【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑥

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑥

亜美ちゃんが言うには、レイちゃんの身体はひどく疲れているらしい。だけど体調自体に異常は見当たらないと言うことだった。美奈子はレイちゃんを背負って神社へと送り届けることにした。
「私が泊まって看病するわ。一度着替えを取りに帰るから、その間はお願いね」
「いや、私が見ておくからいいわよ。もう夕食の時間だから、亜美ちゃんは帰って」
意識を取り戻して、問題がないと言うのなら1人にさせて帰ろうと思ったが、亜美ちゃんはレイちゃんのことが心配で、放っておくわけにはいかないらしい。本人が大丈夫だと言ったとしても、聞きいれたりはしない感じだ。
「ママは夜勤だからいいの。レイちゃんが起きた時に何か口にするものがいるし、1時間くらいで戻ってくるから、その間はお願いするわ」
「………どうぞ」
するな、という明確な理由もなく、亜美ちゃんを送り出した。
ベッドに寝かせたレイちゃんは、青白い顔で眉間にしわを寄せたまま気を失っている。胸のリボンを解いて、ボタンを一つ一つ外した。反応はない。仕方がない。箪笥の引き出しを開けて、手当たりしだい何か着替えさせるものを探して、綺麗に折りたたまれているシャツと綿パンを取り出した。
「途中で目を覚ますんじゃないわよ」
どうせなら今起きてくれたらいいのに。軽く頬を叩いてみても反応はやっぱりない。美奈子はレイの靴下を脱がせ、スカートも脱がせ、なんとか綿パンを穿かせて。同じように上半身も、一度抱き起こして制服を脱がせて、迷った挙句にブラをはずしてシャツを脱がせた。
「………触ったら起きたかな」
制服をハンガーにかけてやり、鞄の中にしまっていた鏡を取り出し机の上に置いた。真実を映し出す鏡は、今は普通の鏡同様の働きしかしそうにない。
レイちゃんの正気を失った顔。もらった捜査資料の中には、3人とも死ぬ1か月前くらいから、体調不良を訴えていたと書かれてあった。死ぬ1~2週間ほど前にはそれぞれ通院歴もあり、それぞれが過労やストレスなどという診断しかされていない。
同じ道をレイちゃんは辿ろうとしているのだろうか。

これがレイちゃんの言う“純潔の呪い”であるのなら、それなりに法則があってしかるべきだ。風俗嬢でもない、ましてや恋も愛も身体の関係も、そういうものから逃げ出した場所で生きているはずのレイちゃんが、なぜ呪いを受けなければならないのだろうか。
レイちゃんは、自分が砂になって死んでしまうという運命が見えているなんていうことは、あるのだろうか。


「遅くなってごめんなさい」
「……あぁ。お帰り」
お泊まりするための準備と、サンドウィッチを入れたバケットを手にレイちゃんの部屋に戻ると、美奈子ちゃんはレイちゃんの頭を愛しそうに撫でていた。制服が脱がされてシャツを着せられている。さっきより顔色は良くなったが、まだ目を覚ましそうにはない。
「サンドウィッチ作って来たの。食べる?」
「あぁ。いや、遅くならないうちに私は、花嫁が現れた場所に視察に行ってくるわ。会えるなんて思ってないけど、何もしないよりは気が休まるから」
「そう」
大き目のバッグにはノートパソコンが入っている。さっき美奈子ちゃんが見せてくれた情報はすでに取り込んでおいた。レイちゃんが目を覚ますまで、解決の糸口を少しでも見つけることができれば。
「亜美………もし、本当に純潔の呪いなんていうものがあるとして」
美奈子ちゃんはレイちゃんの漆黒の髪を指にはさんで、そっと愛しそうに梳いた。
さらりと逃げ行く指の間の髪。

絡みついたりはしない。

「それを解くには、レイちゃんが愛する人に純潔を捧げるしかないってなった場合、どうする?」
「………そうなったら、レイちゃんは死を選ぶかもしれないわね」
今のレイちゃんはそう言われても多分、みちるさんに抱かれたいなんて思わないだろう。ますます、そんなことでみちるさんを巻き込ませまいとするに違いない。1人でひっそりと死を覚悟するはずだ。

それを亜美は止められないだろう。

「亜美はそれを黙って見ている?」
「意志を尊重したいもの」
「私なら、海王みちるが今誰と付き合っていようとも、誰を愛していようとも、力づくで従わせ、レイちゃんの前に連れて行く。レイちゃんを縛りあげてもいい」
「………それをレイちゃんは望んでいなくても?」
「そうよ」
火野レイを愛する愛野美奈子は、愛する人の命を救うためなら、どんな悪にでもなるのだろう。永遠に自分が愛されないという罪を背負うことを、誇りにさえ変えて。
「その後、レイちゃんは自殺するかもしれないわ」
「しないわよ。火野レイは自殺するほど愚かじゃないわ。知らない男からレイプされるわけじゃないんだから」
「でも、レイちゃんは自分を愛してくれない片想いの相手に、情けで抱かれることなんて絶対に望まない」
「レイが望むかどうかなんて、そんなのどうだっていいわ」
とても冷淡な彼女は、それでもレイちゃんが愛しいと瞳で語っている。レイちゃんが美奈子ちゃんを好きだったらよかったのに。そう思わずにいられないほど。
みちるさんがレイちゃんを幸せにしてくれる可能性よりも、美奈子ちゃんの方がずっとレイちゃんを幸せにしてくれそうだとさえ感じる。
だけど、レイちゃんはこの愛の光をどれほど浴びても、美奈子ちゃんが望まない限りは永遠に気づくことはないのだ。

片想いを貫く3人は複雑に絡み合っているように見えて、本当はひとつも堅結びなどできやしない。



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Date:2014/11/03
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