【緋彩の瞳】 おとぎの国へ ②

緋彩の瞳

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おとぎの国へ ②

「まて~~~~~~~~!!!!」
白いものが走り去った方行はつきあたりを左。
ようやくそのつきあたりまでやってきたら、右側から女の子が叫ぶ声が聞こえた。
「……え?!!」
「でぇ~~~?!」
声に反応して横を向くより早く、身体にど~んと衝撃が襲ってくる。
『プリンセス!』
『御無事ですか?!』
女の子がぶつかって来た。
しかも、痛いし。
「……痛い…」
夢って痛いことは痛いのかしら。ちょっとだけ視界がぐらついて、もしかしてこれで夢が覚めてしまうのかもと思うと、まだ何か見なければいけないものがあったような気がして、もっと寝てて!と現実世界の自分を励ましてみる。
「いた~~……誰よ、もぅ?!」
誰って、こっちのセリフ。
人の夢に勝手に登場してきた子はみちるではない。
「あなたこそ、誰?」
「…え?………美奈」
知らない名前。
夢って、知らない人まで出てくるのかしら?そんな夢なんて一度も見たことないけれど。
「あなたは?」
「レイ」
「何歳?」
「5歳」
「同じだね」
「そうなの?」
「うん」
ぶつかった痛みが少し消えて来た頃、レイは白い何かを追いかけている途中だったことを思い出した。
「あ、レイちゃん。猫見なかった?白い猫」
「猫?」
「うん、こっちに逃げたんだけれど」
あの白いものは猫だったのかもしれない。
「えっと……あっちに行ったかな。あなたのペット?」
「ううん。違うけれど……追いかけてるの」
目的は同じものらしい。
「私も追いかけてもいい?」
「うん、いいよ」
フォボスとディモスは少しレイから離れたところにいて、何も言わずに頷いている。
「きっと、不思議の国のアリスのうさぎみたいなやつだよ」
「え?でも、猫でしょ?」
美奈は自信たっぷりに言うけれど、人の夢に出てきて何を言ってるんだろう。
「でも、あの猫追いかけてきたら、このお城に来たもん。きっと面白いことたくさんあるんだよ」
「え?そうなの?」
夢って、他人と共有するものなのかしら。
聞いたことない。
みちるはよく夢に出てくるけれど、同じ夢を見たなんて聞いたことないし。
っていうことは、まさか、やっぱりこれは夢じゃなくて現実の世界なのかもしれない。
「行こう!」
レイの手を勝手に取って走り出した美奈に、ぐいぐい引っ張られてしまう。
「ほら、猫だよ!こら、ねこ~!!!!」
ずいぶん前に走り去ったはずの猫は、まるで二人を待っていたかのようにこっちを見ていた。
「ね~こ~~!」
「美奈、猫の名前知らないの?」
「うん、知らない」
近づいた分だけ、白猫はまた離れた。
あれはわざとだ。
猫はもっと素早く動くものだから。分かっていて、二人をどこかへ導こうとしているんだと思う。
「っていうか、美奈はどこから来たの?」
「東京」
「ここはどこ?」
「月のお城なんだって」
「それ、誰から聞いたの?」
「あの白い猫。しゃべるんだよ?持って帰って、ペットにするの」
猫がしゃべるわけないでしょ、っていうセリフを飲み込んだのは、レイの背後にいる妖精たちも変だよって言われるかもしれないから。別にレイは持って帰ってペットにしようとは思わないけれど。
「夢じゃないんだって、知ってた?」
美奈が得意げに言ってみせる。
一歩進めば、一歩下がる猫。
レイと美奈はじりじりと近づきながら、何とか捕まえようとするけれど、白猫は余裕を見せた感じで笑っているようだ。
「え?これ夢じゃないの?」
「うん、夢じゃないんだよ」
「じゃ、何?」
「うーん。なんだろうね?…ゆうたいりだつ?」
「幽体離脱って、夢じゃないの?」
「うーん……わかんない」
なんだか、夢でも夢じゃなくても、どっちでもいい気がしてきた。
また、猫が尻尾をピンとたてて走り出す。レイと美奈も走り出した。
行き止まりにあった大きくて広い部屋。
「うわ~」
中央には透明の硝子の塔があって、キラキラ清らかな光を放っていた。
何も光を照らされていないそれは、自らが光り輝いているようにも見えた。
「ねぇ、美奈。猫はどこ?」
興味がそれた美奈は、レイの手を放して塔へ向けて走り出そうとする。
「あれ~、どこへ行っちゃったんだろう」
ぐるぐると見渡しても、白猫の姿はない。
「あれ?フォボスとディモスもいない」
「何それ?」
「え~っと……妖精?」
「妖精?」
「うん、さっきまでいたのに」
「いたの?」
「うん……」
上を見ても下を見ても、レイと美奈以外は誰もいないような空間。
小さな女の子二人しかいない。
レイはちょっとだけ怖くなって、美奈の手を掴んだ。
美奈も強く握り返してきた。
「あれ?人がいる」
「え?」
広くて白い空間は、右を見ても左を見ても全部同じ景色。
美奈が指をさした方向は、さっき何もなかったように見えたはずの場所。
長い髪を二つのお団子にまとめて流した綺麗な人が、少し高いところから二人を見つめていた。
「お姫様かしら?」
「……あ、白猫!」
優雅に椅子に腰を掛けているその膝の上に、白猫はちょこんと座っていた。
「あれ?フォボスとディモスもいる」
その綺麗なお姫様のすぐそばに、さっきまでレイと一緒にいた妖精たちもいる。
まるで、知り合いみたいに。
「あの、すいません。ここはどこですか?」
レイは美奈と一緒に近づいて、そっと声を掛けてみた。
『シルバー・ミレニアム。月の王国です』
最初に妖精たちが言っていたことと同じセリフ。
やっぱり月の王国らしい。
「あなたは?」
『クイーン・セレニティ』
「レイちゃん、あの人はお姫様?」
美奈がひそひそと聞いてくるから、レイはひそひそ教えてあげた。
「クイーンはお姫様じゃないわ。お姫様のお母さん」
「……お~。リンゴ食べさせる悪い人」
「うーん、ちょっと違う。それはこの人じゃない」
何か、美奈の頭の中はごっちゃになってる。
「あの、クイーン・セレニティ。これは夢ですか?」
『さぁ、どうかしら?夢と言われたらそうね、今のあなたたちには夢の世界ね。でも、はるか遠い過去でもあり、もしかしたら近い未来でもあるわ』
言っていることがよくわからない。
『……いずれ、あなたたちに降り注がれる過酷な運命を、もし今ここで断ち切ることができるとしたら……』
クイーンはそう言って、レイと美奈にもっと近づくようにと手招きをした。
それはまるで魔法のようで、レイも美奈も知らない間にクイーン・セレニティの傍まで来てしまっている。歩いたわけでもないのに。
「運命って何ですか?」
『もう少しあなたたちが大きくなったら、悪い人たちが地球を乗っ取ってしまうかもしれない。あなたたちは、武器を持って戦わなければならないの。できるかしら?』
「うん!」
即答したのは美奈だった。レイは何かよく意味がわからなくて、首をかしげたままだ。
「警察に任せたらダメなの?」
「レイちゃん、おもしろくない!」
「でも、……ちょっとイヤ」
レイは大きくなったら、ピアノの先生になりたい。
ママみたいに上手にピアノを弾いて、みちると一緒に演奏するのが夢で、人助けをする職業なんて興味はない。
『そうね。辛くて苦しいこともきっとあるわ』
「じゃぁ、イヤです」
「レイちゃんっていくじなしなんだね」
「今日会ったばかりの人に言われたくない」
美奈と繋いだ手は、絶交みたいに振り離された。
「フォボスとディモスは、クイーン・セレニティとお知り合いですか?」
『少しだけね。この子たちはあなたのものよ』
レイのもの。
でも、そんな気がする。
「連れて帰ってもいいですか?」
『この子たちは、いつもあなたの傍にいますよ。気が付かなかったのかしら?』
「えっと………わからないです」
ママが小さい頃に仲良しだったっていう妖精と同じなんだろうか。
『そう。運命を受け入れたときに、知ることになるはずよ』

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Date:2014/09/23
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