【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ③
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緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ③

「美奈子ちゃんが警視庁の総監からもらった情報で、まだ極秘らしいんだけど。新宿のある場所で洋服や靴、鞄といったものが不自然に放置されているという事件があったの」
亜美ちゃんはパソコンで極秘と書かれている写真をクリックして、レイに見せてくれた。
「………まるで、着ていた人間の本体だけが抜け落ちたみたいね」
バラバラに散らばって放置されていたのではなく、それらを身に着けていた人間だけが抜け出たような不自然なもの。
「これは砂のようなサラサラした物体で、鑑定したら人間の骨とたんぱく質の成分にとてもよく似ているみたい。人間が砂にされたのではないか、と。そう言う怪奇現象が起こって、総監から美奈子ちゃんに、新手の敵じゃないかって連絡が来たらしいの」
亜美ちゃんは、その警視庁と美奈の会話を偶然聞いていて、嫌な予感がして勝手に警視庁から資料をハッキングして集めたらしい。だからまだ、正式に美奈から何か相談を受けたわけではない、とレイに念を押してくれた。
「………この服、見覚えがあるわ」
「前に言っていた女性と同じ?」
「えぇ……。エルメスのバッグと、この手袋」
レイは画面を指差した。はっきりと記憶にあるものが映し出されている。そして写真から感じ取るのは“死”だ。普通の死に方ではない。肉体が砂にされている。
言いようもない苦しさを覚えるのは、”助けて“と懇願するあの声が耳にこびり付いているからなのだろうか。
「鞄の中に入っていた免許証で、どこの誰なのかはわかっているみたい」
「……あんまり、知りたいと思わないわ」
「そう。この現象、やっぱり呪いなのかしら。人体がサラサラとした物体になるようなことは、通常では考えられないわ。でも、地球外からの敵や生命体といったものもまったく確認できないの」
呪いで人をこんな風にさせることなんてできるだろうか。生きている人間がかけた呪いなのだろうか。たとえば何か邪悪なものが関わっているのなら、レイの第六感が反応したはずだ。
何も感じとることが出来なかった。
でも、こんな風になったのに、その直前に会っていたレイが何も感じないなんておかしい。
死相は、病死だろうと事故死だろうと見えることはできる。だが、こんな怪奇現象が起こるなら、それなりに何か感じるはずだ。
「亜美ちゃん、その女の人の職業は?」
「……風俗嬢」
「あぁ……そう言うようなことを、それとなく言っていたわ」
何も感じないのなら、何かレイのような特別な力の作用でもあるのかと思ったが、そう言う様子もなさそうだった。
「死亡推定時刻は御遺体からはわからないみたいだけど、携帯電話のメール履歴や着信などでは、9月9日深夜から早朝あたりだそうよ」
「そう……」
「着信関係は全て仕事に関することよ。変な占い師という人との接点もわからないわ」
「そう」
死んだ人を今更生き返らせることもできない。あの時のあの対応は正しかったのだろうかと考えても、じゃぁ、こうなるとわかっていて、何ができたのだろうかと思う。何もなす術はなかった。
「その、自称占い師の存在が気になるのよね。その呪いはどこから来たのか、絶つ術は本当にひとつなのか。そして、誰が何を目的にそんな呪いを生み出したのか」
「………亜美ちゃん、今は静観しましょう。私たちが直接被害にあったわけでもないし、占い師がそう言ったというのも、確証が取れないのよ」
これは戦士としての使命ではない。うさぎが狙われるようなものでもないだろう。美奈が不用意に何かをして、得体の知れないものが仲間に近づくようなことも避けるべきだ。
「レイちゃんがそう言うのなら」
「……いいと言うまで、誰にも言わないで」
「えぇ」
亜美ちゃんはデータを消去して、パソコンを切った。何事もなかったかのようにまたパーラーに戻って、やり過ごせるだろうか。美奈のあの強い眼差しから逃げることはできるだろうか。


レイちゃんは20分ほどしてから亜美ちゃんと戻ってきた。2人は明らかにさっきと違っていて、それをわざとらしくごまかそうとしているのが、ありありと見て取れた。みちるさんがいるときはどちらが先に来ていても、いつもお互いに横に座るようにしているのに、亜美ちゃんをその定位置に座らせて髪を掻きあげ一つに束ねる。残暑厳しいと言っても、そこまで暑いわけじゃないのに、うっすら額に汗を掻いている。2人は間違いなく指令室に行ったはずだ。出入りの履歴なんて美奈子にはすぐに調べられる。
「レイ」
「……ん?」
「どうしたの?」
「何でもない」
「欲しいものはもらえたの?」
「えぇ。天才少女からもらったわ」
鞄の膨らみが変わっていなくても何事もなかったように、メニューを手にする。
みちるさんの問いかけにわざとらしく笑みを見せて。
レイちゃんはここに来てメニューを吟味したことなんてない。いつも紅茶かコーヒーだ。
「さっき紅茶だったし……アイスコーヒーでも飲もうかしら」
「あ、じゃぁ私もそうするわ」
レイちゃんと亜美ちゃんは同じものを頼み、おいしそうにパフェを頬張るうさぎを見つめた。
「あいかわらず、そんなものをこんな時間に食べて」
「いいじゃん。あげないもんね~」
「はいはい」
それでも、レイちゃんはいつもうさぎちゃんが最後に残しているウエハースを勝手に食べてしまうし、それはもう見慣れた風景。だけど今日のレイちゃんは、そんなものに目もくれずに、うさぎの背後にある窓の外の景色を眺めるようにして、誰とも視線を合わせようとはしなかった。



満ちた月が欠けて行く


寝付けないレイはけだるい身体を一度起こして、左手を何度も握っては開き、動くことを確かめた。
声に出して痛いと言うほどでもないが、何か言いようもないものを感じる。重いのか鈍いのか辛いのか。身体は睡眠を求めていても、頭が冴えてしまっている。縁側に出て廊下に腰を下ろす。月明かりは目に刺すように眩しいとさえ思った。

満月ではないのに。

亜美ちゃんに見せられたあの写真、一度会ったことのある人がこんなにもあっけなく死を迎えるといことは、やはり手を打つことはできなかったのかと、残念な気持ちが芽生えてくる。できることなんて何もなかったのは、今でもそう思っている。あんな風に砂になって消えてしまったあの人は、レイを恨んでいるだろうか。
助けてあげられなかった。手を差し伸べることが出来なかったことを。
あの死相は呪いがそうさせたのか、それとも寿命だったのか。初めはわからなかったが、あの写真を見てしまえば、あれはやはり何かしら呪いの類いと考えるのが自然なのだろう。人間の死にかたではない。死んでから何かをされてあんな風になったとも思えない。
「……純潔の呪い」
あの人が純潔を捧げた人は、どこの誰なのだろう。探しようのない人だったのだろうか。思い出したくもない人なのだろうか。会いたくても会えない人なのだろうか。
それとも、名前すら知らない人なのだろうか。愛しいと思った人なのだろうか。
風俗嬢がどんなことをしているかくらい、子供のレイでも知っている。レイとは無縁のことだし、関わることも一生ない世界だ。あの人が呪いをかけられたのは、その職業と関係があるのだろうか。あの呪いはもっとほかの人にもかけられていたりしないだろうか。呪いを受け継ぐ可能性はあるのだろうか。この左手、とりわけ薬指の付け根あたりに感じる違和感は、ただの被害妄想で済めばいい。
眠くなるまでは夜風に当たっていようと思ったけれど、欠け行く月が死に追いやられたあの人への罪悪感を思い出させ、ひっそりと静かな部屋に戻り、布団を頭まで深く被った。




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Date:2014/11/02
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