【緋彩の瞳】 おとぎの国へ ③

緋彩の瞳

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おとぎの国へ ③

運命って何だろう。
悪い人たちと戦うということが、運命っていうことなのだろうか。
「イヤだって言ったらどうなるんですか?フォボスとディモスとお別れすることになりますか?」
『拒否されたら、そうね……あなたの大好きな人はみんな死んでしまうわ。あなたの家族もお友達も』
「でも、そんなの嫌です」
『もし、戦いたくないのなら……そうね、私を殺せばいいわ』
「……殺す?」
悪い奴らとクイーンは同じ人物なのだろうか。
よくわからない。
「レイちゃん、この人を殺しちゃダメだよ」
「殺せるわけないでしょう?」
何とも言えない強い輝きがクイーンの身を包んでいるように見えた。

それはマリア様のよう。

『私がこの子を産めば、いずれ、この王国は滅びの道をたどることになるでしょう。銀河千年王国の終焉の鐘は、やがて地球に降り注ぐ戦の始まりの鐘となる。もし、今ここであなたたちが私を殺せば、あなたたちはその戦を回避することができるわ。……しかしそれは、あなたたちの存在すら消すことになる』

クイーンは自らのお腹を撫でている。命がそこに存在している。
レイは精一杯言葉の意味を理解しようとしたけれど、ひとつも理解できずに何も言えなかった。
「……美奈、この人はいい人なの?悪い人なの?」
「わからない」
「私もわからない……」
両手を広げるマリア様はレイと美奈の頭をそっと撫でた。温度を感じ取ることが出来ない。
『あなたたちには、難しいようですね』
それは、言いようもない絶望に近いため息。
この人は、レイたちに殺してほしかったのかもしれない。
そんなため息だった。



『当然です、クイーン』


背後からまた、別の女の人の声がする。どこからともなく現れたその人は、深紅のドレスに身を包んだ綺麗な黒髪の人。なんとなく知っているような気がするけれど、こんなお姫様みたいなドレスを着た人と会った覚えはない。
『マーズ……。随分早く到着したようね』
コツコツとヒールを鳴らして真っ直ぐに近づいてくるその人は、冷たいまなざしでクイーンを見つめている。
『フォボスとディモスがいなくなって、嫌な予感がしたので』
『そう。いつの時代もあなたの星の輝きは眩しいわ』
『私の未来は私のものです。戦うかどうかなんて、この子が決めればいいことですわ』
『今、あなたが私を殺してもいいのよ?』
『………月のプリンセスを身ごもったあなたを殺せと?』
『あなたが見ている未来を、あなた自身の手で変える唯一の手段だわ』
この人たちは何を話しているのだろう。
美奈がビビってレイの背後に隠れた。案外ヘタレらしい。
『私は未来を変えるために、この星に降り立ったわけではございません』
『そうね。まだ何も始まっていないもの』
『………そうです。最善を尽くし、運命を受け入れるだけです。この子たちも、きっと運命を受け入れるでしょう』
『そう。ならば私はあなたに殺されることも、この子たちに殺されることも諦めて、お腹にいるこの子と最期まで絶対の地位を守るしかないのね』
『そのために、私がこの星に呼ばれたのでしょう?クイーン』
『えぇ……そうね』
二人はレイと美奈を挟んで向き合い、瞳は笑わず、でも冷たい感じで微笑んでいる。
レイは美奈と首をかしげて二人をただ見上げるだけ。
その視線に気がついたのか、“マーズ”と呼ばれた人がレイと美奈の頭にそれぞれ手を置いて、優しく撫でてくれた。
ひどく切なくて、でもとても優しい瞳。
『いい?私たちの星は、その使命を永遠に受け継ぐの。どこにいても、たとえどんな姿になったとしても。いずれあなたたちも、その運命を受け入れなければならない時が来るわ』
「でも、イヤだって思ったらやめてもいいんでしょう?」
何だろう、この人のことを知っているとレイは思った。
会ったことがあるというより、もっともっと近い存在。
『あなたは愛する人を守るために、戦う道を選ぶはずだから』
何も言い返せなかった。
イヤだと思ってもたぶん、この人が言うとおり自分はその道を選ぶ気がした。
「あなたも戦う道を選んだの?」
『えぇ。愛する人と一緒に……最期を迎える約束をするの』
その人は質問したレイではなく、隣の美奈の頬を優しく手のひらで包み込んでそう答えた。
美奈はぽーっとして見上げている。
「死ぬために戦うの?」
『私はね。でもあなたは違うわ。そうならないために、私が少しだけ未来を変えてみせるから』
「がんばります!!!」
なんでだか、美奈が元気良く返事をした。
“マーズ”はちょっとだけびっくりしたけれど、凄く幸せそうな笑みを見せて、美奈の額にキスを落とした。
『がんばって、ヴィーナス』
“ヴィーナス”って誰?思ったけれど聞けなかった。
“愛する人”って誰?思ったけれど聞かなかった。
キスされた美奈の嬉しそうな顔が腹立たしい。
『クイーン、残念でしたね。星は、やはりその運命に従い生きるだけです』
『そのようね』
大人たちはよくわからないけれど、頷き合っている。
仲直りしたのかもしれない。
『フォボス、ディモス、アルテミス、彼女たちをちゃんと元の世界に返してあげなさい。この子たちは大丈夫、ちゃんと運命を受け止める強い輝きを持っているわ』
クイーンの傍にいた猫と妖精は、レイたちの元へとそっと近づいてきた。
「白猫ちゃん、アルテミスって言う名前なんだね」
『そうだよ』
「うちのペットになる?」
『さぁ、どうだろう?でも、いずれは君の元へ帰るさ』
本当に猫がしゃべっている。美奈の足にまとわりつく長い尻尾。
美奈と仲良しのように見えるから、不思議の国のアリスのうさぎとは、やっぱりちょっと違う感じだ。
それに目の前のクイーンは意地悪いことをしてきたりしないし。
「ねぇ、私たちはどうしてここへ来たの?やっぱりこれは夢なの?」
『夢じゃないさ。でも、今は夢だと思ってもいい。すぐにこれが夢じゃないということがわかるはずだから』
もう少しだけ大人になればわかるって。また同じ言葉。
わからないことが多すぎて、レイは眉をひそめたままふてくされることしかできなかった。

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Date:2014/09/23
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