【緋彩の瞳】 彼女を殺すのは私しかいない ④ R18

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

彼女を殺すのは私しかいない ④ R18


海王みちると出会ったのは冬だ。無限学園がまだ出来上がっていない、建設中の頃だったと思う。イタリア留学から帰国したばかりの彼女が、小さなホールでコンサートを行うというポスターを偶然街で見かけたのだ。
その姿を見て、眠らせていた遠い遠い過去を呼び起こしたのだ。前世の、月の王国で過ごした偽りの自分ではなく、唯一全てを知っている深海の戦士。
何もかもをさらけ出し、彼女に縋りつき、彼女に愛され、彼女を愛した。
まさか、彼女まで転生しているなんて。驚きよりも心が安らぐ気持ちがあったことは確かだ。今思えば、彼女自身が前世を思い出していない可能性も当然あるだろうに、その時のレイはそこまでの考えに至ることなく、みちるに会いに行った。会わなければならなかった。

『私よ、ネプチューン……覚えてるでしょう?』
戦士として覚醒したのは、この少し後だった。みちるは見知らぬ有名私立学校の制服を着た少女が、意味のわからないことを言ってきて、面食らった顔をしていた。日本には変なファンもいるものね、と思ったらしい。初対面だと言われた時も、不思議とショックだと思わなかった。いずれ、すぐに彼女から連絡が来るだろう。そういう自信があった。
そしてそれは、1週間とたたずに訪れたのだった。


いつもと変わらない。レイちゃんは巫女さんの姿で、境内を何やらウロウロしていた。平日の神社は人もほとんどおらず、やるべきことを終えたらすぐに自室に戻ってくる。
「あんた、こんなところで油売るくらいなら、どこかで誰かとデートでもしたら?」
「うーん。まぁ、恋愛とかは今はいいかな?」
やるべきことをやったのか、レイちゃんはあっという間に私服に着替えてきてしまった。もう少し巫女さんを見ていたかったけれど、ミニスカート姿はまたこれはこれで、かわいい。
「受験生だから?」
「それもあるけれど、目の前の敵のことで頭いっぱい」
受験生でも戦いのど真ん中にいても、いつでもたぶん、美奈子はレイちゃんばかりを気にするだろう。そして、どうして彼女でなければならないのかと自問自答を繰り返すのだ。たとえば前世がなかったとしたら、こんな風にレイちゃんのことを恋する瞳で見つめたりしただろうか。
唇の感触も身体の温度も、この美奈子の身体では何一つわからないというのに。
それでも、理由を考えるよりも好きであることは間違いない。
前世を知らないのであれば、純粋な好きという気持ちをぶつけてしまおうか。
その想いが声にならないのは、やはり前世の彼女のあの姿があるからなのだけど。
今、目の前にいるレイちゃんには何一つ関係がない、そう言い切るには何かが足りない。
「そんなことを言っていたら、貴重な10代が過ぎ去るわよ?まぁ、高校に落ちた方が目も当てられないけれど」
長い髪を一つに束ねて、少しじんわりとする暑さを嫌うように、手で風を送る姿。
うなじに小さな赤い何かが見えた。
「じゃぁ、……レイちゃんはいるの?」
目に入って来た情報が、まさかという気持ちを自分の心にとどめるよりも早く言葉に出てしまう。
「何が?」
「貴重な10代を過ごす相手」
「あんまりそういうのに興味ないわよ」

痛い
胸が痛い

呼吸を繰り返して、レイちゃんの匂いが肺に入るたびに、レイちゃんが嘘をついている気がしてならないと、もう一人の美奈子が声に出そうとしている。
「したらいいんじゃない、恋愛くらい」
「余計なお世話よ」
レイちゃんは笑っているけれど、その笑顔は見慣れたものだ。何かと秘密主義者なところもあるけれど、その笑みは”これ以上この話をするな“ということを言いたげだった。こんな笑みは嫌なくらい、あの頃のマーズと似ている。



何か、別の話題を振ろうと考えているところに通信機のけたたましい音が鳴った。美奈とレイの両方ともが鳴り、敵が現れたとルナの声がどちらからも聞こえてくる。
「無限学園の方なのね?」
レイの携帯電話もまた、マナーモードのままスカートのポケットの中で振動している。

みちる。

「すぐに行くわ」
神社を飛び出した2人は変身しながら坂を下り、ビルの合間を抜けて飛んだ。少し距離のある敵地の上空は薄闇の中、紫色の邪悪な空気に満たされている。3つのマンションが囲む無限学園のビル。みちるが電話をかけてきたのはなぜだろう。彼女とは一緒に戦うことをできうる限り避けようという意見が一致している。何かレイに伝えなければならないことが起こったのは間違いないだろう。彼女のマンションは、無限学園の目と鼻の先だ。
胸騒ぎがした。この身体が本来の力を十分に出し切れる性能を持っていないことはわかっている。あの頃の力を持っていれば、今戦っている奴らたちを灰にすることは、さほど難しいことではないだろう。それができずにいるのは、その力を真の使命のために取っておくためだ。
この胸騒ぎは、その時が近づいているということを予感させるものだ。
「マーズ、あそこ!」
無限学園に近づくと、不完全なダイモーンたちがドーム状に建物を覆い尽くしていた。
「中に入れないの?」
みちるはどこにいるのだろう。辺りを見渡して、見つけたのはマーキュリーとジュピターだけだ。
「うさぎちゃんが……」
マーキュリーの言葉に1人いないうさぎが、胸騒ぎの理由だと知った。レイは胸を握りつぶされそうなほど、身体に襲いかかる妖気の壁を見上げる。うさぎを助け出さなければ、銀水晶を簡単に敵に奪われてしまえば、何一つ報われなくなってしまう。
「中に入るわ」
「どうやって?」
「考える。どこかに霊的に虚弱な場所があるかもしれない」
みちるは中にいるだろうか。もし中にいてくれたら、銀水晶だけでも守ってくれるだろう。
ヴィーナスが勝手に後ろを付いてくることも構わず、マーズはバリアーの周りをゆっくりと歩き始めた。必ずどこかに欠点がある。下手に技を放つと、全力で襲いかかってくるだろう。

襲いかかって……

マーズはジュピターにできる限り遠い場所から一点を狙い、バリアーを攻撃させるように指示した。案の定、電撃を受けたダイモーンたちは瞬時にジュピターを襲いにかかり、その反対側の壁がいとも簡単に手薄になり始める。
その一瞬にお札を使い周囲だけの動きを止めたマーズは、うまく中に潜り込むことができた。
「……ヴィーナス」
自分だけしか入れないように、最小限のお札だけで動きを封じたはずなのに、付いてきてほしくないヴィーナスが間一髪で割り込んでくる。来るなと言えないのは、今、心のどこかでプリンセスを殺してしまおうと考えているからなのだろう。
「うさぎちゃんがどこにいるかわかる?」
「わからないわ」
「あの二人は?ネプチューンとウラヌスの姿は外になかったけれど、中にいるんじゃない?」
「それもわからないわ。いる可能性はあるかもしれないけれど」
エントランスは、外のグロテスクなダイモーンの襲来もなくとても静かなものだった。
いたって普通の時間が流れているように感じさせる。
「マーズ、二手に分かれましょう。私は上から1フロアずつ確認しながら降りて行くわ」
「私は地下に行くわ」
「何かあったら、すぐに連絡して」
「えぇ」
「気をつけて、マーズ」
ヴィーナスは実験室が地下にあることをまだ知らないのだろう。敵は地下であらゆる実験を行っている。だからうさぎがいるとするならば、地下である可能性が高い。
ヴィーナスはエレベーターに乗り姿を消した。マーズは携帯電話を鳴らしてみた。切られている。階段を駆け下りて、関係者立ち入り禁止の札の掛かった扉を開けた。
妖気に満ち溢れたそこに、一筋の光が見えるのは、そこに聖者がいるからなのか。
うさぎは簡単に見つかった。
まるで殺されるのを望むように、デス・バスターズのやつらに取り囲まれて横たわっている。
教会のヴァージンロードのように、この先へ続く道の両サイドはダイモーンが祝福するかのように並んでいた。
銀水晶が相手の手に渡ることも時間の問題。




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Date:2013/11/12
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