【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑤

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑤

「隠し事は全て吐き出しなさい」
美奈子ちゃんは厳しい口調のまま、突っ伏しているレイちゃんの制服の襟もとを掴んで起き上がらせた。
「美奈子ちゃん、かわいそうだわ」
「……亜美ちゃん、いいわ」
乱暴に起こされたレイちゃんは抗議する亜美を制して、それから美奈子ちゃんの手を払って乱れた胸のリボンを整えた。
「美奈には話してもいい。だけど、条件があるわ」
「3人だけの秘密にしろっていうことでしょう?」
「条件を飲めないと言うのなら、殴られても構わない」
美奈子ちゃんは亜美を一瞥してから、小さく頷いた。
「わかった。約束するわ」
レイちゃんは亜美を見つめて、それからさっきまで美奈子ちゃんが映し出していた写真をもう一度画面に出してと視線で訴えた。そして“ごめん”と。
「………私は、1人目の犠牲になった人と、死ぬ少し前に会ったの」
「なんですって?」
映し出された遺体の写真。そして生きていた頃の写真も映し出された。
「助けてと言われた。呪いにかかっているって。お祓いをしてと。でも、何もできなかった。何も感じなかったの。助ける方法がわからないと答えたら、その人は神社から姿を消したわ。そして、……その姿になったの」
美奈子ちゃんはレイちゃんの横に腰を下ろして、足を組んだ。じっとレイちゃんを睨みつけたままだ。
「それで、亜美ちゃんだけに?」
「最初は、亜美ちゃんなら何か知っているかもしれないと思ったの。でも、他に犠牲者が出ているなんて言うのは、今日初めて知ったわ」
「あぁ、そう……。亜美ちゃんは、私と警視総監とのやり取りを盗み聞きしたわけね」
「いつも丸聞こえだから」
美奈子ちゃんは深くため息を吐き出して、無機質な天井を見上げた。別に自分の失態について何か思っているというわけではないのだろう。
「………それで?別にそれだけなら隠す必要はある?」
「もう戦いは終わったし、私たち月の王国の人間とは無関係のことだろうと、仲間をこんな気持ち悪い事件に巻き込む理由はないと思ったの」
「みちるさんの鏡を借りたのは?」
「呪いだと言っていたから…何か見えたりしないかしらと。解決の糸口が掴めたらと思って」
「……その話をみちるさんにして、みちるさんに探ってもらうことの方が、より正確だと思わないわけ?」
レイちゃんはその質問から逃げるように、両手で抱きしめていた鏡を見つめ、そっと撫でた。レイちゃんの好きな人が、前世から持ち続けているとても大切な鏡。みちるさんは命のように大事にしている。よほど信頼できない相手じゃないと、こんな風に預けたりはしないだろう。
「言ったでしょう?無意味に巻き込む理由がないのよ。美奈も軽率だわ。こんな事件、私にだけ言えばいいのに…みんなを巻き込んで……」
レイちゃんの言うことは、確かにそうかもしれない。みちるさんを巻き込みたくないと言う想いもあるだろうが、やはり仲間にあんな写真を見せる必要性があったのかどうかを、もっと慎重に考えてもよかったことだ。
「私だって悩んだわ。でも、次にどんな犠牲者が出るのかがわからない以上、全員が事件のことを認識している必要はあってしかるべきだと判断したのよ」
「………次の犠牲者が出るとしたら、満月が明けた朝ね」
呪いは満月の夜にかけられて、それを解くには次の満月までに……初めて抱かれた人に抱かれる。少なくともレイちゃんが会った人はそうだと言っていた。
それがどれくらい信憑性のあるものなのかもわからなければ、そう言ったと言われる謎の占い師がどこの誰なのかもわからない。そもそも、呪いを解く方法を犠牲者の全員が知っていたのだろうか。ベッドで死んでしまった人は、わかっていたことなのだろうか。
「レイ、その包帯は何のためにしているの?外したら?」
「……………怪我をしたと言ってるでしょう」
「見え透いた嘘はいいから。外せ、と言ったのよ」
レイちゃんにこんな風にきつく命令できるのは、美奈子ちゃんだけだ。レイちゃんは美奈子ちゃん以外にこんな風に言われても、嫌なら絶対に従わないだろう。たとえみちるさんでも、うさぎちゃんでも。美奈子ちゃんはいつでも正しいと、本当に思っているのだろうか。それともあの揺るぎなくレイちゃんを愛している眼差しで見つめられると、NOと言えないのだろうか。
「………美奈、罪を背負うことになるわよ?いいの?」
「私のことを、レイが心配する必要はないわ」
レイちゃんは同じ質問を投げかけるように亜美を見つめた。
「これだけは、絶対に口外しないで」
あの嫌な予感は、はらりとおちた包帯に包まれていた左手を見て、現実になった。



みちるさんの鏡に映し出したのは、2人目の犠牲者だ。レイが会った人のことを詳しく知ることが怖かった。青白い顔でふらつき歩きながら、その不調の原因さえまだわかっていない様子。そこに現れたのは、白無垢に綿帽子の女性。
「え?……花嫁さん?」
「そうみたいね。どういうことなのかは分からないけれど」
「勘違いするような姿じゃないのに」
「亜美ちゃん……この人は生きている人間じゃないわ。鏡越しだから確かじゃないけれど、何か、生きている人間という感じがしない」
鏡が映しているのはその花嫁姿の顔ではなかった。レイが写真で見た、女性が生きていた姿をトレースして、力の限り時間をさかのぼっているだけだ。顔がぼんやりとしているのは、鏡本来の力を発揮できるみちるさんではないせいだ。
「この花嫁が元凶なんじゃない?自分で呪いをかけて、そして呪いを解いてみろと言って、嘲笑うような幽霊」
美奈も鏡を見ながら、その花嫁姿が人間ではなさそうだと言うことはわかっているのか、いないのか、幽霊という言葉を使っている。
「……さぁ。それはこの本人に会って話を聞かなければね。亜美ちゃん、この映し出されている場所の特定はできる?」
「えぇ」
だが、果たして必ずここに現れるというような土地柄のある霊なのだろうか。3人は同じ場所でこの花嫁の霊に出会ったのだろうか。そもそも、他の2人も会ったかどうかなんてわからない。“占い師”と名乗ったのかどうなのか。同一人物なのか。
「この駅の北側の……このあたりだわ」
亜美ちゃんは画面に衛星写真を映し出し、鏡と同じ場所と思われるところにポイントを当てた。間違いはないだろう。
「この時間からそこに行くのか……。まぁ大丈夫ね。ひとまず行ってみましょう」
美奈は腕時計と距離をだいたい頭の中で計算して、鞄を手にした。
「行ったところで、何をするの?」
「会えたらとっ捕まえて事情を聴くのよ。少なくとも、そこに気配があるかどうかくらいなら、レイちゃんだってわかるでしょう?」
「まぁ、少しくらいなら。だけど、もっとほかにやるべきことはあるんじゃない?」
鏡は明日返す約束をしている。今のうちにもっと、調べなければならないこともあるだろう。花嫁は今日しか会えないという感じはしない。
「たとえば?」
「3人の亡くなった人に共通点があるかどうか。死ななければならなかったのは無差別なのか、知り合いなのかどうか」
亜美ちゃんにお願いして、もう一度3人の生前の写真を見せてもらった。免許所の写真だろう。とても真面目そうな顔をした3人がじっとこちらを見つめてくる。静かにレイを責め立てているように思える。
「職業なら全員同じよ。お金をもらって、男の相手をする職業。1人目は2度の離婚歴があって3度中絶をしている。2人目はクスリをやってたわ。3人目は政界や芸能界の御用達」
美奈は淡々と資料を読んだ。さっきみんながいるときには言わなかった情報だ。確かに他の人たちにはいらない情報だろう。聞かせなくてよかった。
「共通点は職業だけなの?」
「あと、親や兄弟とは疎遠で、全員地方から出てきているわね。出身はバラバラ。血液型も誕生日も共通点はないわ。まぁ、お相手の殿方なら同じ人と、なんていうこともあるかもしれないでしょうけれど。そうなったとしても、調べようもないことね。必要ならば3人の持っていた携帯電話の履歴をすべて当たるわよ。働いていたお店もバラバラ、働き始めた時期もバラバラ」
レイは美奈の話を聞きながら、3人目の生前の写真をしっかりと見据え、この人が生きていた本当の最期を映し出せるかどうかを試みた。鏡は柔らかい光を放ち、ホテルの部屋のあの遺体の場面を再現させた。
「もっと……何か原因…」
砂になった遺体を、その映像を巻き戻せないだろうか。だが、その想像がレイにできないせいなのか、再現できそうにない。
「大丈夫?」
亜美ちゃんはレイの赤く汚れた左手をそっと両手で握り締めた。鏡を握りしめるその手はじんわり汗を掻いている。
「触らない方がいいわ。どういう経緯で私にこんなのが出来たのか、わからないんだから」
「今は、死んでしまった人のことより、レイちゃんのこの手のことを調べるべきだわ」
美奈は資料を読み返しながら、そしてそれらをテーブルに放った。
「そうね。レイちゃんとこの3人の共通点なんてないわ。亡くなった3人に共通していることがある、というのは偶然の一致だということだってある。レイちゃんのそれが、これらの事件と関連しているのかどうか。そのことを重点的に調べて行くには、やっぱりこの花嫁さんに会わなきゃダメ、ということよ。レイちゃん自身の記憶をたどっても、心あたりは死んだ女性と会った以外は何もないのでしょう?」
人から人に感染する呪いなんて、あり得ない。あり得るはずがない。何かレイが心の隙を見せたのだろうか。乗り移ったのなら、彼女は死なずに済んだだろう。だからこれは、同じ呪いを受けたと考えてもいい。
呪いを受けるとしたら、満月の日だという。
この3人が死に至ったあの満月の日、あの日、レイは何をしていただろうか。
何を考えていただろうか。



誰を想っていただろうか。



「……いいわ。亜美ちゃんが教えてくれた場所に行ってみましょう」

靄がかかり何も映し出さない鏡を鞄にしまい、立ち上がった。
その瞬間に目の前が真っ暗になって、プツリと身体の糸が切れた。



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Date:2014/11/03
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