【緋彩の瞳】 藍色の川は深く美しい ①

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

藍色の川は深く美しい ①

「おじさま」

今年は冷夏だった。8月に入ってから、寝苦しいと感じた記憶もなければ、出かけることが億劫だと思った記憶もない。
むしろ、涼しくて夏らしさが恋しいとさえ感じていた。
夏の好き嫌いで言うと、好きだとしか言いようもないのだ。
暑さは苦手、紫外線は敵、いくら高い車でもクーラーが効くまでは蒸し風呂。
だけど、嫌いになれない理由の方がはるかに深美の心を支配している。

葉月が生まれた夏だから


「おや……なんだ。でかい外車が関係者駐車場を陣取るから、文句言ってやろうと思ったのに」
「関係者なんだもの」
「いつからじゃ?」
「葉月が生まれた時から、よ」
毎回毎回、挨拶代わりの合い言葉が違う。
お中元は今年も眩暈が襲うくらい、いろんなものが届いた。生ものはやめて欲しいと心の中で願っていても、メロンや洋ナシ、ブドウ、牛肉、魚介類。お手伝いさんたちと手分けして、送られてくるものを少しずつ消化していくのが、毎年胃を疲れさせる。質のいいものは小さい頃から食べ慣れているけれど、自分で好きなものを好きなように食べられないと言うことは、ストレスと言いきってもいい。
「そりゃ、仕方あるまいな」
「でしょう?」
お中元のシーズンがようやく終わった頃、知人から梨が送られてきた。お中元に頂いて放置したままのお菓子は、賞味期限が10月頃というものもいくつかある。
みちるの家に送ってやろうかと思ったけれど、その前にレイの顔が浮かんでしまった。
思いついてから火川神社にたどり着くまで、1時間もかからなかった。
「レイは?」
「もうすぐ帰ってくるじゃろ」
「あぁ……そうね、学校の時間だわ」
深美は空を見上げた。いつものカラスちゃん達の姿が見えないから、レイはここにいないのだろう。いつ頃からだろうか、葉月といるときはいつも遠くの空で見守るように飛んでいた。葉月はそのカラスちゃんたちのことを、守り神だって言っていたことがある。不気味だと感じたことはなかった。葉月が“おいで”と言えば、近くまで降りてくることもあった。
あの頃と間違いなく同じカラスちゃん達だと確信できる。葉月の代わりにレイを守っているのだろう、と。
「その両手いっぱいのものは、なんじゃ?」
「差し入れ。梨、好きでしょう?」
「おぉっ……」
目を輝かせながら無邪気に笑う目じり。深美は和菓子も入っているわよ、とウインクしてみせる。
「わしのために、すまんの」
満面の笑みで差し出された両手に、深美も満面の笑みを見せて拒否した。
「レイのためよ」
「………なんじゃい」
しょげた肩を見てクスクス笑いながら、深美は住居に入って、葉月の代わりにレイを待つことにした。



「レイちゃん、先に行っておいてだってさ」
美奈子は十番高校のメンツに、レイちゃんから少し遅れるという内容のメールが届いたことを告げた。今日はみんな揃ってレイちゃんの家に集合して、ウダウダしようと言うことになっている。いつもはクラウンに集合するところだが、たまには、という話しになっていた。
「そう。じゃぁ、バスで帰ってくるでしょうね。私たちが着く頃に落ちあえるんじゃないかしら」
みちるさんは腕時計を見ながら、確認して歩き始めた。
最近知ったことだけど、この人はレイちゃんと幼馴染らしい。でも、幼馴染でした、ということは白状してくれたけど、それ以上の情報は特にもらっていない。まぁ、なんて言うかレイちゃんの目が余計な詮索を認めようとしないのだ。昔のアルバムなんて見せてくれないし、話しも聞かせてくれない。
「あー、いくら涼しくなったって、あの坂は上りきったら汗掻くよな~」
まこちゃんは夕方前の陽の光を恨めしくしながら、それでも先頭を切って歩く元気はあるらしい。
「慣れだよね、これはさ~」
美奈子が一番通い慣れている自負はあるけれど、そうでもないかもしれない疑惑。みちるさんをちらっと見ても、いたって涼しそうだ。
「何?」
「……別に~」
6人でゾロゾロ歩いて坂を登り切ると、ちょうど神社の前でバスが止まり、後ろ姿だけで美人ですと言わんばかりのTA女学院の生徒が火川神社へと入っていく姿が見えた。



「フォボス、ディモス。どうかしたの?」
バスを追いかけていた2人がレイの前に降り立った。今日は2人揃って学校まで付いて来て、いたって平和だったわね、なんて思いながら境内を見渡すと、おじいちゃんが視界の端を通り過ぎて行く。これもいたって平和な、よくある日常。
「レイちゃ~ん」
うさぎの甲高い声がした。その声に振りかえると、ゾロゾロと同じ高校の制服集団が近づいてくる。
「みんな」
レイを足止めさせて、後ろの仲間たちに気づかせたかったのだろう。鳥居の上へと飛び立った2人に迎えられ、仲間たちは楽しそうな笑みを携えて遊びにやってきた。



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Date:2014/09/28
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