【緋彩の瞳】 藍色の川は深く美しい ②

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

藍色の川は深く美しい ②


「おじゃましまーす」
「玄関から入るの久しぶり~」
バラバラの声と共に玄関に入ると、台所の方から足音が近づいてきた。
「………えっ?」
誰だろうと思った瞬間に視界に飛び込んできたのは、隣に立っている幼馴染の海王みちるの母親。
「おかえりなさい、レイ。あら、みちる。あなたもいたの?」
「……えぇっ?!!!」
レイの絶句よりも、みちるの驚きの声があまりに大きくて、全員固まった。
夏に一度、みんなは深美ママに会っているけれど、まさかまた、しかもここで会う羽目になろうとは。
というか、どうして深美ママがここに来ているのだろう。
遊びに来るっていう話しは記憶にない。
「みなさん、ごきげんよう。いらっしゃい」
満面の笑みの深美ママは、この家に住んでいますと言った雰囲気で、どうぞ、と美奈たちを招きいれようとしている。
明らかにムッとした様子のみちるは、自分の親の行動なんて全く把握していませんと言った様子。みんなそれぞれが顔を見合せながら、レイに伺いを立てていた。
「と、とりあえず、入って。冷たいものを淹れてくるから、私の部屋で待ってて」
レイは美奈たちを部屋へと押しこんだ。みちるがレイを睨みつけてくる。
「ちょっと、何なのよ」
「……知らない。深美ママが今日来るなんて、聞いてないもの」
突然来るということはこれまで何度かあるにはあったけれど、こうやって鉢合わせたことがなかったから、特別迷惑だと思ったことはなかった。差し入れをもらったり、お土産をもらったり、洋服を買ってくれたり。みちるに秘密にしているわけでもないけれど、イチイチ何でも報告してもいない。
「ママ……何なの?」
「何?みちるの許可がいる?」
「いるとか、いらないとか……レイに一言、言ったらどうなの?こっちにだって色々事情があるのよ?」
とはいっても、深美ママにもみんなにはみちるとの関係を話したって言ってあるから、取りつくろってもらう嘘はもういらない。
「梨をたくさんもらったのよ。あと、お中元に貰ったお菓子とね。レイはお友達がたくさんいるみたいだから」
おすそわけを持ってきてくれたらしい。みちるがげんなりしたため息を吐いているけれど、別にレイは嫌ではない。みちるは単に照れ臭いだけなんだろう。あと、みちるには勝手に神社に来ないようにって、言っていたのに、自分の母親がフリーダムだと言うことが気に食わないとか。
「レイ、全部で何人分?」
レイは指を折って数えて7人分と答えた。深美ママが梨を切って、お茶を淹れて、ついでに高級お菓子も添えて持ってきてくれるらしい。
「ありがとう、深美ママ」
「余計なお世話よ、ママ」
「みちる、せっかく深美ママが来ているんだから、文句があるならみちるが帰ればいい」
「………何よ、レイの馬鹿」
ふくれっ面の幼馴染は、5歳の頃と変わらない。




「おいし~~!わ~!物凄く幸せかもっ!」
うさぎのお団子が喜びに舞っている。
「そう?レイにたくさんの友達がいてよかったわ」

変な光景。

みちるは自分の母親がよそゆきの頬笑みを浮かべて、うさぎたちに梨を振舞う姿を見つめていた。
「………幼馴染っていうのは、なるほどって思った」
はるかが小さな声で囁くから、引きつった笑みを見せるしかない。
「ある意味、みんなに言っておいた後でよかったわ。何も知らされていないのに、ママがここにいたら、何事ってなるもの。2人で慌てふためくところだったわ」
「それもそうだ。でも、レイは子供みたいな顔もするんだな。みちるのお母さんのこと、大好きなんだろうね」
レイはこんな風に、自分の家で母親が友達に何かを振舞ってくれるという経験をしたことがない。
みちるも実はほとんどない。レイは家族みたいなもので、みちるが家に友達を連れて帰るなんてレイ以外にはいなかったから、ある意味こういうママの姿を見るというのは、不思議と慣れていないのだ。
ひとしきり、みんなが幸せそうに梨を頬張る姿を見届けて、ママは満足そうに部屋を後にした。
「みんな、ゆっくりして行って」
レイがママを追いかけて部屋を出る。みちるも部屋を出たけれど、追いかけずに縁側に出て秋空を見上げた。
「いやはや、みちるさんは知らなかったみたいね」
「知らなかったわよ。レイってば、あんなに嬉しそうな顔しちゃって」
「嫉妬?」
「………親にそんなことしてどうするのよ。びっくりしたのは確かだけど、ママはレイのことをいつも気にかけているもの」
縁側から見える高い杉の木に、フォボスとディモスがいる。
「ふーん。でも、みちるさんのママってレイちゃんのことを我が子みたいに思ってるんだね」
「当たり前でしょう?」
「そういうもの?」
「レイに聞いたら?私から何かを言うのは、どうかしら」
レイはママの最愛の幼馴染の娘だもの。葉月ママとママが2人でひとつだったように、レイとみちるも互いがいないと、まっすぐ歩むことが困難になってしまう。ママがレイを深く愛しているのは、葉月ママが生きていたという大切な証だから。ママの一番はいつでも葉月ママだった。
「ん~……別にいいや。レイちゃんの嬉しそうな顔を見ているのは好きだから」
「あら、うちのママのおかげかしら?」
柱にもたれかかりながら美奈子はカラカラ笑って、みちるに向かって指を指した。
「レイちゃん、みちるさんといるときだって、凄く嬉しそうじゃない。バレる前と全然表情が違うんだもの、腹立たしいくらいに」
そうだったかしら、とみちるは思った。確かに、みんながいるときはむしろ出来る限り避けていたのだから、表情がどうなんてじっくり観察していなかった。2人きりになる時はいつものレイだし、オンとオフをお互いにうまく使い分けていたはずだ。
でも、確かにそれがなくなって、肩の荷は下りた。
正々堂々と正面を切って、レイが大事だと胸を張れるのだから。



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Date:2014/09/28
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