳。その場から急にいなくなっても、誰も気が付いてあげられそうにない。そんな気がした。
「みちるが助けようとしているのは、レイなのか?それともマーズ?」
「・・・・たぶん、レイね」
きっぱり言い切れないのは、前世を背負っている自覚があるから。
「みちるがさ、レイにかまうのは止めたくないよ。だけど、そっとしておくことも悪くないんじゃないかな?レイには前世の記憶がほとんどないんだし、ネプチューンとマーズの関係も、もちろん覚えていない。課せられた使命を果たすために、誰だって何かを犠牲にしている。レイも同じだよ」
「だからって、あのままでいいの?はるかは何も感じないの?」
喜びに胸を躍らせることも、怒りに拳を震わせることも、悲しみに頬を雫が伝うことも、痛みに眉間にしわを寄せることも、声を出して笑うことも、レイは興味を示さない。ある程度の表現をしても、伝わらないし、伝えようという意志が見えてこない。前世では炎を操る力をうまくコントロールするために、感情を出さない訓練ばかりだった。霊的なものに対して心が強くなるために行われていた訓練は、いつしか彼女を無情な戦士へと変えていた。立っていられないくらい凄まじい妖気や霊気の中でも、マーズは無表情でいられる。
「・・・・私がレイの心を殺めたのよ」
「僕だって、彼女の訓練に立ち会っていたけれど、それはクイーンの命令だ。マーズが課せられた使命じゃないか。仕方なかったんだよ・・・」
「仕方がないって、そんな一言でいいの?はるかはそれでいいの?」
「みんな、何かを犠牲にしているんだ」
「自ら犠牲にすることと、他人に奪われるのは別だわ」
前世に囚われているのは、レイだろうか、みちるだろうか。はるかは考えた。
(どっちもどっち・・・かな)
そして、自分自身も結局は同じなのだと思い知らされる。
「なぁ、みちる」
「何?」
「レイは幸せなのかな?」

何の映画だっただろうか
“人がこの世で知る最高の幸せ。それは誰かを愛し、その人から愛されること”
というセリフがあった。
「きっと・・・・幸せが何なのかさえわかっていないわ」
声に出すと罪悪感が針となって、みちるの心をちくりと刺す。
「でも、今日のレイは楽しそうだったよ」
沈み始める夕日が眩しくて、サングラスをかけたはるかのさりげない一言に、みちるは少しだけ、重たかった事実から逃げ出せる気がした。
「だけど、もっと僕にもかまってくれなきゃ。僕がぐれちゃいそうだ」
「もう、はるかったら」
今頃レイは、ちゃんと美奈子と歩くスピードを合わせて、家に帰っているのだろうか。隣で鼻歌交じりに運転しているはるかの横顔をちらっと見る。自分には、こんなにも歩く早さを合わしたいと思える人がいる。みちるはしかめっ面をしながら歩くレイを想像して、一人苦笑した。


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Date:2014/09/23
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