【緋彩の瞳】 藍色の川は深く美しい END

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

藍色の川は深く美しい END

「みちるはお手伝いさんなの?」
食べる直前に温めるように料理を終えてレイの部屋に行こうとすると、裏庭の奥でみちるが洗濯物を干していた。
「乾燥機能を信じられないから、あの子はいつも干すのよ」
「それで、なんでみちるが干すの?」
「仕方ないじゃない。無意識に洗濯物を入れて、ボタン押しちゃったんだもの……」
慣れた手つきでおじさまの足袋を洗濯バサミで挟む姿は、ここに住んでいるのかと言いたくなってしまう。葉月と自分の間では、さすがにこんなことをお互いにやったりしなかった。葉月の性格だと、余計なお世話だと嫌がるだろう。レイがみちるをこき使っているというより、みちるが勝手にしたくてやっているようにも見える。
「御苦労なことね」
「別に、苦労だと思ったことはないわ」
「それもそうね」
空っぽのカゴを抱いているみちるの背後、杉の木にカラスちゃん達がとまってこちらを見つめている。
「カラスちゃんだわ」
指を指すと、みちるも振り返って杉の木を見上げた。
「あぁ。今日は平和な1日だから、あの子たちも見ていて楽しいんじゃない?」
「みちるも気づいていた?あのカラスちゃん達、葉月と私が高校生くらいの頃から、ずっといるのよ」
みちるは驚いた顔を見せて、もう一度そのカラスちゃんたちを見上げた。
「私が物心ついた頃からいたことは気づいていたわよ。でも、そんなに?レイが生まれるずっと前からなの?」
「そうよ。なんていうか、葉月のことを見守っていたみたいね。葉月も守り神だって言っていたわ」
「………レイが生まれるのを、ずっと待っていたのね」
葉月の守り神はレイを待っていたのだろうか。深美はみちるがどうしてそう言い切るのかが不思議だったけれど、でも、そうかもしれない、と思った。ここに引き取られたレイは、カラスちゃん達にいつも話しかけて遊んでいるように見えた。他のカラスとは何かが違う。葉月を守っていた頃よりも、もっとレイの方がカラスちゃんたちと近いのだ。
「みちる、ママは帰るわ。今日は夜に挨拶に行かなきゃいけないところがあるのよ」
「そう。週末は?観に来るの?」
サンダルを脱いで縁側に入ったみちるの、公立高校の制服のリボンをそっと撫でる。どこで何をしてもみちるの自由だと思っているが、みちるが公立高校に転校すると聞かされたときには、正直がっかりした。TAに在籍していたことがあるから、戻れないわけじゃなかったのに。レイの傍の方が親としては安心できたけれど、ルームシェアをしている友達との都合で、そうしたかったんだとか。どうしてそんなことをする必要があるのか、マンションで1人暮らしを続けるよりはマシだと思っていたけれど、みちるは何も言いたがらない。レイに聞いても、みちるは楽しく暮らしていると言う。どうせならレイと暮らせばいいのにって今でも思っている。
レイとみちるがいつまでも寄り添って子供のままでいて欲しいと願うのは、親の我儘なのだろう。
「なるべく行くようにするわ。レイは来ないの?」
「お友達とどこかへ遊びに行くらしいわよ」
「そう。みちるもレイも、とてもいいお友達をたくさん持ったのね」
「本当に素敵な仲間よ」
レイの部屋からじゃれ合う声が聞こえてくる。無邪気な笑い声が絶えない。
人見知りが激しく、クラスメイトとほとんど口を聞かなかった子なのに。
「レイも言っておいてくれたら、手作りのお菓子でもてなしたのに」
持ってきた有名なお菓子メーカーのそれとは比べようもないくらい、おいしいものを作る自信はある。葉月に褒められて、散々いろんなものを作って来たのだから。
「勝手に来たのはママじゃない」
「あら、それもそうだったわね」
洗濯カゴを押しつけてきて、みちるはレイの部屋へと戻って行った。深美は笑い声を遮ることも悪いと思い、静かに神社を出ることにした。



「お見送りしてくれるの?」
駐車場へ向かうと、車の屋根にカラスちゃんたちがいた。じっとこっちを見つめて、深美が近づいても逃げる様子もない。
「あなたたちは、一体何年生きているの?」
カラスの寿命って何年かしらと思いながら、きっとそんなことを超えた何かをこのカラスちゃんたちは持っているのだろうという気持ちになってしまう。
「レイとみちるをよろしく頼むわよ」
何だか頷いたような仕草を見せて、カラスちゃん達は出口へと向かって飛んだ。




陽が傾いて薄暗闇になり始めた頃、お開きとなって仲間たちと玄関を出た。美奈子は居残りらしい。きっとママの作ったごはんを一緒に食べるのだろう。
「みちる」
ゾロゾロと歩き始める最後尾を歩こうとすると、レイに腕を掴まれた。
「何?」
「余ったから。ほたるとせつなさんに」
ママが大量に持ち込んだ梨とお菓子。紙袋に包んでみちるに渡してくれた。
「おじいちゃんは?」
「大丈夫、ちゃんと残してる」
「そう。あぁ、洗濯ものを干しているから、明日の朝、ちゃんと取りこむのよ」
「わかったわ。ありがと」
レイの後ろで耳をダンボにさせている美奈子が、“そんなことまでしているの?!”と態度で表現しているのが見える。
「じゃぁね」
「うん。あ……」
手を振ろうとすると、レイが空を見上げた。薄暗い空にフォボスとディモスが飛んでいる。
「帰って来たわね」
「あら、どこかへ行っていたの?」
「ちょっとみちるの実家まで。何も言わずに帰っちゃうんだもん。2人とも心配で深美ママを送ってくれたのよ」
なんてVIP待遇なのかしら。2人が揃ってレイの傍を離れるなんて、よほどのことがない限りしないのに。
「何、不貞腐れてんの?」
「……別に」
「2人が行きたいって言ったんだからいいじゃない」
ママは、フォボスとディモスはレイが生まれる前からいると言っていた。だからみちるよりもママとの付き合いの方が長いのかもしれない。みちるの方がレイと一緒にいる時間は長いのに。
「……何よ」
唇を尖らせないように気をつけながら、みちるは今度こそ背中を向けた。フォボスとディモスが鳥居へと降りたって見送ってくれるみたいだ。付いてくるつもりはなさそう。レイと美奈子の気配も消えて、はるかたちと並んで坂を下った。

通い慣れた坂道。
秋の匂いを感じる坂道。
今度は本当に、通行手形なしで突撃訪問をしようと決めた。




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Date:2014/09/30
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