【緋彩の瞳】 指を絡めて ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

指を絡めて ①

「純~~!」
十番高校の制服の女の子が、パティオの前に走ってやってきた。さっきまでレイをじろじろ見ていた元麻布高の男の子が、その子の声の方へと視線を逃がす。
「遅いぞ、こら」
ナンパでもしてくるように見られていた視線から、ようやく解放された。レイは10分以上前から待っているが、レイより後に来た彼の方に待ち人が現れるなんて。
いつものことだけど。
「ごめん、学校出るのが遅れちゃったの。コーヒーおごるから許して」
立ち上がった彼の手を握り、自然と寄り添う彼女。
当たり前のように交わされる眼差しと近づく唇。
レイがすぐ近くにいるなんていうことは、どうでもいいらしく、挨拶のように白昼堂々と交わされたキス。
そんなことまでするとは思わなかった。
見るつもりはなかったけれど、見せつけられて眉をひそめてしまう。
こういうのをバカップルっていうのかしら、なんて考えてみる。
「行こう。ねぇ、おいしいパンケーキのお店が出来たんだって」
「甘いものか~。俺は一口でいいんだけどな」
彼の腕に抱きついた、茶色く染められた髪がふんわりと揺れる。
カップルの背中を見送っていると、その向こう側から全力疾走している赤いリボンが見えた。


今日は15分の遅刻


「ふぅ~~~。走った」
両膝に手をやって肩で呼吸をして見せ、頑張ったアピールをする美奈は、許しを乞うようにヘラヘラしている。レイはわざとらしく腕時計を見た。
「遅いわよ、こら」
さっきの人と同じセリフを言ってみる。でもこのセリフ、過去に何度も言った。付き合い始めた頃に毎回いい続け、面倒になって遅刻を責めると言うことを諦めて、待つということを受け入れているこの頃。
「いやいや、15分だから」
全力疾走したところで、本当は全然疲れないくせに。さっきの演技をもう忘れているのか、とても落ち着いた美奈の呼吸。ふんぞり返って言いたいことは、ごめんじゃないらしい。
「…………馬鹿」
いつも遅刻された上に奢っているのはレイだけど、嘘でもしおらしく、さっきの女の子みたいに言えないものかしら。
「レイちゃん、パンケーキ奢って!クラウンで限定メニューができたって」
美奈はレイの腕を掴んで立たせると、問答無用で引っ張るように歩き始めた。連行されて向かうクラウンは、嫌というほど通い詰め、そして2人きりの時間を過ごせない場所。
「あ、うさぎ~」
「美奈P~、レイちゃん~」
十番高校組も、今来たばかりと言った雰囲気。きっと本当は美奈もみんなとのんびり歩いて来て、レイとの待ち合わせ場所直前でダッシュしたのだろう。だったらここで待ち合わせをすればいいのに。クラウンに行くかもという想像はしていたけれど、美奈に待ち合わせをしようと言われると、何かを期待して二つ返事をしてしまう。
期待している何かを具体的に想像なんてできないのに。

いつものこと
よそのカップルの待ち合わせと比べたって
仕方ない


「……どうしたの?」
アイスコーヒーにさしたストローをなんとなくグルグル回していると、隣の亜美ちゃんがレイの目の前で手を振って来た。
「ん?」
「元気ないみたい」
「そう?別になにも?」
「……なら、いいんだけど」
季節限定と通常メニューの3種類のパンケーキを美奈とまこちゃん、うさぎで注文して分け合っている。綺麗に切れなかったうさぎに文句を言う美奈の声を聞きながら、2人きりでデートしたのはいつが最後だったかを思い出してみる。

家で2人になることは頻繁にあるけれど、待ち合わせをして、2人でデートをしたということを思い出せなかった。

最後は……どれくらい前までさかのぼらなければならないのだろう。

「亜美ちゃん」
「なぁに?」
「週末、まこちゃんと予定ある?」
「え?……あるけれど、どうしたの?」
「どこかへ行くの?」
亜美ちゃんはどうしてそんなことを聞くの?と言いたそうに首をかしげる。レイは普通に女の子同士の会話をしているというような笑みを見せてみた。
「横浜に行こうかしらって話をしているの。中華街に珍しい食材が売っているのを見たいってまこちゃんが」
「そうなの」
2人で電車を乗り継いで横浜まで行って、ランチを食べて、それからブラブラと散策をして、夜に帰ってきて、一緒にご飯を作って食べる、という計画のよう。
「よかったら、レイちゃんも一緒に行く?」
「そんなまさか。どうしてデートの邪魔をしなきゃいけないのよ」
楽しそうに見つめ合う2人を想像しながら、レイは小さく首を振った。2人もレイたちと付き合っている年数はそんなに変わらないけれど、いつまでも初々しい様子が見える。

たまには外で会って、のんびりするのも悪くないかもって思いながらも、まず遅刻されるというところから始まるんだった、と思い直す。
無理なことなのね、とテーブルの向こう側で口いっぱいにパンケーキを幸せそうに頬張る美奈を見ながら、ため息を漏らした。



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Date:2014/10/02
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