【緋彩の瞳】 藍色の川は深く美しい ③

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

藍色の川は深く美しい ③

「レイ、お夕食はどうするの?お友達とどこかに食べに行ったりするの?」
レイは深美ママと一緒に台所に入った。梨を剥いた残骸の皮を捨てて、まな板と包丁を洗う後ろ姿はママみたい。この姿を見たかったから付いてきたのだ。
「みんなは帰ると思う。冷蔵庫に何かあるんじゃないかしら?」
「ちゃんと食べているの?お手伝いさんに作らせてばかりじゃないでしょうね?」
お手伝いさんが作って、冷蔵庫に入れておいてくれることも結構多い。夏場はこれでもかと言うくらい、そうめんがお中元で届けられて、流しそうめんパーティを2回もした。
「……一応、お味噌汁くらいは作るわよ」
「もぅ。おじさまにあれほどきつく、レイの栄養管理をちゃんとしてと言ってるのに」
おじいちゃんはレイがちょっと体調を崩すと、“深美に怒られる”と口癖のように言っている。レイは体調を崩すと、みちるに心配されるっていつもげんなりする。
「お豆腐と…白ネギと……ひき肉に。あぁ、大丈夫そう。お夕食、作っておいてあげるから、おじさまと食べなさい」
「本当?嬉しい、ありがとう。3人分ね、3人分。1人だけ残る子がいるから」
美奈に食べさせてあげたい。冷蔵庫の中を見ながら、深美ママは“はいはい”って食材を一つ一つ取り出している。
台所に立つママの背中というのは、あまり記憶にない。深美ママはこの神社の、この家のことをよく知っている。若い頃に入り浸っていたらしいから。深美ママにとってもこの場所は、帰る場所の一つだと言ってくれている。
「レイ、ここにいないでみちるたちのところに戻りなさいな」
「……はぁい」
トントンっていう音を聞きたい気もする。でも、出来てからのお楽しみっていうのも素敵。みちるの実家に行けば、聞かせてもらえるし。
「おじさまって、辛いの平気?」
「何でも食べるんじゃない?深美ママの手作りなんて、泣いて喜ぶわよ」
「それもそうね」
ワクワクする。もちろん、本当は深美ママと一緒にご飯を食べたいけれど、こうやって作っておいてもらえるっていうのも、たまには悪くない。


「ごきげんね」
「そう?」
「ママ、キッチンで何してるの?」
「夕食作ってくれてる」
「……まさか、全員に食べさせるつもり?」
「まさか。作り置きしてくれるっていうから」
それはいつも自分の役目なのに、ってみちるは心の中で思った。美奈子たちがお菓子に感動しながら、発売されたばかりのレジャー雑誌を広げて、休みの日にどこへ行こうと話しをしているのを通り越して、寝室の部屋へと入っていく。みちるはそれを追いかけて一緒に中に入った。
「着替えるだけよ」
「わかってるわよ」
制服を脱ぐのを当然のように渡してくるから、ハンガーにかけて行く。
「レイ、明日から私も通行手形なしで神社に出入りするわよ」
「……え~~」
「え~って何よ?」
下着姿のレイに向かって、シャツとデニムを投げよこすと、頬一杯に溜めた空気を見せつけてくる。
「……だって、美奈が来ていることだって…あるでしょ…」
不満の顔に見える照れは、美奈子とイチャイチャしているときに急に入ってこられたくないという訳し方をしろ、ということらしい。みちるは別に覗きの趣味はない。
「邪魔しに来るわけじゃないわよ。ママはいいわけ?」
「……わかったわよ、はいはい」
めんどくさそうな返事。赤いシャツに腕を通させて、ボタンを留めてやる。執事じゃあるまいし、なんて思いながらもレイからやってくれなんて言われていない。
仲間の作る輪の中に戻るレイの後ろを、レイが脱いだシャツと靴下を手にしたみちるはそのまま洗濯機のある脱衣所へと向かう。カゴに溜まっているタオルやレイの服を一緒に洗濯機に放り込み、馴れた手つきでボタンを押す。
「……私、何してるのかしら」
ママは台所で夕食を作り、みちるは洗濯機を回し。
親子揃って、レイの世話を焼いて喜んでいるなんて。洗濯機のボタンを押した以上、当然自分が干すべきだろう。みんなとゆっくりおしゃべりしに来たはずなのに。
DNAだわ、と思った。レイは別に家事ができない子でも、だらしのない子でもない。1人で服を着られないわけでもないし、部屋もきれいに整理整頓されている。気にかけることと言えば食事くらいで、それも料理をしないわけでも、食べないわけでもなく、おじいちゃんと2人、あるいは1人で食べる環境を勝手にみちるが心配しているだけだ。
最新式の洗濯機。
数か月前に買い替えたものだ。機械音痴のレイが新しい洗濯機が欲しいんだけど、と電話してきてすぐに、みちるはママに電話をした。次の日にはもう、最新式ドラム型のものを設置しに業者が来たらしい。乾燥までできるけれど、レイは信用できないらしく、いつも結局は干すことにしているとか。みちるがやっても干すように言われている。おじいちゃんも信用していないらしい。こういうの、宝の持ち腐れって言うのに。
とりあえず30分後に戻らないと、って思いながら部屋に戻ると楽しそうに仲間たちと予定を立てるレイの笑みが飛び込んできた。
「何してたんだ、みちる」
「別に」
みんな無邪気な瞳で、行きたい場所の候補にドッグイヤーを作っていく。きっと、週末ごとに秋の行楽地に出かけるのだろう。みちるは演奏会の仕事で予定が詰まっているから、たぶん参加はできない。レイは別にみちるの演奏会を優先させたりもしないだろう。しなくてもいい。
「はるか、車出してあげなさいな」
「いや、この人数を詰め込むの?」
「せつなの車もあるから、ほたるも連れて」
「構わないけど」
ワイワイ楽しく計画を立て、早速、美奈子の提案で週末は車で1時間くらいの場所にある行楽地に行くことになった。その日、みちるは朝から演奏会だけど、あえて口には出さないでいた。


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Date:2014/09/29
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